正しい相続手続き,後妻,連続型信託
(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

配偶者と子供だけの相続であっても、遺産分割をめぐって争いとなることは珍しくありません。

まして、配偶者と血のつながっていない子供がいる場合には、一層トラブルとなる可能性が高くなります。

また、自身の相続が発生した場合に配偶者に相続させた財産を、将来的に配偶者と血のつながっていない子供が引き継いでほしいと考えると、ますます難しい問題となってしまいます。

生前にどのような対策をとっておくとよいのでしょうか。

後妻がいる場合の相続は何が問題となるのか

前妻と死別し、あるいは離婚した後に再婚すると、後妻が配偶者として法定相続人となります。

また、子供がいる場合には、その子供が前妻の子供か後妻の子供かに関係なく、その子供も法定相続人となります。

ところで、後妻との間に子供がいない一方で、前妻との間に子供がいる場合には、亡くなった人の後妻と子供が相続人となりますが、この後妻と子供には血のつながりがないため、将来、後妻が亡くなった時に子供は法定相続人となることができません。

子供のいない後妻が亡くなった時には、①後妻の父母、②後妻の兄弟姉妹の順番に法定相続人となる人が決まります。

最初の相続で後妻が自宅を相続することとなった場合、将来的に後妻が亡くなった時には後妻の父母、あるいは兄弟姉妹が相続人となるため、生前に保有していた自宅は2回の相続を経て後妻の親族のものとなってしまいます。

本来であれば自宅を相続させたいと考えていた子供は、後妻の死亡時には相続権すらないという状況になるため、後妻から子どもへ財産の移転ができないかと考える必要があるのです。

問題①遺言では二次相続以後の財産の行方を指定できない

自分が亡くなった時に、後妻が自宅を相続してそのまま住み続けることができるようにする一方で、後妻が亡くなった時には、その家を自分の子供が取得できるように遺言書に書いておくことはできるのでしょうか。

特定の財産について、その取得者を連続して遺言で定めておくことを「後継ぎ遺贈」といいます。

この後継ぎ遺贈は、現在の民法で定められた制度ではないため実現できないといわれています。

遺言によって財産を誰に引き継がせるかを決めるのは、その財産の保有者であり、その保有者の意思によって自由に決めることができます。

遺言書に財産の取得者を連続して定めておいても、実際に財産を取得した者がその財産に関する決定権を持つため、後継ぎ遺贈を実行できる保証はないのです。

問題②後妻と血のつながっていない子供は相続権がない

後妻と血のつながっていない子供がいる場合、その子供は後妻の相続人ではないため相続権がありません。

そのままでは後妻が亡くなった時に、子供は何も相続できないこととなります。

このような事態を避ける方法として、後妻と血のつながっていない子供が養子縁組を行うことが考えられます。

実子でなくても養子縁組を行えば、その子供は後妻の相続人になることができます。

しかし、後妻に養子縁組することを強制することはできないため、確実な方法とはいえません。

また、「後妻が亡くなった後に自宅はその子供に遺贈する」とする内容の遺言書を後妻に作成してもらう方法も考えられます。

しかし、財産の保有者がその財産をどのように処分するかを自由に決めることができるため、遺言書を書くことを強制することはできませんし、強制的に作成された遺言書は無効となる可能性もあります。

また、遺言書は作成後に破棄することができるため、一次相続が発生して後妻が自宅を相続した後に、その遺言書を破棄したり書き換えたりすることも十分に考えられるのです。

そのため、この方法も確実な方法ではありません。

後妻の生活を守りつつ、実子に財産を残すのは難題

後妻から血のつながっていない子供に財産を引き継ぐのは、現在の民法にもとづく相続制度では非常に難しい問題です。

遺言書を書いてもらう、あるいは養子縁組をするという方法はありますが、いずれも将来発生する二次相続について、確実に意思を反映させることができるものではありません。

そのため、単に遺言書を作成するだけにとどまらない対策を考える必要があるのです。

新たに創設された配偶者居住権を活用する方法

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平成30年度に行われた民法の改正により、「配偶者居住権」と呼ばれる制度が新たに創設されました。

もともとこの制度が作られたねらいは別にあるのですが、後妻がいる場合の相続で起こる問題を解決する方法となる可能性があります。

まずは、配偶者居住権とはどのような制度であるのかから確認していきます。

配偶者居住権とは

配偶者居住権とは、相続によって配偶者以外の相続人が配偶者の居住していた建物を取得した場合に、配偶者に終身または一定期間の建物の使用を認め、この権利を登記しておけば相続人から建物を譲り受けた第三者に対しても、配偶者は居住権を主張することができる制度です。

もともとこの制度が作られたのには、被相続人の配偶者の生活を安定させるねらいがありました。

例えば、被相続人が残した相続財産が自宅3,000万円と預金2,000万円、相続人が配偶者と子供2人だった場合に法定相続分どおりに遺産分割を行うと、配偶者の相続分は5,000万円×1/2=2,500万円となります。

ところが、相続後も住み続ける自宅を相続するとその金額は3,000万円となるため、法定相続分を上回ってしまうのです。

他の相続人がそれで納得してくれればいいのですが、遺留分を主張されたり法定相続分を超えた分の代償金を支払うように求められたりするケースもあるなど、相続後の安定した生活が脅かされるようなケースが多くありました。

また、自宅は無事に相続できたとしても、預金はわずかしか相続できないために、相続後の生活に困るケースも多いのです。

そこで、配偶者が自宅を所有しなくてもそこに住み続けることができるよう、所有する権利と住む権利を分けることとし、自宅に住む権利を配偶者居住権としました。

住む権利だけを相続すれば、その分相続財産としての評価額が低くなるため、自宅だけでなく生活に必要な預金なども相続しやすくなります。

後妻に財産を残すうえでのメリットとなる

配偶者居住権を利用すれば、後妻の生活場所を確保しつつ、将来的には子供に財産を残したいという希望をかなえることができます。

相続の際に、配偶者は居住権を取得して自宅に住む権利を引き継ぎます。

一方、子供は配偶者居住権付きの自宅の所有権を引き継ぐことで、配偶者が亡くなった場合や自宅から転居した場合には、その自宅を完全に手にすることができるのです。

また、配偶者は自宅の居住権のみを取得することから、通常の不動産を相続した場合に比べて評価額が下がります。

仮に法定相続割合で遺産分割を行うと決めているのであれば、自宅に住む権利の評価額が下がった分、預金など他の財産を受け取ることが可能になります。

相続税計算上の注意点

配偶者居住権を設定して、配偶者が安心して住む場所を確保した場合にも気をつけなければならないことがあります。

それは、自宅の所有権を取得した人に相続税が発生することです。

自宅に住んでいる配偶者にとっては、相続税は減るうえに他の財産も引き継ぐことができて大きなメリットがあります。

しかし所有権だけを相続した人は、将来的にその自宅を手にすることはできますが、それ以上のメリットはないのに相続税だけ支払わなければなりません。

この点を、実際に相続した人に理解してもらう必要があるのです。

また、配偶者居住権の設定が認められるのは、あくまで配偶者が相続直前に居住していた自宅に限られます。

賃貸物件などの不動産あるいは不動産以外の財産では、このような相続方法は認められないため、別の方法を検討する必要があるのです。

信託を利用すれば順番に財産を引き継ぐ人を決めておける

後継ぎ遺贈が認められないため、配偶者居住権を活用して後妻から子供へ財産を引継ぐ方法を紹介しました。

しかし、配偶者居住権は自宅以外の財産には認められないという問題があるため、完全な解決方法とはなりえません。

そこで、信託を検討してみるのも良いかもしれません。

信託制度の仕組みとは

信託契約を結ぶと、財産の所有者が委託者(財産を預ける人)となり、その財産の管理運用を受託者に任せます。

その財産を運用して得た利益を得る人を受益者として、三者で契約を結ぶのが信託契約となります。

自身が保有する財産について信託を設定した場合は、その保有者自身が委託者兼受益者となります。

そして、自分が亡くなった後の受益者については信託契約で設定しておくことができるため、その財産を引き継がせたい人を受益者にすることで、その財産から利益を得られるようにします。

まずは財産を保有する人が委託者兼受益者、その子供を受託者とします。

自身が亡くなった後には後妻が受益者となることとしておけば、後妻は相続発生後も自宅に住み続け、あるいはそこから発生する収益を得ることができます。

後妻が亡くなった後は、後妻の相続人ではなく自身の子供が受益者になることとしておくことで、その財産が後妻の兄弟姉妹などに相続されることを防ぐことができるのです。

受益者連続型信託制度を利用する

先ほどご紹介したように、第2、第3の受益者を定めておき、その受益者が財産から利益を得られるようにしておく信託契約のことを「受益者連続型信託」といいます。

受益者連続型信託は、受益者の死亡により順次受益者が連続していき、信託契約から30年を経過した時点以降に新たに受益者になった者が死亡するまで、信託が継続します。

別名「後継ぎ遺贈型信託」と言われるように、最初の段階で最長30年にわたる財産の実質的な承継者を定めておくことができるのです。

将来的に、後妻の親族などに財産が分散してしまうのではないかという心配がある場合、この信託を利用することで財産の分散を防ぐことができます。

また、相続人どうしでなくても財産を承継することが可能となります。

居住用財産以外の財産にも活用しよう

配偶者居住権と違って、居住用の財産でなくても利用できるのが信託のメリットです。

例えば、マンションなどの収益物件を保有している場合、信託を設定すれば家賃収入はその受益者に入ってきます。

毎月決まった収入を得ることができるのであれば、相続後も安定した生活を送ることができるはずです。

自宅と収益物件など、複数の財産について信託を利用すれば、その利用価値はさらに大きくなります。

信託を利用した場合の課税はどうなる?

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(写真=ベンチャーサポート法律事務所編集部)

信託を利用した場合、基本的に受託者には課税関係は発生しません。

信託契約を設定した段階で、委託者から受託者にその財産を管理する権限は移っていますが、受託者はその財産から利益を得るわけではないため、このような決まりになっています。

それでは、誰に対してどのような課税関係が生じるのでしょうか。

信託契約の形態ごとに、その課税関係を整理していきます。

自益信託を設定した場合の課税

それまでの財産の所有者が委託者兼受益者となって、受託者と信託契約を締結した場合を自益信託といいます。

この自益信託では、財産から生じる利益は以前の所有者である受益者が得るため、実態は変わっておらず、課税関係は生じません。

ただし、相続により受益者が変更となった場合には、次の受益者が信託受益権を相続した者として相続税が課されます。

他益信託を設定した場合の課税

信託を設定する際に、委託者とは別の人が受益者となることがあります。

このような信託を他益信託といいます。

他益信託を設定した場合、信託受益権が委託者から受益者に贈与されたものとみなされるため、受益者に贈与税が課されます。

その後、受託者の名義で収益が発生しても、信託契約上は受益者が利益を得ることとされるため、受益者に所得税が課されます。

受益者連続型信託の課税

受益者連続型信託の契約をしていると、受益者が死亡した場合には、当初定めておいた人が新たな受益者になります。

さらにその受益者も亡くなれば、その次の人が受益者となります。

このように、受益者から受益者へ信託受益権が引き継がれていくこととなるので、新たに受益者となった人は前の受益者が亡くなったことにより発生する相続税の課税対象となります。

まとめ

再婚した後妻と血のつながっていない子供がいる場合、相続は非常に複雑なものとなります。

何も手を打たずにいると、自分の子供に財産を引き継がせることができなくなってしまう場合もあるため、いろいろと検討しておく必要があります。

遺言書を作成しておくことは、そのような複雑なケースでなくても行われるケースが増えていますが、後妻がいる場合の相続トラブルを防ぐという点では不十分と言わざるを得ません。

また、養子縁組なども実際に行われるケースはありますが、それだけですべてが解決するものではありません。

信託というと、非常に大掛かりな相続対策を行っているように思われるかもしれませんが、非常に有効な方法となります。

対策が取れるうちに、安心して財産を引き継がせることができるような状況を作っておきましょう。(提供:ベンチャーサポート法律事務所