今、海外で注目を集める ジャパニーズウイスキー銘柄
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(本記事は、土屋 守氏の著書『ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー』=祥伝社、2020年10月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

今最もおもしろいジャパニーズウイスキー

現在、世界中でウイスキーブームが起きています。なかでも活況なのが、アメリカのクラフトビールブームからはじまったクラフトウイスキーです。クラフトウイスキーの波はスコットランド、アイルランド、さらには日本へも打ち寄せ、国内の各地でクラフト蒸留所が誕生しています。

日本のクラフトウイスキーは、すでに海外から高い評価を得ています。とりわけ、肥土伊知郎さんが創業したベンチャーウイスキーの「イチローズモルト」は世界中に熱心なファンがいます。

ベンチャーウイスキーは、埼玉県の秩父市に蒸留所をかまえるクラフトウイスキーメーカーです。2019年8月に行なわれた香港ボナムスのオークションでは、イチローズモルトのカードシリーズ54本セットが、約9750万円(719万2000香港ドル)で落札されました。これは日本産ウイスキーの落札額としては過去最高となります。

カードシリーズは、それぞれ異なる樽で熟成された原酒が瓶詰めされています。ボトルにはトランプのカードを模したラベルが貼られ、2005(平成17)年から2014(平成26)年にかけて順次発売されました。54本すべてがそろったフルセットは世界に数セットしかないといわれ、とても貴重です。そうはいっても、発売時の価格は1本平均で1万5000円、54本そろえても81万円です。それがおよそ120倍になったわけですから、いささか異常にも思えます。

一方、大手メーカーも負けてはいません。2020年、サントリーが「山崎55年」の発売を発表すると、テレビや新聞などで大きく取り上げられました。山崎55年について、サントリーのホームページでは次のように説明されています。

山崎蒸溜所で55年以上熟成を重ねた希少な山崎モルト原酒の中から、1964年蒸溜のホワイトオーク樽原酒や1960年蒸溜のミズナラ樽原酒など、熟成のピークを迎えた原酒を厳選し、匠の技で丁寧にブレンドしました。

価格は1本300万円で100本限定。予約が殺到することが予想されたため、抽選販売という形が取られました。

「1本300万円のボトルに注文が殺到するなんてことがあるの?」と、びっくりされた方もいるでしょう。けれど、昨今のウイスキー人気を少しでも知っている方なら、抽選販売もやむなしと思ったはずです。私自身、1万件の申し込みがあってもなんら不思議はないと思っていました。

サントリーは2005年に山崎50年を50本限定で発売しています。価格は100万円。これが、2018(平成30)年に行なわれた香港サザビーズのオークションに出品され、約3800万円で落札されたのです。山崎55年をオークションに出せば5000万円くらいの値はつくでしょう。今、ウイスキーは投資の対象にもなっています。ゆえに、応募数が1万件を超えることもありうるといったのです。新聞社や週刊誌からの問い合わせにも、そのように回答していました。

ところが、です。

応募受付が終了したある日、サントリーの関係者からこういわれてしまいました。「土屋さん、申し込み件数は1万どころじゃありませんでしたよ。実際には20万件の応募がありました」。実際、その後、2022年6月には、アメリカのオークション大手サザビーズで1本60万ドル、日本円にしておよそ8100万円で落札されています。ジャパニーズウイスキーの人気を、誰よりも私が過小評価していたようです。

ただ、ジャパニーズウイスキーはずっと順調だったわけではありません。1984(昭和59)年から2008(平成20)年にかけて、国内のウイスキー市場は大きく落ち込みました。何をつくっても、どう宣伝しても売れない。そんな冬の時代があったのです。

ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー
著者:土屋 守(つちや まもる)
作家、ジャーナリスト、ウイスキー評論家、ウイスキー文化研究所代表。1954年、新潟県佐渡生まれ。学習院大学文学部国文学科卒業。フォトジャーナリスト、新潮社『FOCUS』編集部などを経て、1987年に渡英。1988年から4年間、日本語月刊情報誌『ジャーニー』の編集長を務める。取材で行ったスコットランドで初めてスコッチのシングルモルトと出会い、スコッチにのめり込む。日本初のウイスキー専門誌『The Whisky World』(2005年3月‐2016年12月)、『ウイスキー通信』(2001年3月‐2016年12月)の編集長として活躍し、現在はその2つを融合させた新雑誌『Whisky Galore』(2017年2月創刊)の編集長を務める。1998年、ハイランド・ディスティラーズ社より「世界のウイスキーライター5人」の一人として選ばれる。主な著書に、『シングルモルトウィスキー大全』(小学館)、『竹鶴政孝とウイスキー』(東京書籍)ほか多数。

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