(本記事は、田口 佳史氏の著書『新・孫子の兵法』=大和書房、2022年2月24日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
部下が自ら本番に挑みたくなるように鍛えよ
孫子は、こんなことも言っています。
「勝利は勢いによって得るものであって、個人の勇気や能力を頼みにしてはいけない」
これは、経営者なら特に肝に銘じておきたい言葉です。どんな場合であっても、社員を責めてはいけない。会社自体に勢いをつけることだけ考えろと孫子は言うのです。
会社に勢いがあり、誰もがうまくいくと確信して仕事に取り組める状況にあれば、社員の目はみるみる変わっていきます。リーダーが指示を出すまでもなく、やるべき仕事に果敢に挑むようになるでしょう。
まさにこの本を通じて伝えている、「誰もが起業家たれ」という言葉のごとく、社員1人1人が自立して行動できる組織になるわけです。
「木や石は、平坦なところでは動かないが、ひとたび急な坂の上などに置けば、勝手に勢いよく転がり出す」と孫子には書いてあります。
では、社員たちはどうしたら、勝手に転がり出すようになるでしょう。現実には、その正反対の社員ばかりが目につくかもしれません。例えば、やけに腰の重い営業部員が、身近にいないでしょうか。外を回って仕事を取ってくるのが営業の仕事のはずなのに、会社に勢いがないと「営業はつらい、しんどい」と言って、社内業務ばかりやりたがる。いつも8割方の社員が社内にいるというような営業部では、会社は儲かりません。
そこで1つ、いい方法があります。それは、「磨いた力を、試してみたい」と社員に思わせることです。
スポーツがよい例です。厳しい練習をした後は、試合で腕試しをしたくなる。技量が卓越すればするほど勝負してみたくなる。試合ができないなんて、つまらない。そう思うようになります。
営業マンだって同じです。普段は外回りを尻込みしている社員も、「こうしたら勝てるんだ」と確信できるまでに営業戦略を練り、準備を整えさせたら、それを実践してみたくなるのです。
余談ですが、ソニー創業者の1人である盛田昭夫さんは、トップセールスに徹した人でしたが、商談の場には、現場の営業マンを同席させていました。そうして、営業のコツを学ばせ、大きな商談がまとまるときのドラマを体験させ、感動させる。そして「自分もやってみたい」と思わせる。会社を勢いづかせるリーダーの姿とは、そのようなものです。
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