(本記事は、田口 佳史氏の著書『新・孫子の兵法』=大和書房、2022年2月24日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
クラウドの活用で大企業とも互角に戦える
企業の社会的評価の向上とは何か。もちろん企業活動においては、優れた製品・サービスを世の中に提供することで社会的評価を高めていくのが、第一のセオリーです。しかし、それ以外の活動によっても、企業の社会的評価を高めることができる。
テクノロジーによる革新は、その最たるものでしょう。
過去30年を顧みるとき、大きな進歩を遂げた技術をあげるなら、1つは「人間の代わりを務める技術」です。
4章の形篇でも触れましたが、私のような昭和を生きた人間には、駅の自動改札が象徴的に思えます。ついこのあいだまで、駅員さんが改札に立ち、乗客が差し出す切符1枚1枚にハサミを入れる光景が日本にはありました。それが今では、すっかり自動改札によって代替されています。
加えて言えば、切符がICカードに変わったことで、「乗車するたびに切符を買う」という面倒な行為そのものが廃れ、なおかつ、電車のみならずバスやタクシーまで、同じICカードで利用できるようになりました。ICカードが使えない乗り物は飛行機が残るばかり。このように、新しい技術は新しいサービスが生まれる土壌にもなります。
事業活動を代替する技術も多く登場しています。例えば、11章の九地篇でも言及した「クラウド」の技術です。
クラウドは、従来多くの人手と費用がかかっていたデータの保存や勤怠管理、社内のスケジュール管理、タスク共有、そのほか各種のバックオフィス業務における負担を、代替してくれる技術だといえるでしょう。それでいて、わざわざ特別な機器やシステムを導入する必要はありませんし、専任の担当者もいりません。毎月定額を支払うのみで、インターネットを通じて必要なときに、必要なだけのサービスを利用できるのです。
これがいかに革新的なことか。クラウドサービスの分野で世界トップシェアを誇るアマゾンの「AWS」について、アマゾンのアンディ・ジャシー氏がこんなことを語っていました。「世界的大企業と同じインフラストラクチャーを、寮に住む大学生が使える世界を考えたのです。大企業と同じコスト構造が持てるというのは、スタートアップや小企業にとって互角に戦える場ができるということですから」(『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』ブラッド・ストーン著/日経BPより)。
クラウドを使いこなせれば、スタートアップや中小企業も、大企業と同等のITインフラを手にできる。ならば、優れた製品・サービスの開発競争においても、大手との差を縮められるに違いありません。最初のうちは慣れない技術に四苦八苦するかもしれませんが、その恩恵の大きさを思えば、苦労する価値はあります。
これこそ、戦力に劣る者が頭を使って短期で勝利をおさめるという、現代における「火攻」といえます。
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