日本に住む外国籍人材へのサポートを強みとする西山温子氏(インテグラル法律事務所)。
アジア、アメリカ、ヨーロッパなど、世界各国出身の顧客を抱えています。
そんな西山氏に、弁護士を志したきっかけや、外国籍の方へのサポート、
SNSやメディアでの発信についてインタビューしました。
Q1. 西山先生が弁護士を目指したきっかけを教えてください。
父親から高校生のときくらいに、
「女性が社会に出るときに、資格を持っておくと強みになる」
と言われたことがきっかけです。大学は、法学部に進学。
法律の勉強は好きだったので、
司法試験を受けて弁護士になることを決めました。
そしてロースクールに通い、2009年に司法試験に合格。
そこから、5年間ほど都内の法律事務所に勤務しました。
以前勤めていた事務所では企業法務が専門で、
私は事務所内で契約書のレビューといった人ではなく
書面と向き合う作業を中心に行っていました。
私の性格として、
「作業だけでなく、依頼者ともっと話しながらサポートできたらな…」
という気持ちもありました。
そんな思いもあって、2016年に独立。
現在は、東京都千代田区半蔵門のインテグラル法律事務所に、
パートナーとして参画しています。
この事務所には、同世代の弁護士が多くいるので、
情報交換ができ、日々刺激をもらっています。
Q2. 西山先生の強みを教えてください。
外国籍の方、外国にルーツがある方が抱えている課題を解決することです。
年間の案件のうち、3分の1ほどが外国籍の方の案件です。
独立した当初、担当した刑事事件の被疑者が
在留期間を過ぎた外国籍の方だったことがきっかけでした。
刑事手続にとどまらず、在留期間を過ぎていたとしても、
日本に家族がいるなどやむを得ない事情がある場合は、
特別に在留資格を与えられる場合があります。
この在留特別許可の手続について、依頼をいただいたのです。
入国管理局とのやりとりなど、はじめてのことばかりで、
とにかくたくさん調べながら進めていきました。
このときに対応した外国籍の方が、私の名刺を知人に渡してくださり、
その後も同様の案件や外国籍の方にまつわる案件が増加。
現在は、私が外国籍の方とのやりとりに慣れていることを
知ってくださっている知り合いの弁護士の先生からの紹介や、
弁護士会で法律相談を担当するなどして、集客ができています。
また最近は、SNSの発信やWebメディアに出た影響で、
事務所に直接電話でお問い合わせをいただくこともあります。
Q3. 外国籍の方からのご相談内容は、具体的にどのようなものがありますか。
離婚問題や労働問題に関する相談が多い傾向にあります。
離婚問題は、女性からのご相談が特に多いです。
依頼者の女性が深刻なDVによってシェルターで過ごされている場合は、
シェルターまで赴くこともあります。
労働問題では、不当解雇や給与や
残業代の未払いなどのトラブルの対応をしています。
このような問題の解決に、国籍や文化の違いなどは関係ありません。
私のところへ相談に来られる方は、外国籍であっても、
日本人と同じサポートを必要とされている方々です。
ご相談いただく方の出身エリアは、アジア、アフリカ、
アメリカ、ヨーロッパなど、本当にさまざま。
日本に移住する方も年々増えているので、
多様な文化に触れながら、日々の業務を行っています。
Q4. 英語を習得するためにしたことや、コミュニケーションで意識していることはありますか。
もともと英語学習は好きでしたが、実は留学経験はありません。
依頼者と話しながらまさにOJT状態で英会話に慣れていきました。
文化の違う人たちとのコミュニケーションで大切なことは、
わかりやすく伝えること。これは、日本語でも英語でも同じです。
法律についての難しい英単語は、なるべく使用しないようにしています。
例えば、「調停」という言葉は、
英語では「arbitration(mediation)」なのですが、
説明ではこの単語は使わず、
「家庭裁判所に行って、第三者に話を聞いてもらいながら、話し合いで解決すること」
というように、かみ砕いた英語で伝えるようにしています。
法律用語をよく知っている方は日本でも海外でも少ないですし、
アジア・アフリカ出身で英語が母語でない方もいますので、
専門用語ではなく、分かりやすい説明をすることが重要です。
また、相手の話しやすい、聞きやすい言語を
見極めながらコミュニケーションをとることも意識。
なかには、英語でのコミュニケーションより日本語が得意な方もいるので、
依頼者に一番理解してもらえる言語を使い分けてたり、
両方の言語を使ったりしています。
Q5. SNSやWeb記事での発信をはじめたきっかけや、効果を教えてください。
SNSやWeb記事は、2021年くらいから本格的にはじめました。
SNSでは、特にTwitterで、国際的な人権問題の記事について、
私なりの視点・感想を投稿することが多いです。
また、夫がカナダ人なので、夫との会話から、
海外の方の視点から見た人権問題について発信するときもあります。
発信をはじめた当初からフォロワーは順調に増加し、現在は約3,600人。
フォロワーは士業の先生に限らず、海外の方、コメンテーター、
メディアの方など、国際的なトピックに興味を持たれている方が多い印象です。
Web記事は、南アジア出身の女性とその長女が、
警察署で不当な任意聴取を受けた案件に携わったときのことを、
いくつかのメディアに取り上げていただきました。
最初は、知り合いを通して共同通信の編集者からお話が来て、
その後ほかのメディアからも取材をしていただきました。
SNSやメディアによって、「外国籍人材の法律問題に強い弁護士」
というイメージが一気に広がったと感じています。
「Twitterを見ました」「記事を見ました」
と事務所に電話をいただき、案件になることもあります。
Q6. SNSやWebの発信で意識していることはありますか。
発信時に意識しているのは、
「私はこう思う」というニュアンスで伝えること。
「こうあるべき」という強い主張は避けています。
考えを押し付けるのではなく、
あくまで自分の意見として柔らかく伝えるようにしています。
加えて、特にTwitterでは、アンチコメントには
基本的に何も返さないようにしています。
フォロワーが1,000人を超えたくらいから
アンチコメントが来ることも増えてきましたが、
Twitterという限られた条件のSNSで
議論すべき内容ではないことも多く、
基本的に反論はしないようにしています。
Q7. 仕事のやりがいを教えてください。
一番は、依頼者に「西山さんに相談してよかった!」
と言っていただけたときです。
そのために、「今起こっている問題はなぜ起こったのか」を
理解することを常に心がけています。
また、話しやすい・相談しやすい関係性をつくるために、
面談はかしこまりすぎずカジュアルな対応を意識。
些細なことですが、明るく話しかけたり、
離婚問題を抱えている方であれば
お子さんも一緒に連れてきてもらったりするなど、
安心して相談してもらえるようにしています。
今後も、日本に移住する外国籍の方は増えていくと思いますし、
その方々が日本で安心して暮らすことができるよう、
サポートを続けていきたいです。
Q8. リフレッシュ方法を教えてください。
一つ目は、日本人と外国籍の方をつなぐコミュニティの運営です。
『HOME IN JAPAN』というコミュニティで、
日本全国、国籍も場所も関係なく所属できる団体です。
例えば世界各国のお菓子やボードゲームを持ち寄ってのイベントなど、
交流イベントを年4回程度開催。
楽しみながら異文化交流する機会を増やして、
少しでもお互いの理解が深まる機会になればいいなと思っています。
二つ目は、カラオケに行くこと。歌うことが大好きなんです。
趣味でヴォーカルトレーニングにも行っていて、
声を出してリフレッシュしています。
Q9. 座右の銘を教えてください。
座右の銘というと少し違うかもしれませんが…、
フランスの哲学者・ヴォルテールの言葉で、
「私はあなたの意見には反対だ。
だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」
というもの。意見が食い違うことは誰にでもありますが、
意見が違うからと言って、
相手の人格や発言の場を否定することはあってはならない。
相手をリスペクトすることを大切にしています。
- プロフィール
2010年に弁護士資格取得。
法律事務所勤務後、2016年に独立しインテグラル法律事務所にパートナーとして参画。
家事、労働、企業法務、事件など幅広く案件を手がける。
特に、日本に住む外国籍人材が関係する案件を得意としている。
約2,000人の賛同者が募る多文化コミュニティ『HOME IN JAPAN』を運営。