新・孫子の兵法
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(本記事は、田口 佳史氏の著書『新・孫子の兵法』=大和書房、2022年2月24日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

「七計」でライバルとの戦力を比較する

五事を軸に、会社を強化するポイントを見定めたら、次は「他者との比較を行え」と孫子は説いています。

そのための7つの視点を、「七計」といいます。

ビジネスに置き換えて考えてみると、オンリーワン企業以外は、ライバル企業との競合が避けられません。そのとき、自社とライバルを比べて、どこが優れていて、どこが劣っているのかを把握することは、きわめて重要です。そこで弱点が見つかっても、それはそれでよし。弱点は補強し、強みはさらに伸ばしていく。この作業を繰り返すことで、会社は成長していきます。

次にあげる七計の内容に沿って、自社と競合他社を比較してみましょう。

①君主に道義はあるか

孫子の言葉に忠実に訳すなら「君主に道義はあるか」なのですが、ここでは「魅力的な企業理念を設定できているか」と読み換えましょう。

前述のように、魅力的な企業理念のもとに、人は集まります。ただし「世のため人のために尽くそう」と立派な志を持っていても、それをトップがうまく表現できなければ説得力を持たず、人々に届きません。その意味では、トップの言語能力、プレゼン能力もここではキーとなります。

②幹部の能力はどうか

先ほどはミドル層でしたが、ここでは、有能な「役員」の有無をチェックします。前述の智・信・仁・勇・厳を備えた幹部が、ライバル企業と比べて多いか少ないかをチェックしましょう。

③勢いはどうか

孫子は、「強い組織には勢いがあり、勢いがある分だけ、戦いを有利に運ぶことができる」と説いています。前述の、天の時、地の利は、その勢いをつくり出すための重要な要素。この2つを満たしている企業は、前向きなエネルギーに満ちあふれていて、「これから伸びるぞ」と期待させるものがあります。勢いの大切さについては、5章の勢篇で、より詳しく見ていきましょう。

④組織力・団結力はあるか

先ほどあげた、組織のルールがきちんと守られているかどうかです。そのほか、細かい職務規定や、守るべき法律などが守られていないと、組織としての力は発揮されず、バラバラの個性を持った個人の集まりでしかなくなってしまいます。組織が一丸となっているかどうかをチェックしましょう。

⑤ミドルに胆力はあるか

ミドルに求められるものは、煎じ詰めれば、日々の悪戦苦闘から「逃げない、あきらめない、くじけない」粘り腰です。

⑥一般社員の訓練は行き届いているか

一般社員の教育、トレーニングは、会社の強さをつくる要素です。仮に、素材としては素晴らしい人材を揃えていても、日々の訓練がなければ宝の持ち腐れに。ここは決して社員の自助努力に任せず、会社として訓練のチャンスを提供し続けることが、大切です。

⑦査定力はあるか

これはずばり、報酬や役職のことです。ライバル企業に劣らない給料を払っているか、優れた仕事をした社員を評価し、上のポジションに上げているかどうか。当然ながら、社員にしてみれば、より高く評価してもらえる組織のほうがモチベーションは高くなるのが道理です。

「兵は詭道(きどう)なり」の本当の意味

最後に、「兵は詭道なり」という言葉を、計篇の柱として紹介したいと思います。

詭とは「欺く」という意味です。生きるか死ぬかの戦争を戦うにあたっては、「敵を騙すことも重要な戦略だ」と孫子は説いています。

ただ、この言葉のみを取り上げて「とにかく汚い手を使え、相手の裏をかけ」と読んでしまうのは、現代にふさわしくない。ビジネスにおいては、競うばかりが能ではありません。むしろ、多くの企業と手を組み、お互いの力を持ちよってイノベーションを生み出すことも、同じぐらい大切です。

新・孫子の兵法
田口 佳史 (たぐち・よしふみ)
1942年東京生まれ。東洋思想研究家。イメージプラン代表取締役会長。新進の 映画監督としてバンコク郊外で撮影中、水牛二頭に襲われ瀕死の重傷を負い入院。生死の狭間で「老子」と運命的に出会い、「天命」を確信する。「東洋思想」 を基盤とする経営思想体系「タオ・マネジメント」を構築・実践、延べ一万人超の企業経営者・社会人・政治家を育て上げてきた。第一人者として政財界か らの信任は厚い。東洋と西洋の叡智を融合させ「人類に真の調和」をもたらすべく精力的に活動中。配信中のニュースレターは海外でも注目を集めている。 田口佳史公式サイト https://www.tao-club.net

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