相続が発生すると、今まで知らなかったことを知るといったケースがあります。
家族の知らない財産があったり、家族は全く知らなかった遺言書が出てきたり、その内容は様々です。
しかし、あまり悠長に構えてられないケースもあります。それが「異父や異母兄妹」が現れた場合です。
以前より存在を知っている場合は、事前にどのようなことが想定されるかを予測できますが、突然被相続人の葬儀などで現れた場合は大変です。ドラマや小説の中だけの話ではありません。
そこで今回は、異父、異母兄妹がいた場合に争いにならないように未然に防ぐにはどうすればよいのか、という角度からお話を進めていきます。
1. 「異父・異母兄弟でも相続の権利がある」のが事実
例えば、被相続人が亡くなった時の配偶者には相続の権利があります。
離婚等の理由で、亡くなった時点で配偶者でなかった者には相続の権利はありませんが、その間に生まれている子どもに対しては相続の権利があります。
もちろん現被相続人の配偶者の子どもと同じ相続の権利があります。
そして、この異父・異母兄弟にも、著しく公平ではない遺産分割が行われた場合、「遺留分」を請求する権利はあり、請求された場合にはそれに応じなければなりません。
ただし、「認知」を行っていない場合はこの限りではありませんので認知されているのか否かをまず確認する必要があります。
被相続人が認知しており相続人がその事実を知らなかったというだけの場合とは話が全く異なるのです。
認知されている場合は、内縁の妻との子、前妻との子について同等の扱いがされるのです。
2. どのように相続する?「異母兄弟」との分割方法
もちろん、遺産相続ですから遺言書やみなし相続財産といわれる死亡保険金などがあれば、その通りに分割されるわけですがそれがないといった場合、法律にのっとって分割されることになります。
では一体どのような分割方法が考えられるのでしょうか。
例を挙げて考えていきます。
わかりやすいように、前提条件を設けて説明していきます。
被相続人には現在の妻、そしてその間に生まれた実子2人、前妻との間に子が1人おり、認知されていたとします。
ここで考えられるケースに現在の妻が相続放棄を行った場合が考えられます。
もちろん前妻の子は認知されているので「子」としてカウントしますが、その母親である前妻については、相続の権利はありません。
通常、現在の妻である配偶者が相続を放棄していなければ、2分の1を配偶者が、残りの2分の1を2人の子と認知している1人の子とで分け合うことになります。
これが誰も相続放棄をしなかった場合だと考えておきましょう。
その上で、この配偶者が相続放棄をした場合、本来この妻が受け取る予定だった2分の1の遺産が残ることになります。
相続とは遺産が残ってしまうことはありません。
必ずその財産を管理する人を見つけ出さなければならないという見方が出来ます。
ではどのように分割するのでしょうか。
それは非常に簡単で、相続の権利がある合計3人の子どもたちで3分の1ずつ財産を分けることになります。
当然のことですが、現配偶者が相続放棄をすると自分の子2人への遺産の配分も増えますが、認知している子にも通常よりも多い遺産が渡ることになります。
このような分割割合を考慮した上で相続放棄を検討する必要性というのも存在することは言うまでもありません。
2-1. 実は問題点がある「遺産のゆくえ」について
実は遺産には分割するときにちょっとしたポイントがあるのです。
分け方のポイントにもつながり、なおかつこれをおろそかに考えると大きな問題に発展する可能性を秘めているのです。
それは何かといえば、「他人にわたって欲しくない財産」というものの存在です。
現預金は、たとえ今の配偶者との間にできた実子であっても使って亡くなってしまうことを考慮すれば、誰に渡してもある意味同じということができます。
もちろん中には、異母兄弟には一円たりとも渡したくないという人もいるかもしれません。
しかし現預金ならまだしも、もっと重要なものも隠れているのです。
それが次のようなケースです。
「会社を経営しており、その株式は一族で過半数以上を所有している」といったケースです。
この場合、万が一この株式を認知している子に渡すと株が外部に流出する恐れがあるのです。
これが「どういうこと?」とピンと来ない方のためにもう少し詳しく解説していきます。
特に自分が経営している会社の株式を所有している場合は、その株式を、使えば無くなってしまう現預金などと同じように単純に扱えないということを十分自覚しておく必要があります。
2-2. 「会社が乗っ取られることもある?」外部への株式流出
会社の株式は重要です。
特に一族で経営している場合は議決権の問題もありたとえ1株でも他者へ渡したくないというのが実態かもしれません。
毎期黒字をたたき出す企業であれば配当の問題もありますし、会社を廃業する場合にも株式が一族内に集約されていれば非常に効率よく手続きが進みます。
ですが外部にわたってしまうと、場合によっては誰の手にあるわからないということも考えられるのです。
異母兄弟も認知されているのであれば相続の権利があるということは先の話で理解ができているところですが、この異母兄弟に株式が渡った場合について予測してみます。
異母兄弟に株式が渡ったとき、その時点で異母兄弟側に遺産は移ります。
当然相続の遺産分割の際に生じる順位も変わってきます。
被相続人の直結にその財産はないので、その部分について口出しをする権利はなくなります。
異母兄弟が亡くなった時は、その配偶者もしくはその子ども、場合によっては親へと変わっていきますから、とうてい一度手放した株式が一族の下へ戻ってこないものと考えておかなければなりません。
さてこうなると何が起こるのでしょうか。議決権の問題が発生します。
誰が流出した株式を所有しているのかということがわかっている間はまだしも、それが把握できなくなってしまう可能性もあるのです。
こうなると大変です。会社の運営に影響をきたします。
誰がトップに立ち会社を引っ張っていくのか、ある日突然この流出した株式を所有している人が会社をM&Aで知らない間に売却してしまうといったことも否定はできません。
ですから、誰が株式を所有しているかを把握しておくことも大切ですが、それだけ一族で所有しておかなければならないものが有るのであれば、初めから流出させない方法をとっておくことが大切なのです。
これを怠ると、遺産相続の際だけではなく、将来的にも異母兄弟との争いが発生する可能性が出てくることになります。
3. 最も重要なのは「遺言書の作成」にアリ!
さて、将来的にもうまく財産を分割しなければ多くの問題や争いが発生することが分かったうえで、これらを回避するための最も有効な手段はないのでしょうか。
実は有効な手段の一つに「遺言書の作成」があります。
もちろん遺留分のことを考えるとそれなりに金銭の対価に置き換えて考えたときに平等にしておく必要があります。
そうでなければ結局家庭裁判所へ持ち込まれて、せっかくの遺言書が無駄に終わってしまう可能性があります。
しかしこの遺留分も言い換えれば公平に分割されていれば請求されないのです。
また初めから生前贈与などで、外へ流出させたくないものは先に渡してしまうというのも得策だと言えます。
ただし贈与で先に渡している場合でも、後の相続で公平性を問われる場合がありますので、あまり露骨にはしない方が良いでしょう。
とはいえ、事業承継の特例制度がありますので、実際にそういったケースに当てはまりそうな場合は、これらも検討の材料として含めておくと選択肢の幅がひろがることはいうまでもありません。
遺言書を作成しておくことは、相続人が無駄な争いをせずに済む最良の方法であり被相続人が相続人に対してできる最後の方法とも言い換えることができます。
遺言書は、必ずしも相続人にその存在を知っていてもらう必要もなく、実際にその遺言書に沿って動いてもらう人に執行人が存在します。
執行人が登記などの手続きなど実際の事務的な動きを担いますから相続人に遺言書の中身までを知らせておく必要はないのです。
また何度も書き直しができますから、一番初めに書いた遺言書から数えて現在の最新版までで何十枚という遺言書を管理している方がいるのも現実です。
公正証書役場へ行けば形式のしっかりとした遺言書を作成できるので実際に相続が発生した時に、その遺言書に不備が見つかるということも防ぐことができます。
4. まとめ
異父・異母兄弟がいる場合は、認知しているか否かでそもそも相続する権利があるかどうかが分かれてきます。
そして当然認知されている場合は被相続人の遺産を受け取る権利が発生し、遺留分も請求することができるのです。
また、いくら認知されているとはいえ一族からは出てしまっている子ですから、渡す遺産によっては遺産分割以外の問題も発生するケースがあるのは言うまでもありません。
出来るだけ揉め事やその後の問題が発生しないように被相続人は事前に起こり得る可能性があることは潰しておくこと、事前に専門家に相談して対処方法を検討しておくことが挙げられます。
また贈与を活用して事前に財産を移しておくことも大切です。
相続は別名「争族」ともいわれていますからしっかりとした対策が必要です。
「自分が亡くなってしまってからのことだから」と生きている人にだけ任せるのではなく、自分の財産の行き先のことですからしっかりと道筋をつけておくことが大切です。
いかにしてスマートな相続が出来るかどうかは、被相続人の生きている間の準備にかかっているということがわかります。
準備は怠らず、いないからこその備えが重要です。(提供:ベンチャーサポート法律事務所)