独占インタビュー|ダニエル・ベン=イシャイ(Exit Valley COO)
四国ほどの国土面積、人口900万人強の小さな国、イスラエルは、ハイテク分野において他の主要国と共に常に技術と革新の最前線に立っており、同時にスタートアップ「超大国」に熱視線を送る投資家も激増しています。革新的技術を持つスタートアップに個人投資家が簡単に投資することができる、株式ベースのクラウド投資プラットフォームサービスを提供するExitValley(イグジット・バレー)は、イスラエルで最初にして最も成功したクラウド投資プラットフォーム・ベンダー。スタートアップの資金調達の常識を変え、誰もが株式ベースでスタートアップに投資し、スタートアップ・ネーションの成功体験へ参加することを可能にしました。そんな世界の投資家の注目を集めるサービスを提供するExitValleyのCOO、ダニエル・ベン=イシャイさんにお話を伺いました。
―――まず自己紹介をお願いできますか。
まだExitValleyにCEOであるShahar Shraga(シャハル・シャルガ)と他3名の共同創設者しかいなかった約5年前の設立当初に、当社最初の従業員として入社しました。COO(最高執行責任者)として、資金調達ラウンドと法務部門の管理を含む、当社すべてのビジネスと運用管理を担当しています。
―――ExitValleyの提供サービスについて詳しく教えていただけますか。
当社はイスラエルで最初の、最も成功した株式ベースのクラウド投資プラットフォームプロバイダです。スタートアップ企業による資金調達の常識を覆し、すべての人にあらゆる場所からの投資を可能としました。また初期より英語とヘブライ語でサービスを提供する、最初の国際的プラットフォームでもあります。設立以来、調達した資金は6,200万ドルを超えましたが、その殆どが過去2年間に集中しています。特筆すべきは、現在までに85〜86パーセントの成功率で、100回もの投資ラウンドが成功している点です。約22,000人の投資家を擁する当社コミュニティは現在も拡大し続けており、多くの企業の成功をサポートしています。
当社プラットフォームは最大35名の投資家が、資金調達を計画する企業が必要とする金額に対し、最小1万米ドルから、最大100万米ドルの投資を可能とします。誰もが自分の望む対象に投資できるプロセスを実現するため、投資家向けにカスタマイズされた、多様かつ包括的な技術投資ポートフォリオを提供することを主目的としたプラットフォームです。
―――85%を超える成功率は驚異的です。コアサービスのアイデアはどのようにして思いついたのでしょうか?
イスラエル企業への投資資金は、主に初期段階で大幅に供給不足であることが判明しており、多くの優れた企業がごく最初の資金調達の時点で行き詰まっていることがわかったのです。またイスラエルのハイテク産業への投資は、主にVCファンド、インキュベーター、そして一握りのエンジェル投資家で構成される、ごく少数の人々により行われていることも判明しました。これら2つの問題を解決することで、初期段階のスタートアップでも、イスラエルのスタートアップ・エコシステムによるメリットが享受できます。これによりスタートアップは資金を調達して彼らのビジョンを実現することが、投資家はそれらの機会にアクセスし、成功体験を共有することが可能となります。このような、以前は大企業のみが可能としたプロセスのチャンスが、当社プラットフォームによりスタートアップにも拡大されました。
―――ExitValleyのサービスを利用することのメリットは何ですか?
最初に、資金調達をしたい企業や起業家向けに当社が提供するメリットからお話します。まず当社はイスラエル国内だけでなく、国際的な投資家コミュニティへの直接的なアプローチを可能としているため、イスラエル市場において最高の資金調達メカニズムをスタートアップ企業に提供している点です。実際、競合他社の殆どが、国際的な投資家のコミュニティを包括していません。また起業家の殆どはとても聡明ですが、ビジネス経験が足りず法的対処に疎いケースが多い。そこで高度な法的インフラストラクチャの構築と、法的メカニズムおよび投資メカニズムに準拠したマーケティングとコンテンツサービス作成を支援し、資金調達ラウンドに必要な法的段階の通過を容易にしました。勿論、資金調達ラウンド後は投資家と投資企業のコミュニケーションのサポートをするだけでなく、企業に代わって投資家にレポートやニュースをアップデートします。
次に投資家向けのメリットについてお話します。スタートアップ・ネーション、イスラエルではあらゆる市場セクターの企業が躍進を遂げていますが、約2年前まで世界中からの投資を受け入れていませんでした。ですから最大のメリットは、イスラエルの民間企業に投資する機会の提供という点に凝縮されます。スタートアップ・ネーションの成功および、初期段階のVC、ハイテクインキュベーター、その他大規模機関との共同投資に小・中規模投資家の参画を可能としました。当社は既存の資金調達ラウンドで、利用可能な投資チャネルとしても機能します。潜在的な投資家に代わって企業審査の多くを行うため、企業は最も信頼のおける大規模機関の知恵と力によりサポートされます。これは公正な金銭的条件下での資金調達プロセスにおいて、特に小規模投資家にとって重要なポイントです。当社は小規模投資家にもプロの投資家と同様のツールを提供し、透明性を保証しています。
―――イスラエルに注目する海外の投資家にとって朗報ですね。どの業種の企業をターゲットにしているのですか?
誰もが、自分の望む企業に投資できるようにしたいと考えているため、特定の業種をターゲットにはせず、ほとんどの業種を受け入れています。当社は常に優れたプロダクトを開発する企業を探しています。現在、当社の投資家コミュニティの中には認定投資家も、大企業も、初期ファンドも、プロの投資家もいますが、ほとんどの投資家はプロではありません。彼らは投資ポートフォリオを多様化させたいと考えており、国際的ビジネスの可能性を秘めた企業を探しています。
当社がターゲットとするのはまず第一に大きな市場と優れた製品、そして何よりも経験豊富なチームを持っている企業です。そして起業家とチームに実際に会って、チームが可能な限り最善の方法で製品をリリースできるかという点を確認したいのです。素晴らしいアイデアを思いついても、チームがうまく機能しなければ台無しですから。また過去数年間は特に、従来の経済的なリターン獲得に加え、投資を通じて社会的課題の解決を目指すインパクト投資を重要視しています。当社は少額投資家も別け隔てなく重要視しています。
―――現在はイスラエル国内のスタートアップが投資対象となっていますが、将来的にイスラエル国外の企業向けにサービスを拡大する予定はありますか?
クリアしなければならない法的問題への取り組み中ですが、当社サービスの海外企業への提供は、今後必ず到達したい目標です。ExitValleyの利点を世界中の投資家コミュニティに届けるため、世界に先駆けて欧州とアジアから展開予定です。
―――過去に最も成功した事例を教えてください。
当社プラットフォームにより資金を調達した後、国際投資エンティティや戦略的投資家とのフォローアップを成功させた多くの企業の中から数社紹介します。
まず最初に「HeraMED」。この企業は世界で初めて、自宅で使用できる臨床グレードの妊娠モニタリングソリューションを開発しました。FDA(アメリカ食品医薬品局)による認可も受けた、HeraBEATと呼ばれるこの製品により、赤ちゃんの心拍数をスマートフォンで測定できるようになりました。2018年にHeraMedは当社プラットフォームによって資金を調達後、1年足らずでプロジェクトを開始。現在は数兆米ドル規模の株式市場に上場し、投資家の強い関心の的となっています。当社と提携するまでは投資家の獲得ができず苦境にありましたが、提携後は投資額を10倍に増やすことに成功しました。
次に紹介したいのが、VRとARを活用して、患者と臨床医向けの遠隔医療バーチャルリアリティプラットフォームを提供する「XRHealth」という企業です。最先端の医療XR(エクステンデットリアリティ)を利用して、イマーシブ・テクノロジー(没入型技術)と、認可を受けた専門家、そして高度なデータ分析を一つのプラットフォームに統合することで、仮想クリニックを運営する企業を支援します。患者が自宅で快適に治療を受けるための包括的なケア・ソリューションの提供を可能とし、コロナ禍に大成功を収めました。2017年にXRHealthが当社にコンタクトした当時の従業員は3人でしたが、現在は約80人と大躍進を遂げており、同時に世界で加速するメタバースの恩恵を受け、多くの関心を集めています。企業評価額は現在、最初の資金調達ラウンド時に比べ約20倍となりました。
また「SolCold」と呼ばれる企業は、太陽のエネルギーを利用して冷却効果を生み出すという、画期的なコーティング素材を開発し特許を取得しました。最初にそのアイディアを聞いた時は、いくら何でも出来すぎた話だと思わず口にしてしまったほど、この技術は驚異的です。現在まで当社の投資家コミュニティは、主に医療技術と農業技術セクターに多くの投資を行っていますが、人類が気候に関する重大な課題に直面しているため、今後最も人気が高まり重要となるセクターの一つがクライメート(気候)テックだと考えています。
―――素晴らしいサクセスストーリーをお聞かせいただきありがとうございます!ちなみに、海外投資家の割合はどのくらいでしょうか?
これまでのところ、当社の投資家コミュニティにおける海外投資家の割合は約15%でした。つまり、85%がイスラエル国内の投資家でしたが、2021年に海外へのリーチを拡大することを決定しました。取り組みの一環として、様々なチャネルを通じて、欧州とアジア市場でのプレゼンスを拡大中です。2022年の終わりには、海外投資家の割合が15%をはるかに上回るようになることを期待しています。
―――COVID19のパンデミックはビジネスにどのように影響し、またそれにどのように適応しましたか?
過去2年間、我々はクレイジーな世界に住むことを余儀なくされました。パンデミックはDXの加速を含めたあらゆる分野の世界を変え、それにより業界全体が変化しました。そしてこれらの変化は、イスラエルのみならず世界中で大きな成長と株式投資につながりました。2021年は、スタートアップがこれまで以上に多くのVC資金を調達した年となり、同年世界中でスタートアップが調達した資金は6,000億米ドルを超えています。イスラエルはたった1000万人足らずの国民しかいない小国ですが、同年750件以上の取引に成功し、最後の四半期だけで数十億米ドルを調達しました。多くの海外資金と海外VCがイスラエルに流入しましたが、その殆どが成長フェーズ後期にあるスタートアップに注がれ、初期のスタートアップへの資金流入はあまりありませんでした。殆どの海外VCはシード期にある企業への投資を望みません。そこでExitValleyの出番となります。
2020年初頭の状況からは、実際2021年の投資件数の増加を誰も予測できませんでした。世界は急速に変化しており、10年で起こるはずだった変化が2年で起こったといっても過言ではなく、変化への適応は必須でした。
―――今後の展開について教えてください。
まず少額投資を希望する個人投資家の参加を可能にしたいと思っています。将来的には1プロジェクトあたり最大35名の投資家という障壁を取り払い、個人投資家が500米ドルから最大1万米ドルの投資を行うことが可能となります。その次は二次投資市場の提供による、株主と自社の持ち株の売却に関心のある企業と、レイターステージにある企業への投資に関心のある投資家との、よりリスクが低い出会いの場の創生です。プラットフォームはすでに開発が完了しており、2022年から限定的に二次投資取引を開始し、2023〜24年までにその数を増やしていくことを目標としています。
また国際的なプレゼンスの拡大についても計画中です。2022年は、国際的な投資家が当社プラットフォームに興味を持つことに重点を置いて、グローバルなコラボレーションを実現させることを目標にしています。既に西ヨーロッパのいくつかの国と、アジアおよび米国でその動きを拡大しています。現在当社はこれらの拡張に関して綿密なテストを行っており、その期待値を調査していますが、あと1年半ほどですべてが軌道に乗る予定です。さらに多くの新製品と、エキサイティングなプランを持っています。まだそれらを明らかにすることはできませんが、当社の今後の展開にご期待いただければと思います。