共創のリーダーシップ
齋藤 勝己(さいとう・かつき)
1964年5月生まれ、中央大学経済学部卒。小中高生を対象とする個別指導塾を直営で252教室展開。東証一部上場。経済同友会会員、日本ホスピタリティ推進協会理事。トレードマークは満面の笑顔と腹の底から出る大きな声。曾祖父は落語家の初代三遊亭圓歌。

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問い:フォロワーにどのように語るか?
答え:共に目指す未来を、目の前までデリバリーする

会社は足し算でできています。会社の目標、部門の目標、課の目標、一人ひとりの目標があり、その総和で会社は成長しています。一人ひとりの社員が自分で決めたゴールに向かってPDCAサイクルを回す。その総和によって会社全体も成長するのです。  

多様な人財がその個性や能力を組織で活かすためには何が必要でしょうか?

リーダーが、仲間一人ひとりの可能性を信じること。
そして、その想いを言葉にしてフォロワーに届けることです。

一人ひとりが「自分はここで活かされている」と感じられることが、大きな活力になります。フォロワー一人ひとりの個性と向き合い、その人らしい強みを活かし、共に成長したいという信念を言葉にして届けます。

組織の成果の最大化は、チームの主体的な働きによるボトムアップがあってこそです。一人ひとりの主体性を引き出すのは何でしょうか。

それは、リーダーの想いが込められた強力なメッセージです。

リーダーは、一人ひとりにビジョンを届けます。想いを言葉にして相手の目の前に届けます。

話すではなく、届ける。

丁寧に相手の心にまで届ける。私はこれを「デリバリー」と呼んでいます。「デリバリー」は共創のリーダーシップには欠かせないものです。共に目指す未来を言葉で届けることができるのが「デリバリー」です。

「私たちは何を大切にしていくのか」
「私たちはどこを目指すのか」
「目指す理由は何なのか」
「君の可能性は」

ビジョンを映像として描きましょう。実現したい未来の具体的なシーン、目標を達成したときの情景を映像でありありと描き、言葉で表現していきます。

「これがあって、その隣にこのようなものがあって」というように材料を組み立てても、具体的なシーンにはなりません。

――子どもから高齢者までたくさんのお客さまと社員が同じ空間で語り合う。
誰もが笑顔にあふれ、声と表情にあたたかさと希望を感じる――

このように五感を働かせると、映画のワンシーンのようにスムーズに映像にできます。こうして言葉の力で具体的なシーンにすることで、共に目指す未来をビジョンにすることができるのです。

第1章でも述べましたが、リーダーは「まだ見ぬ山の頂まで共に行かないか」と語る人です。

山頂の情景、つまりゴールがあいまいなのに、どう登るかという方法論ばかりを伝える上司もいるかもしれません。部下にとっては、それでは登る意義が見いだせません。どこに連れて行かれるか、なぜ行くのかがはっきりとしないままに大変な思いをしなくてはならないからです。

リーダーは「どう登るか」にこだわる必要はありません。むしろ山頂の具体的なイメージ、登る目的や意味、見たい景色などを共通の価値観としてフォロワーにデリバリーしましょう。

問い:組織のすみずみまでデリバリーするためには?
答え:リーダーが現場に出向き、直接届ける

ビジョンをメンバー一人ひとりにまで確実に伝えるためにはどうしたらいいか。

それは、リーダー自身が最前線に赴くことです。上層部になるほど最前線に飛び込み、働く人の輪に入っていくことが大切です。

組織は、大きくなればなるほどリーダーと現場との距離が遠くなりがちです。その距離感のまま「現場と共に」といくら言っても、想いは現場に届きません。「あなたと共に歩む」と、山の頂上からふもとを見下ろしながら話しても届かないのです。

私自身も現場へと赴く時間を大切にしています。ときには教室のバックヤードで、講師と議論を交わすこともあります。立場や年齢が違う講師に笑顔で問いかけることで、「心通う関係性」を育むことができます。

書類から垣間見える現場と、実際に目で見る現場はまったく違うものです。中間管理職の皆さんにとっても同じだと思います。共創のリーダーシップは、リーダーからフォロワーにアクセスすることが大切です。リーダーからアクセスしてこそ、現場との関係性の質が向上するのです。現場と同じ目線で物事を見て、共有して、体感しましょう。

問い:「イマドキ」の若者と強固な信頼関係を育むには?
答え:押しつけない、一昔前の観念に甘えない

多様な価値観を尊重する時代が到来しています。自分とは異なる価値観の人、例えば自分とは違う世代の人と共創するために、ありたい姿をしっかりと届けましょう。

当社の場合、どんな年齢、どんな立場であっても目標は実行する人が設定します。リーダーは導く人であり、答えは出しません。

ディスカッションはするけれど、幹部が最初からあった落としどころに無理やりもっていく目標――よくある話ですが、こんな目標で組織が成長するでしょうか。

私は決して意見を押しつけません。いつもこのように伝えます。

「君を信頼しているから、君自身に決めてほしい」

「言わなくてもわかるだろう」「黙ってついてこい」――組織にはこんな一昔前の観念がまだまだ根強く残っています。私が新人だったころはよく聞いたものですが、若い世代であれば受け入れられない人が多いでしょう。このような人を大切にしない組織で本当に人と事業が育つのか、はなはだ疑問です。ところが、今なお古臭いと知りながらやる、立場に甘えているリーダーが多いのです。

一昔前の観念は捨てましょう。「言わなくてもわかる」は、前提となる関係性や共通の価値観があってこそ成り立つもの。最後に添える美意識のようなものです。「心通う関係性」も育まずに「会社とはそういうものだ」と言い張っても想いは届きません。

50代の人が同年代の人に話すときと、年下の30代、20代の人に話すとき、同じ伝え方では届かない場合があるのです。まずは意見を押しつけないことが大切です。「どの世代にも確実に届ける力」を、共創するリーダーは身につけましょう。