意外と知らない 「ウイスキー」「ブランデー」「ジン」3つの蒸留酒の違い
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(本記事は、土屋 守氏の著書『ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー』=祥伝社、2020年10月1日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

◎「ウイスキー」と「ブランデー」や「ジン」は何が違うのか

同じ蒸留酒でも、ウイスキーとほかの蒸留酒には、明確な違いがあります。その違いは何かというと、次の三つです。一般的にこの条件をクリアした酒類がウイスキーと定義されます。

【ウイスキーの一般的な定義】

①大麦、ライ麦、小麦、オート麦、トウモロコシなどの穀物を原料としていること
②糖化・発酵・蒸留を行なっていること
③蒸留によって得られた原酒を木製の樽に貯蔵し熟成させていること

以上の条件に照らし合わせてみると、蒸留酒のジンやウォッカは木樽熟成を行なわないため、ウイスキーとは呼びません。また、ブランデーは蒸留酒でなおかつ木樽熟成を行ないますが、原料がブドウ、つまり穀物ではないので、ウイスキーとは別の酒となります。

ただし、ウイスキーの定義は国によってもさまざまです。原料の比率や熟成年数などについて、さらに細かく規定されている国も少なくありません。

◎ウイスキーの分類 その1:「モルト」と「グレーン」

さて、上記の「ウイスキーの一般的な定義」にあるように、ウイスキーは大麦、ライ麦、小麦、オート麦、トウモロコシなどの穀物を原料としていますが、スコットランドやアイルランド、日本では、主に「モルトウイスキー」と「グレーンウイスキー」がつくられています。

【モルトウイスキー】

大麦を水などに浸けて発芽させたものを大麦麦芽といいます。モルト、あるいは単に麦芽ともいい、この大麦麦芽のみを原料とするウイスキーがモルトウイスキーです。

モルトウイスキーは、一般的に次のような工程でつくられます。

● モルトウイスキーの製造の流れ

①糖化…… 大麦麦芽を粉砕して糖化槽(マッシュタン)と呼ばれる大きな容器へ移します。お湯を入れて攪拌すると、大麦麦芽に含まれた酵素の働きにより、大麦のデンプンが麦芽糖などの糖に変化します。糖化して得られた液を麦汁(ワートまたはウォート)といいます。

②発酵…… 麦汁を冷却して発酵槽(ウォッシュバック)と呼ばれる容器へ。そこへ酵母を投入すると、酵母が麦汁の糖分を食べることで、麦汁がアルコールと炭酸ガスに分解されます。発酵を終えるとアルコール度数7~9%の発酵液ができあがります。これをもろみ、英語ではウォッシュといいます。

③蒸留…… もろみを蒸留器(蒸留釜、ポットスチルとも)へ移し、蒸留します。モルトウイスキーの場合、蒸留するたびにもろみを入れ替えるバッチ式蒸留法が用いられます。バッチ式蒸留法で用いられる蒸留器を単式蒸留器といいます。蒸留器は蒸留所によって形、大きさが異なり、一つとして同じものはありません。

蒸留は通常2 ~3回行なわれ、1回目の蒸留を初留、2回目の蒸留を再留といい、再留を終えた無色透明の液体はニューポット(ニューメイク・スピリッツとも)といいます。

④熟成…… ニューポットを木製の樽に詰め、熟成させます。

モルトウイスキーはグレーンウイスキーに比べて原料や発酵・蒸留に由来する香味成分が豊富で個性が強いことから、「ラウドスピリッツ」と呼ばれます。

【グレーンウイスキー】

トウモロコシや小麦、ライ麦など、大麦麦芽以外の穀物も使用してつくられるウイスキーがグレーンウイスキーです。原材料を糖化・発酵・蒸留して熟成するという工程は、モルトウイスキーと同じです。

ただし違いもあり、モルトウイスキーでは単式蒸留器で蒸留が行なわれますが、グレーンウイスキーでは、もろみを連続的に投入できる連続式蒸留機で蒸留が行なわれます(例外もあります)。

連続式蒸留機で蒸留すると香味成分が乏しくなるため、グレーンウイスキーは「サイレントスピリッツ」と呼ばれます。グレーンウイスキーのほとんどはブレンデッドウイスキーの原酒として生産されており、グレーンウイスキーがそのまま製品化されることはあまりありません。

◎ウイスキーの分類その2:「シングルモルト」「ブレンデッド」

ウイスキーに少しでも興味がある方であれば、「シングルモルト」「ブレンデッド」という言葉を聞いたことがあるはずです。モルトウイスキー、グレーンウイスキーは、製造方法によってさらに、シングルモルト、ブレンデッドなど五つの種類に分けられます。

【シングルモルト】

▷ウイスキーは通常、複数の樽の原酒を混ぜ合わせて味を調整しています。この際、単一(シングル)の蒸留所でつくられたモルトウイスキー(モルト原酒)のみを混ぜて瓶詰めしたものがシングルモルトです。また、シングルモルトのうち、一つの樽の原酒だけを瓶詰めしたものを「シングルカスク」といいます。

【シングルグレーン】

▷単一の蒸留所でつくられたグレーンウイスキー(グレーン原酒)だけを瓶詰めしたもの。

【ブレンデッドモルト】

▷複数の蒸留所のモルト原酒を混ぜて瓶詰めしたもの。ヴァッテッドモルトともいいます。

【ブレンデッドグレーン】

▷複数の蒸留所のグレーン原酒を混ぜて瓶詰めしたもの。ヴァッテッドグレーンともいわれます。

【ブレンデッド】

▷ブレンダーと呼ばれる職人が、複数の蒸留所でつくられたモルト原酒とグレーン原酒を数種類から数十種類混ぜ合わせ、それを瓶詰めしたもの。

有名どころとしては、ジョニーウォーカー、シーバスリーガル、バランタインなどがあります。サントリーのサントリーオールド、トリス、響、ニッカのブラックニッカ、スーパーニッカなどもブレンデッドウイスキーです。

モルトウイスキーはグレーンウイスキーに比べて、気候や立地など、環境のわずかな違いにも大きな影響を受けます。その傾向はシングルモルトではとりわけ顕著となり、ゆえにシングルモルトは「土地が育む酒」と表現されます。一方、ブレンダーが匠の技で生み出すブレンデッドは「人がつくる酒」といわれます。

1980年代後半から、世界ではシングルモルトがブームとなっています。しかしながら、世界の市場を見れば主力は依然としてブレンデッドです。ウイスキーの代表ともいえるスコッチ(スコットランドでつくられるウイスキー)全体の消費量でいえば、シングルモルトが1割強、ブレンデッドが9割弱と、ブレンデッドが圧倒的優勢となっています。

ビジネスに効く教養としてのジャパニーズウイスキー
著者:土屋 守(つちや まもる)
作家、ジャーナリスト、ウイスキー評論家、ウイスキー文化研究所代表。1954年、新潟県佐渡生まれ。学習院大学文学部国文学科卒業。フォトジャーナリスト、新潮社『FOCUS』編集部などを経て、1987年に渡英。1988年から4年間、日本語月刊情報誌『ジャーニー』の編集長を務める。取材で行ったスコットランドで初めてスコッチのシングルモルトと出会い、スコッチにのめり込む。日本初のウイスキー専門誌『The Whisky World』(2005年3月‐2016年12月)、『ウイスキー通信』(2001年3月‐2016年12月)の編集長として活躍し、現在はその2つを融合させた新雑誌『Whisky Galore』(2017年2月創刊)の編集長を務める。1998年、ハイランド・ディスティラーズ社より「世界のウイスキーライター5人」の一人として選ばれる。主な著書に、『シングルモルトウィスキー大全』(小学館)、『竹鶴政孝とウイスキー』(東京書籍)ほか多数。

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