慢性的な人手不足や長時間労働など、解決していかなければならないさまざまな課題がある建設業。そこに輪をかけるように、日本が直面している超高齢社会の影響も2025年に顕在化するとされている。本記事では、建設業にも大きな影響がある2025年問題の内容やその対応策などについて解説する。国土交通省が推進する各種対応策も併せて紹介するので、自社の経営改善に役立てて欲しい。

目次

  1. 建設業の2025年問題とは
    1. 建設業で深刻な人材不足が進んでいる
  2. 建設業界が抱えている課題6つ
    1. 1.長時間労働と年間出勤日数の多さ
    2. 2.若手不在による業界の高齢化
    3. 3.賃金の低さとピーク年齢の若さ
    4. 4.建設業界ならではの慣習
    5. 5.職人をはじめとする人材育成の遅れ
    6. 6.アナログ的な経営
  3. 建設業の2025年問題に対する5つの解決手段
    1. 1.建設業界のイメージアップ
    2. 2.給与体系の改善
    3. 3.労働環境の改善
    4. 4.工期設定の適正化
    5. 5.DXの推進
  4. 建設業についてのQ&A
    1. 建設業の2030年問題は?
    2. 建設業界の人手不足対策は?
  5. 2025年問題に向けて自社の現状分析にまず注力しよう
  6. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ
【2025年問題】建設業界が直面する深刻な人材難にどう立ち向かうべきか
(画像=godfather/stock.adobe.com)

建設業の2025年問題とは

建設業への時間外労働の罰則付き上限規制適用が2024年4月1日に迫る中、建設業は2025年問題という大きな課題も抱えている。

建設業で深刻な人材不足が進んでいる

日本では少子高齢化が進んでおり、15歳〜65歳の生産年齢人口が1995年をピークに減少し続けているのは周知の事実だ。

【2025年問題】建設業界が直面する深刻な人材難にどう立ち向かうべきか
画像:国土交通省『建設産業の現状と課題』P. 1より引用

2025年には、約800万人の団塊の世代が75歳以上になり、全ての地域で2010年に比べて人口が減少するとされ、超高齢社会の到来によって社会保障費の負担増大などの懸念が生じている。

日本のインフラや民間建築物は、老朽化はもちろん地震などの災害によるダメージも蓄積し、維持修繕工事が年々増加することが見込まれている。そして、2025年には建設業でもベテラン層の大量退職による人手不足が発生すると予測されている。

また、建設事業の許可事業者数も1999年の60万者から2021年前末には約47万者に減少しており、そもそも事業を営む者が減っている状況だ。

建設業界が抱えている課題6つ

建設業界は、他の産業に比べて慢性的な課題を6つ抱えている。

1.長時間労働と年間出勤日数の多さ

国土交通省の資料『最近の建設業を巡る状況について』によると、建設業の年間実労働時間と年間出勤日数は2014年から減少してはいるものの、調査した全産業の平均である調査産業計より年間労働時間は346時間、年間出勤数は30日ほどと、かなり負担が大きいことが分かる。

【2025年問題】建設業界が直面する深刻な人材難にどう立ち向かうべきか
引用:国土交通省『最近の建設業を巡る状況について』P.7より引用

また、2020年の『日建協時短アンケート』によると、建設工事全体の約4割が4週4休以下で働いていることが確認されている。労働基準法では、会社側は労働者に対して4週4休以上の休みを与えることが義務付けられているが、アンケート回答企業においての現状とはいえ休暇が取りにくい業界であることが分かる。

2.若手不在による業界の高齢化

建築業界の年齢階級別の就労状況は、2021年の総務省『労働力調査』によると以下の通りだ。

【2025年問題】建設業界が直面する深刻な人材難にどう立ち向かうべきか
画像:総務省『労働力調査(2021年)』のデータを引用して筆者がグラフ作成

男性の就労者数に着目すると、50歳以上の高齢者層が195万人であり男性の全年齢の約半数を占めている一方で、10代〜20代の若手層は48万人と全体の12%程度であり、若手人材の不足が深刻化している。一般的な定年にあたる60歳以上が25%ほどであることから、ベテラン層の退職によって人手不足がさらに常態化することになろう。

また、女性の就労者数の少なさがひときわ目立ち、建設現場での作業者は男性が圧倒的に多い。

3.賃金の低さとピーク年齢の若さ

建設業の年収は業界全体で見た場合、類似した業界である製造業よりも低い。2016年のデータではあるが『賃金構造基本統計調査』によると、平均年収額は以下の通りだ。

【2025年問題】建設業界が直面する深刻な人材難にどう立ち向かうべきか
引用:国土交通省『建設産業の現状と課題』P.21より引用

建設業界は小規模企業数が製造業よりもはるかに多い業界構造であり、大規模企業では製造業よりも給与が高いが、中規模以下の企業まで含めた給与平均額は低い。

なお、建築業界の賃金が上昇傾向にあり、2019年には建設業男性全労働者の給与は製造業を超えている。しかし、生産労働者は依然として製造業よりも低いのは変わらない。また、建設業の就労者の賃金ピークは45歳〜49歳であり、現場作業の評価を重視し、マネジメント層の評価が低い傾向がある。

4.建設業界ならではの慣習

建設業界でもデジタル化は進められてはいるが、建設業の許可申請はもちろん土木・建設工事の契約書や各種申請書、設計図など膨大な書類があるためペーパーレス化が遅れている。

さらに、高齢者が多く職人文化が色濃い工事現場では、行き過ぎた指導などがパワハラにつながることもある。

5.職人をはじめとする人材育成の遅れ

建設工事の現場ではICT化が進みつつあるが、全ての業務をデジタル化できるとは限らない。大工やとび、左官や内外装などといった職人としての経験が必要な職種では、一人前として業務に対応できるのに5年から10年はかかるとされている。

しかし、職人たちの高齢化が進む中、20代などの若手層を育成するだけの十分な時間が確保できず、人材育成は遅れている。

6.アナログ的な経営

建設業は小規模企業の従業員数が大半であり、一人親方と呼ばれる会社に属さない技能者も多数いる。それに加えて、工事に使用する原材料費の高騰なども重なり、IT化に取り組むだけの予算がないのが実情だ。

また、そもそもデジタル技術の活用が難しい一面があるため、従来のアナログ的な経営から脱しにくい状況である。

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建設業の2025年問題に対する5つの解決手段

2025年問題による建設業の担い手の減少に歯止めがかからない中、建設業者にはどのような対策が求められるのだろうか。ここでは、5つの解決手段を紹介する。

1.建設業界のイメージアップ

建設業界は、労働時間の多さや職人気質の厳しい現場など、古くからある「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージが払拭できていない。また、建設業界への就職を子どもたちに勧める人が少ないという現状がある。

イメージアップのためには建設業界が抱える課題の解決も重要だが、建設業の魅力を伝えることも欠かせない。

国土交通省では、建設業の存在意義である「日本の国土・まちをつくる・まもる」を前提に、建設業のリブランディングを進めているところだ。現場で働く人に焦点を当てた広報や、建設現場のイメージ映像の発信など、インターネットやSNSを活用した情報発信にも取り組んでいる。

個々の事業者にできることは限られるが、大成建設の新海誠監督とのコラボCMに代表されるように、業界全体としてイメージアップに取り組む必要があるだろう。

2.給与体系の改善

建設業界の給与体系は、体力のピークである40代が給与のピークでもある。つまり、現場でいかに働けるかが給与額に直結しているという問題を抱えており、個人の技能やマネジメント力などの評価が給与に反映され難い。

国土交通省は、工事に関わっている技能者の資格情報や就業履歴などのデータを収集・蓄積するための「建設キャリアアップシステム」の導入を推進している。これにより、技能者の客観的な評価や給与待遇への反映はもちろん、キャリア構築に欠かせないスキルアップの計画を立てることもでき、若手層の定着率の向上が期待されている。

・システムをどう活用するかが求められる

建設キャリアアップシステムへの技能者の登録者数は、2022年5月時点で90万4,000人と増加傾向だ。経営者は、システムを利用するのはもちろんだが、得られたデータをもとに給与待遇の基準見直しなどに取り組むことが求められる。

3.労働環境の改善

工事現場の労働環境の改善は最も重要だろう。

建設業界の労働災害数は産業全体の中でも突出して多く、2016年〜2020年の間に一人親方等が463人亡くなっている。それほど現場には危険が潜んでおり、対策が不十分であることが分かる。そのため、KY(危険予知)活動や工事前の点検、資格の取得などを徹底する必要がある。

・労働生産性の向上によって作業者の負担を減らす

建設工事現場では、ICT技術の導入による施工品質の向上や労働時間削減を目的として、「i-Construction」への取り組みが2016年度から進められている。

ドローンによる工事現場の把握や測量はもちろん、トータルステーションを利用し即位情報を元にICT建機によって施工機械を自動制御するなど、土木工事の現場では実際にICT施工が行われている。ICT技術の活用は未だ限定的ではあるが、危険度の高い作業へのIoT技術導入も進み始めており、技術動向を確認しながら自社が関わる工程への適用も随時考慮する必要があるだろう。

4.工期設定の適正化

「i-Construction」によって、施工時期の平準化などが進んだとしても、そもそもの工期設定が適正でなければ、工事従事者の負担は減らない。

国土交通省は2018年、「建設業働き方改革加速化プログラム」を策定した。週休2日で工事を実施することを目標として定め、各種建設工事の発注者に対して適正な工期設定を求めている。

発注者側は、受注者側に工事内容の情報共有を行ったうえで、無理のない工期設定で契約しなければならない。一方、受注者側も工事を受注するために短い工期での対応を提案する「工期のダンピング」を行わないといった対策が必要である。

5.DXの推進

建設業界でもDXの推進は欠かせない。DXはデジタル技術を活用した経営革新のことであり、建築業ではICT施工の導入などはもちろん、自社のアナログ的な経営からの脱却も必要だ。

ペーパーレス化や社員のテレワーク推進に向けたシステムの導入によって、株式会社菊正塗装店などすでに業務効率化を果たしている企業もある。

・IT人材育成も重要

自社の既存システムへの対応も重要だ。日本では、システムの複雑化やブラックボックス化によるレガシーシステムの問題やIT人材の不足といった「2025年の崖」という課題がある。

DX推進にはSIerなどへの外部委託を活用すべきだが、将来的なレガシーシステム化を防ぐためにも、自社でIT系スキルのある経験者を採用したりIT人材を育成したりすることが欠かせない。

建設業についてのQ&A

建設業の2030年問題は?

2030年問題は、日本の人口の3分の1が65歳以上になることで、生産年齢人口が減少してあらゆる業界で人手不足に陥ってしまうという問題だ。高齢者の就労者が多い建設業では、特に深刻な状態になる可能性が高い。

2030年問題に深く関わる2025年問題は、約800万人いるとされる団塊の世代が75歳以上になることで、若年層への社会保障費負担などがさらに増すとされている。

建設業界の人手不足対策は?

ICT技術の建設工事への導入による、工期短縮や作業員一人当たりの生産性向上を目的とした「i-Construction」の推進が対策の一つとして挙げられる。また、雇用促進も必要であり、建設業の慢性課題である長時間労働の是正や給与待遇の改善、業界全体のイメージアップなどが欠かせない。

2025年問題に向けて自社の現状分析にまず注力しよう

日本は2025年に超高齢社会に突入するとされており、建設業界も例外ではない。2024年の時間外労働の上限規制への対応と併せて、長時間労働の是正や給与体系の見直しなどへの取り組みも求められる。

業界全体としての慢性的な課題とはいえ、経営者としての経営判断が求められるものばかりだ。まずは、自社の現状分析に取り組み、注力すべき課題を明確にして欲しい。

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文・隈本稔(キャリアコンサルタント)

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