共創のリーダーシップ
齋藤 勝己(さいとう・かつき)
1964年5月生まれ、中央大学経済学部卒。小中高生を対象とする個別指導塾を直営で252教室展開。東証一部上場。経済同友会会員、日本ホスピタリティ推進協会理事。トレードマークは満面の笑顔と腹の底から出る大きな声。曾祖父は落語家の初代三遊亭圓歌。

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問い:どうすればより高い成果を上げられるか?
答え:ゴールからの逆算「バックキャスト思考」で戦略を立てる

ビジョンの実現には、実現までの道筋を描いて戦略化することが必要です。

目指したいゴールと現状との間にはギャップがあります。現在立っている位置を正しく把握し、どのような道筋をたどればゴールにたどり着けるのかを明らかにするのです。

組織を成長に導くリーダーは、常にゴールからの逆算によって未来から今を見ています

未来にありたい姿があって、その実現に必要なものを逆算しながら戦略を立て、計画的に行動する。ゴールに足場を置いて、振り返って「今」を見ているのです。

これは「バックキャスト思考」と呼ばれるものです。

一方、それとは対極の「フォアキャスト思考」では、「今」の延長線上に未来があると考えます。「現在の行動は未来に結果を出す」という前提のもとに、行動を積み上げる。今日やったら明日、明日やったら明後日、そして1年後……というように前を向いて進んでいく。「今」という現実に足場を置いてゴールを見ているのです。「フォアキャスト思考」では、ゴールの位置を明確に描くことができません。

「3年後に私たちの組織が目指す状態になっているように、逆算して今から具体的なプランを立てる」
「今日から少しずつ改善していけば、3年後に私たちの組織が目指す状態になる」

この2つの考え方には大きな違いがあります。

「バックキャスト思考」の戦略は、組織がかなり高い成果を目指すときに有効な手段ですが、個人においても活用できます。組織とは「個」の足し算だからです。

一人ひとりが個々のゴールを明確に持ちましょう。

組織の目標を達成するために、自分はこの役割を担う。私の1年後のゴールはこれだ。

ゴールに到達するために超えなくてはならないステップを見つけ、超えるための戦略を組み立てるのです。

バックキャスト思考そのものはだいたいの人が経験しています。それは受験です。

高校も大学も、入学試験の受験日は変更できませんよね。受験日をゴールとして勉強すべき内容やペースを逆算しているはずです。

例えば半年後が受験日ならば、受験日の1週間前、1か月前、3か月前、4か月前、5か月前……そして今日、と具体的な行動を設定します。

締め切りのある仕事をしている人も同様に、逆算してタスクを決めているでしょう。

しかし、社会にイノベーションを起こしたいなら、タスクをプロットするためのバックキャスト思考では不十分です。なぜなら、イノベーションを起こすようなビジョンは、従来のビジネスの延長線上にはないからです。

論理的な説明はすっ飛ばしてでも、「3年後はこの状態になっている」という壮大なビジョンを持つことが必要となります。壮大なビジョンから逆算して、上りつめるまでに必要なステップを作っていくのです。

ビジネスには常に複数のシナリオがあります。景気の好不況によっても企業の取るべき戦略は大きく変わりますが、他社の戦略が見えてから反応するのでは後れを取ります。不確実性の高い未来を想定して、バックキャスト思考でリスクに備えることも重要な戦略なのです。

問い:なぜゴールから逆算すると高い目標が達成できるのか?
答え:現状とのギャップ=伸びしろが明確になるから

「バックキャスト思考」が成果を上げるために有効なのは「やるべきこと」がわかるからです。

ゴールと今の状態とのギャップを明らかにすると行動リストができあがります。

今、自分は何ができていて、何ができていないのか。何を学んでいて、何に悩んでいるのか―そういった「今」を明確にして、ありたい姿とのギャップを明確にするのです。

あとはそのギャップを埋めるための努力をするだけ。ギャップは成長の伸びしろです。

例えば2年後にグローバル企業の海外広報部門に転職するというゴールを設定したとします。

憧れの企業のあのビルで、颯爽と働く自分の姿をありありと描きます。描けたら、この2年の時間軸であなたがやるべきことを一つ残らず洗い出すのです。

今の仕事を成功させる、セミナーに行く、人脈を広げる、英語のコミュニケーション能力を高める、英文メールを完璧にこなすようにする、PRとマーケティングの資格を取得―これらのリストを2年の時間軸に沿ってプロットしていくのです。

私の場合は行動を1週間単位まで落とし込みます。

1週間後が明確になると、今日一日、何をすべきかが明らかになります。

1か月先となるとつい甘えた気持ちになって、「今日はここまででいいか」などと後回しにしがちだからです。

夜寝る前には、一日を振り返ります。

今日はどんな行動を起こしたか、どんな成果を上げたか。そんな問いを自分自身に向けるのです。

過ぎ去った時間は戻りませんが、その時間で得られたものは未来に活かすことができます。成功も失敗も、どのように前向きに捉え、どのように今後に活かすのか。そんな振り返りを行うのです。そうすると「今日」を生きた意味が明らかになり、翌日のパワーに変換できます。

ゴールから逆算するのは「今」に意味を持たせるためです。

今の行動の目的は未来にあります。「バックキャスト思考」を取り入れると、「今」の意味が変わるのです。

「高い目標」と一口に言っても、現状とのギャップ次第で「その人にとっての高さ」が異なります。

例えば、日本で活躍しているプロ野球選手がメジャーリーグでホームランを打つという目標と、少年野球チームの子どもがプロ野球選手になってホームランを打つという目標。到達点でいえばメジャーリーグでホームランを打つほうが難しいでしょう。

しかし、ギャップはどちらが大きいかと考えると……一概には言えないですよね。

目標の高さはギャップの大きさです。そして、このギャップの大きさを知るためにも、ゴールの設定が必要となるのです。

問い:どうしたら部下がビジョンを持ち、高い目標に挑戦するのか?
答え:リーダーが事例となり、追いかけるべき背中となる

このような話をすると、よく中間管理職の方から受ける質問があります。

「どうしたら部下がビジョンを持ち、高い目標に挑戦できるようになりますか?」というものです。

私の答えはいつも決まっています。

「リーダーであるあなたが、主体的に夢や目標を持ち、実現していく姿を見せることです」

こうすることで部下は「夢を持つっていいな。自分も夢を追いかけてみたいな」と感じるのです。リーダーは夢を実現させた。困難を乗り越えて成功した。自分もこうありたい――リーダーが事例となり、追いかけるべき背中となるのです。

部下がビジョンを描くことが難しいと感じているのであれば、小さな夢や目標からスタートして成功体験を積み重ねられるようサポートします。

人は夢があるからこそ自分で行動するのであり、夢があるからこそ「今日はここまでやろう」と自分で決めるのです。そうして小さな成功を積み重ねていけば、かつてない大きな目標が自然と生まれます。成功体験が主体的なチャレンジを生むのです。

すると、思考が変わり、視界が変わり、動き方もおのずと変わるはずです。