9月に開設した岡山県玉野市立学校給食センター
(画像=9月に開設した岡山県玉野市立学校給食センター)

岡山県玉野市は市内2カ所の学校給食調理場の老朽化に伴い、1日3800食分を調理し、市内小学校14校・中学校7校に配送する玉野市立学校給食センターを9月に開設した。市単体ではなく、民間企業の資金とノウハウを活用し、施設設計や維持管理・運営までを委託するPFI方式を採用。学校給食に関わる企業各社がプレゼンテーションを行った結果、選ばれたのがシダックス大新東ヒューマンサービス㈱を代表企業とした(株)玉野市学校給食センターである。同社は、玉野市が推進する「良質な学校給食の提供」をどのように具体化したのか。給食センターを訪問し、同社の泥谷崇(ひじや・たかし)統括責任者と市の学校給食担当者である宇山哲司所長に話を聞いた。また、同社の学校給食事業本部の持田美枝本部長にリモート取材も行った。玉野市立学校給食センターの特徴と同社の強みと掘り下げる。

〈豊富な実績と衛生管理・アレルギー対応のノウハウ〉
岡山県玉野市は県の南端、瀬戸内海沿岸に位置する市だ。近くには漁港があり、恵みの海と豊かな自然が魅力的な都市である。給食センターは瀬戸内海沿岸の高台にあり、外観は青と白を基調とした爽やかなデザインで、正面には、ヨットと海をイメージした看板があるのが斬新だ。宇山所長は「この設計デザインもシダックス大新東ヒューマンサービス(株)さんの提案だった。玉野市の風土や、市民から愛されるセンターにしたいという市の意向も考えていて、好感が持てた」と語った。

プレゼンの結果、同社を選んだ理由を尋ねると、「給食調理受託業務とPFI事業の豊富な実績を評価した。衛生管理やアレルギー対応に関する知識・ノウハウがあり、その経験を信用して、仕事を安心して任せられると思った」と説明した。

左から、泥谷統括責任者と宇山所長(持田美枝本部長はリモート取材)
(画像=左から、泥谷統括責任者と宇山所長(持田美枝本部長はリモート取材))

同社は現在、全国約220の自治体で、給食センター方式、公立小中学校の自校式含め、計約500カ所の学校給食の受託実績がある。持田本部長は「全国で年間約7400万食提供する中で、創業以来当社が起因とする食中毒事故ゼロを継続中。給食調理に必要な、衛生管理、人材育成、調理技術の3つの専門分野の体制構築がしっかりできており、教育・研修体制やフォロー体制も確立している。そうした点が自治体様から評価されていると思う」と強みを語った。

特に、衛生管理については、学校給食調理受託業務に特化した独自マニュアルを作成するなど、こだわりを見せる。「目的は、標準化だ。文科省の『学校給食衛生管理基準』に即しつつ、これまでの事故・インシデントの事例も加えながら作成した。特に、新人教育や業務の重要ポイントを振り返る資料として活用する。このマニュアルを基本に据えて学校給食部門全体の衛生管理を高めながら、各自治体・各施設の個別のマニュアルにつなげていく」(持田本部長)。

今後は、「手の洗い方」や「異物混入対策」などについて動画マニュアルも作成し、分かりやすさを向上させる。調理従事者がいつでも、どこでも見て確認できる環境整備にも取り組むという。

〈HACCP方式の導入やアレルギー食調理室、食育会議室の設置〉
次に、泥谷統括責任者に給食センターの特徴を尋ねると次の4つが挙がった。

1つ目は、HACCP方式による安心・安全な衛生管理と作業工程。床を乾いた状態に保つドライシステムを導入し、洗浄後の食器類をコンテナの庫内で消毒保管しそのまま配送が可能な「天吊式消毒装置」など、設計段階からHACCP方式に対応した設備を導入した。「60年以上にわたるシダックスグループのフードサービス事業で培ってきた独自の衛生管理手法も加え、安心・安全を徹底している」。

2つ目は、最新鋭の設備導入。上下コンベア方式で食材を裏返すことなく、衣付き食材や冷凍食品までカラッと調理できる「連続式揚物機(ノンフード式)」を導入するなど最新鋭の設備を揃えた。

3つ目は、アレルギー食調理室。市の要望である「子どもたち全員に同じ給食を提供したい」を実現するため、検品、食材保管から下処理、調理、盛り付けまで一括作業できるアレルギー食調理室を設置。1日50食まで調理可能。

アレルギー食調理室
(画像=アレルギー食調理室)

4つ目は、食育推進に活用可能な会議室。「給食センターを、給食を作る場所だけでなく、市民への食育発信基地にもしたい」という市の要望を受けて、中学生向けの「職場体験実習」や地域の皆様を対象にした「試食会」など、食育推進のスペースとして活用する。

〈給食センターで食育、給食への興味育む〉
開設から2ヶ月が経ち、小学生や市民団体の給食センター見学も数回実施された。センター内には、ガラス張りの調理室見学コーナーがある。調理員の目の高さで子どもたちが見学することを想定して設計されており、まるで調理室内にいるような臨場感が味わえる。泥谷統括責任者は「食育施設があることで児童との交流機会が生まれた。実際の調理現場を見て、調理道具を触って給食への興味を育むことができる。乗り出して調理室をじっと見つめる子どもや質問をずっと投げかけてくれる子どももいた。見学メモには、『残さずいっぱい食べる』と嬉しい言葉を記入してくれた子どももいた。一生懸命作っている調理員の姿を見て、残食が減り、食育につながれば嬉しい」と笑った。また、持田本部長は「シダックスグループでは季節を感じるオリジナル紙芝居を制作し、保育園・幼稚園に贈呈するなど、食育に注力している。これからも、自治体様や子どもたち、保護者の興味をそそるような食育活動を展開したい」と意欲を示した。

〈市とシダックスの連携で良質な学校給食の提供へ〉
開所後、子どもたちへの聞き取りアンケートでは、給食がおいしくなったという意見があるそうだ。

宇山所長は「施設が新しくなり、子どもも、保護者も、この給食センターに期待している。玉野市の学校給食を作る1つのチームとして、魅力あふれる給食を作っていきたい。そのためには、アレルギー対応や食育推進も含め、シダックスさんの協力・連携が不可欠だ。みんなで良質な学校給食の提供を目指し、頑張っていきたい。子どもたちにもどんどん見学に来て欲しい」と抱負を語った。

泥谷統括責任者は「子どもたちに安心・安全でおいしい給食を届けることを一番に考えて、大人になった時に、給食おいしかったねと言われるよう頑張っていきたい」と意気込みを語った。

持田本部長は「飽食の時代で何でも手に入る時代だからこそ、食事を通して生きる力をつけることは大事だ。食べることは生きること。この部分に携われることは当社の誇りである。学校給食を無くしてはいけない。日本古来の食文化、命の尊さを理解して給食を作り、子どもたちに食べてもらい、つないでいきたい。そのためには人材育成が大事。民間委託が進む中で、民間業者として、給食をつくる人材をしっかり育成していきたい」と強い使命感を語った。

シダックスグループは今後も、子どもたちのための安心・安全な学校給食の提供に取り組み学校給食事業・食育事業を拡大していく考えだ。