(本記事は、井上 雅夫氏の著書『ビジネスの武器としての「ワイン」入門』=日本実業出版社、2018年5月31日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
5 高いワインほどおいしい」は本当なのか
「高いワインほどおいしい」
ほとんどの人が、そう思うかもしれません。
確かにそうでなければ、高いお金を払う意味などありません。
ところが、大枚をはたいて買ったワインなのに、おいしくなかった。
レストランで見栄を張って高いワインを頼んだのに、味がわからなかった。
実際は、このような経験をする人が、少なからずいるのではないでしょうか?
友人とレストランで食事をした時のことです。
最初に一番安いハウスワインをグラスで頼んで乾杯しました。すると友人は、「このハウスワイン、かなりいけるねぇ!」と、とても気に入った様子で、グラスをお代わりしていました。
ワインがおいしいと場が盛り上がります。盛り上がったからか、つい気が大きくなって、少し高めのワインでメイン料理を楽しむことになりました。すると……。
「このワインって、こんなもん?」
さっきまで上機嫌だった友人のテンションが下がっています。
確かにその赤ワイン、渋みと酸味がまだこなれていない感じではありますが、なかなか良いワインです。もちろんおいしいのですが、私も「こんなもん?」と思ってしまったのです。なぜでしょうか?
もうお気づきでしょうが、ワインの価格と関係があったのです。
最初に飲んだハウスワインは、「安い割には」とてもおいしかったのです。
次に飲んだ赤ワインは、「高い割には」さほどおいしくなかったのです。
無意識にせよ、価格が味わいに影響を与えていたわけです。
価格が味わいに影響を与えてしまう、別のケースもあります。
高いワインだからおいしい、と思い込んでしまうケースです。
この「ワインの価格と味覚に関する人間の心理」に関しては、なんと米国などで学術的に研究されていて、様々な実験が行われています。
よくある実験は、安物ワインと高級ワインのボトルをすり替えて被験者に飲んでもらい、どちらのほうがおいしいかを選んでもらうもの。
結果は、ほとんどの被験者が高級ワインのボトルに入った安物ワインのほうを「おいしい」と選んでしまうのです。まさに「思い込み」の例です。
「思い込み」の力は恐ろしくて、カリフォルニア工科大学の実験では、MRI装置を使って被験者の脳の反応を調べたところ、単なる「思い込み」だったものが脳に刷り込まれると、本当においしく感じてしまうというものがあります。
この実験は、被験者に5ドルから90ドルまでの価格帯のワインを試飲してもらい、被験者の脳の、どの領域が試飲中に活性化したかを調べたものです。
実験の結果、ワインの価格が高いと知らされると大きく反応する領域が見つかりました。それは「眼窩前頭皮質(がんかぜんとうひしつ)」という領域で、意思決定などの認知処理に関わるとされているところです。
被験者の「眼窩前頭皮質」が大きく反応した時に、被験者は快感を感じてそのワインをとてもおいしいと認知したのです。
つまり、高いと言われたワインには「眼窩前頭皮質」が大きく反応しておいしく感じ、安いと言われたワインに対しては「眼窩前頭皮質」はあまり反応せずに、おいしくは感じなかったということです。
単なる「思い込み」だけで高いワインだからおいしいと感じたのではなくて、脳がおいしいと認知した、つまり高いと言われたワインを心底おいしいと感じたのです。
【お店のワイン価格】レストランやワインバーなどのワインの価格は、お店の格や経営方針で値付けは変わってくる。原価率を30%と考えると、概ね小売店での売値の2.5〜3倍くらいになる。ただし通常は、ワインの仕入れ値は小売価格より低い。
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