ビジネスの武器としての「ワイン」入門
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(本記事は、井上 雅夫氏の著書『ビジネスの武器としての「ワイン」入門』=日本実業出版社、2018年5月31日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

3 この六つの「ブドウ品種」だけは知っておく

ワインは100%、「ブドウ果汁」から造られます。

主に南米などから濃縮果汁を輸入して、それに水を加えて濃縮還元させたものを発酵させて造るケースもありますが、基本は混ぜ物なしの100%「ブドウ果汁」のみで造られます。

その点が加水をして造られるビールや日本酒と違うところで、まさにブドウがワインの味の決め手です。

そしてブドウ品種が違えば、当然ワインの味もまったく違ったものになります。ブドウの品種を知ることは、すなわちワインの味の違いを知ることになります。

とはいえ、ワイン用のブドウだけでも800種類以上あります。ご興味のある方は、『ワイン用ブドウガイド・MW(マスター・オブ・ワイン)ジャンシス・ロビンソンによるワイン醸造用ブドウ800品種徹底ガイド』(ウォンズパブリシング)で調べることはできますが、到底覚えきれるものではありません。

そこで、800種類のブドウ品種の中から、「これだけ知っていればワイン選びには絶対に困らない」六つの品種を厳選してみました。

【白ワイン用品種】

*シャルドネ
*ソーヴィニヨン・ブラン
*リースリング

【赤ワイン用品種】

*カベルネ・ソーヴィニヨン
*ピノ・ノワール
*メルロ

この6品種さえ頭に入っていたら、星の数ほどあるワインの中から自分好みのワインがきっと見つかります。

ただし問題もあります。

今でこそブドウ品種名が表ラベルに表記されることが世界のワインの主流ですが、フランス産の、それも高級なワインほどラベルにブドウ品種の表記はありません。その点も踏まえて六つのブドウ品種を簡単に説明していきましょう。

〇白ワインのブドウ品種〇

【シャルドネ】

まずは白ワインの代表品種、シャルドネです。フランス産でいうとブルゴーニュ地方の白ワインのほとんどがシャルドネ種から造られています。

有名なところではブルゴーニュ北端で造られる「シャブリ」、そしてコート・ド・ボーヌ地区の特級畑で造られる「モンラッシェ」。この二つの名前だけは憶えておきましょう。

シャルドネはフランスだけではなく、アメリカ、チリ、オーストラリアなど世界中で栽培されている、最もポピュラーな白ワイン用のブドウ品種です。

味わいは、生産地の気候や土壌によって多様に変化します。冷涼な産地ではレモンやライムなどの柑橘類のような風味とすっきりとした酸を備え、温暖な産地ではマンゴーやパイナップルのような完熟した果実の風味が感じられる、豊かな味わいのワインを生み出しはより複雑になります。

辛口の白ワインが好みの方は、シャルドネ品種で造られたワインをチョイスすれば、まず外さないと思います。そして味わいの微調整は、産地の気温、つまり冷涼か温暖かで判断してみるといいでしょう。

【ソーヴィニヨン・ブラン】

フランスのロワール地方やボルドー地方で造られる白ワイン品種で、他にもニュージーランドやカリフォルニア、南米をはじめ世界中で栽培されています。

特にニュージーランドのマールボロ地区は「ソーヴィニヨン・ブランの聖地」と言われるほど有名です。

味わいの特徴は、ハーブやパセリなどの「青草」のようなアロマが特徴で、酸が豊富でキリッと爽やかな、そして後味にかすかな「苦味」を感じることがあります。

例えは悪いのですが、「ネコのおしっこ」のような香りもすると言われています。本物の「ネコのおしっこ」のように不快なにおいがするわけではありませんが……。

温暖な気候のマールボロ地区のソーヴィニヨン・ブランは、「青草」に代わってグレープフルーツのような、フレッシュで柑橘系のアロマとなります。

ソーヴィニヨン・ブランで造られたワインは、ほとんどが辛口ですが(貴腐ワインなどの甘口ワインの原料になることもある)、シャルドネよりも酸が豊富ですっきりとしたタイプが多いので、シーフードや繊細な味つけの料理にも合わせやすい白ワインです。

価格はシャルドネと比べると一般的に安いこともあり、同じ予算であればソーヴィニヨン・ブランを選んだほうがワンランク上のものが楽しめます。

【リースリング】

ドイツワインの代表品種であるリースリング。

リースリングの世界栽培面積の約60%をドイツが占めていますが、他にもフランス・アルザス地方、ニュージーランドやカリフォルニア等でも栽培されています。

味わいは甘口が主流で、低アルコールでキリッと際立つ酸味が特徴です。あまりお酒に強くない人や、ワインを飲みなれていない人には「とっかかり」としてベストな品種です。

リースリングのワインボトルは、スリムで細長い首の特徴的な形をしているのですぐにわかります。甘口や低アルコールのワインを飲みたければ、スリムで細長い「フルート型」のボトル(154ページ参照)で探してみましょう。

【その他の白ワイン用ブドウ①】〈セミヨン〉主な産地:フランスのボルドー地方。酸味が穏やかで、華やかな香りを持つ辛口ワインになるが、貴腐ワインの原料にもなる。〈シュナン・ブラン〉主な産地:フランスのロワール地方、アメリカ、南アフリカ(人気が高い)など。豊かな酸味と果実味で、辛口から甘口まで幅広いタイプのワインが造られる。

【その他の白ワイン用ブドウ②】〈ヴィオニエ〉主な産地:フランスのローヌ地方。豊かな果実味と芳香性のあるふくよかな白ワインとなる。〈甲州〉日本を代表する白ワイン用品種。もともとは生食用として栽培。上品で繊細な味わいで、シュール・リー製法との相性がよい。

〇赤ワインのブドウ品種〇【カベルネ・ソーヴィニヨン】

赤ワイン用ブドウ品種の代表格の一つ。世界で最も広く栽培されている品種の一つです。カベルネ・ソーヴィニヨン100%で造られるワインの他に、フランス・ボルドー産ワインのように、メルロやカベルネ・フランなどの他品種とブレンドされることもあります。

ボルドー地方のサン・テミリオン地区とポムロール地区以外のボルドーワインのほとんどは、カベルネ・ソーヴィニヨン主体のワインだと思ってまず間違いありません(先の二つの地区で造られるワインの主な品種はメルロです)。

特徴は、色は濃く、芳醇でスパイシーな香り。タンニンが豊富なので、赤ワインの中でも特に渋めで、どっしりとした飲みごたえのある味わいです。さらに熟成すればするほど、まろやかで複雑な味わいに変化する長熟成タイプの本格派です。どっしりとした豊潤な赤ワインが好きな人にはたまらない赤ワイン用品種です。

一見関連がなさそうですが、もしあなたが「濃い目のブラックコーヒー」が好き、または「ダークチョコレート」が好きであれば、おそらくカベルネ・ソーヴィニヨンも好きになるはずです。本当かどうか、一度試してみましょう!

【ピノ・ノワール】

カベルネ・ソーヴィニヨンと並び称される赤ワイン用ブドウ品種の代表格。フランスはブルゴーニュ地方原産の品種で、「ブルゴーニュ以外では栽培できない」と言われるほど栽培が難しい。とはいっても現在では世界各国で栽培されており、アメリカやニュージーランドのものは特に評価が高いです。

ブルゴーニュ産のワインもまた、ラベルにブドウ品種の表記がありませんが(最近では低価格帯のものには表記あり)、ブルゴーニュ産の赤ワインは、皆さんよくご存じのボージョレ・ヌーボー以外のほとんどがピノ・ノワール種だと思って差し支えありません(ボージョレ・ヌーボーはガメイ種)。

特徴は、カベルネ・ソーヴィニヨンとは対照的に、タンニンよりも酸を多く含み、繊細な口当たりと、華やかな香りにあります。

カベルネ・ソーヴィニヨンがどっしりとした飲みごたえならば、ピノ・ノワールは軽やかでエレガントな飲み口といったところでしょう。

ワインが若い頃は、木イチゴやラズベリー、サクランボなどの赤い果実の華やかな香りがありますが、熟成すると、紅茶や腐葉土のような香りが現れるので、コーヒーよりも紅茶好きな人がピノ・ノワール好みかもしれません。

【メルロ】

ボルドー地区原産で、ボルドーではカベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランなどとブレンドされることが多い。ボルドーでも、サン・テミリオン地区やポムロール地区のワインはメルロ主体で造られています。

親しみやすい味わいなのでとても人気があり、今では世界中で栽培されています。日本の気候や土壌に合うのか、日本でも高品質のメルロワインが多く造られています。

特徴は、カベルネ・ソーヴィニヨンと比べて柔らかなタンニンで飲みやすく、酸もピノ・ノワールほど高くはなくて、包み込むような豊かな果実味が中心の、優しくて親しみやすい味わいです。アロマにチョコレートのニュアンスのものもあるので、チョコレートが好きな人は、是非お試しあれ。

【その他の赤ワイン用ブドウ①】〈サンジョヴェーゼ〉主な産地:イタリアのトスカーナ地方。イタリアのあらゆるところで栽培されている。豊かな酸味が特徴。キャンティクラシコが有名。〈グルナッシュ〉主な産地:南フランス、スペイン。深みのある濃い色のワインになるが、口当たりはソフトでまろやか。

【その他の赤ワイン用ブドウ②】〈カベルネ・フラン〉主な産地:フランスのボルドー地方、ロワール地方。酸味や渋みが少なくソフト。〈ガメイ〉主な産地:フランスのボージョレ地方、ロワール地方。早期に成熟し、軽いフルーティなワインになる。フルーティーで軽いワインになり、ボージョレ・ヌーボーが有名。

いかがでしたか?
自分の好きそうなブドウ品種は決まりましたか?
決まればすぐに実践です。

できれば品種の特徴が出やすい、1本1000円以上のもので何度か試してみることをお勧めします。ワイン会など、数人でテイスティングする場合には、冷涼な産地のものと温暖な産地のものを同時にテイスティングするといいでしょう。産地による風味の違いがわかるだけでなく、どちらにも共通する風味、つまりそれが品種の特徴なのですが、より品種の特徴がわかるようになります。

品種の違いを知るには、やはり2品種以上を比べてテイスティングしてみてください。比べるワインはできるだけ同じクラスのものがいいでしょう。

さあ、六つの「ぶどう品種」は頭に入りました。これでもうあなたは自信をもって自分好みのワインを「選び」そして「語る」ことができるのです。

ビジネスの武器としての「ワイン」入門
(画像=『ビジネスの武器としての「ワイン」入門』より)
ビジネスの武器としての「ワイン」入門
井上/雅夫
株式会社オリーブプロジェクトJAPAN代表取締役。醸造家、ワイナリーコンサルタント。1957年生まれ。ゴールデンゲート大学院・修了(MBA)。大手旅行会社、百貨店ニューヨーク支店長を経て、カリフォルニアワイナリー、Sycamore Creek Vineyards代表取締役&CEOに就任。ワイン醸造家としても活躍し、2001年国際ワインコンクール(Monterey Wine Competition)にて、自ら醸造したメルローが、赤ワイン部門のグランプリを受賞。2005年帰国後、盛田甲州ワイナリー取締役営業本部長に就任。2007年カリフォルニアワイナリー、KENZO ESTATEの立ち上げ責任者のオファーを受けて、ワイナリーコンサルタントとして独立し再渡米。その後は複数のワイナリーで、醸造、立ち上げのコンサルティングを行っている。山梨県勝沼の老舗ワイナリーの工場長としてもワイン造りに励んでいる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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