独占インタビュー|平野貴之(ベアーレ・コンサルティング株式会社 代表取締役)
2021年9月にはデジタル庁の設置が予定され、至る所でDX(デジタルトランスフォーメーション)が謳われる現在の日本において、海外のシステムやツール、ソフトウェアが導入されることはめずらしいことではありません。それでは、そんなにも簡単に海外企業は日本市場に進出できるのでしょうか。
海外企業の日本進出においては、言語や文化、ビジネスの進め方の違いなど様々な課題があり、そう容易なものではありません。ビジネスを円滑に進めるためには、両者をしっかりと理解した仲介役が必要です。
ベアーレ・コンサルティング株式会社の平野貴之(ひらのたかゆき)さんは、海外企業と日本企業の仲介役として、これまで40社を超える海外企業の日本進出を支援してきました。幼い頃からの「社長になりたい」という夢を実現させた平野さんですが、理系卒で営業マンとなり、トップセールスとなった後に無収入社長へ、という何とも異色な経歴の持ち主。そこでISRAERUウェブマガジンでは平野さんに取材を行い、キャリアスタート時から現在に至るまでの軌跡を伺いました。
理系から外資系の営業職のトップセールスへ
―――大学を卒業後、営業職としてキャリアをスタートされたとのことですが、具体的にどのようなことをされていましたか。
イタリア北部トリノ近くのイブレアに本社を構える、タイプライターやコンピュータのメーカーであり、システムインテグレータでもある日本オリベッティ(以下:オリベッティ)に入社し、VAR(Value Added Reseller)営業部に配属されました。名前の通り、リセラー(代理店)の付加価値になるような商品を提供するのが仕事です。
具体的には、サーバーとLAN(Local Area Network)のシステムの販売を代理店向けと直販向けに行なっており、端的に言うと新規代理店開拓です。当時はまだインターネットが普及しておらず、大型コンピュータやオフコンと呼ばれる大型コンピュータに端末がぶるさがるシステム構成でした。そしてPCの性能が飛躍的に上がり、Windowsが出始め、ダウンサイジングが始まったころ、大型コンピュータやオフコンのシステムからPCベースのシステムに転換をした方が良いと、いわゆるシステムインテグレーターに提案、営業をしていました。
今の時代にはあまりないかもしれませんが、当時は飛び込み営業も行いましたね。自分が担当する新宿区にあるソフトウェアハウス(システムインテグレータ)に電話でアポを取る、もしくは飛び込み訪問を行い、説明、交渉、販売のプロセスを続けました。ここで代理店営業の基本を学んだことは、とても大きかったです。代理店営業は直接販売と違い、代理店の営業マンのモチベーションを上げて販売してもらわないといけませんからね。そのためには、営業マンへの教育、同行営業など、様々な支援をする必要がありました。これが今では、イスラエルのスタートアップ企業を日本で成功させる必要なスキルの一つであると思います。
ちなみにオリベッティはそのデザインでもとても有名です。オリベッティがイブレアで築いた近代産業遺産群があったからこそ、2018年には20世紀の産業都市群として世界遺産登録されたと言われています。
―――高校、大学と理系を専攻していたとのことで、普通は技術職や研究開発職に就く方が多い中、あえて営業職を選んだ理由は何でしょうか。
海外への憧れを現実化させるためと、何より「トップセールスになって、自分の会社を設立したい」という夢を実現させるため、営業職を選びました。海外とのコミュニケーション力を磨くには外資系の営業職がベスト、外資系であれば、年齢や上下関係など関係なしに自分の意見もしっかり聞いてくれる、実力さえあれば必ず昇進できるといったところが、自分の夢を実現させるための近道だと感じたのです。
―――また理系であるがゆえに直面した困難などはありましたか。
提案、販売する題材がコンピュータであったので、さほど困難に直面することはなかったのですが、文系ではなかったので英語力不足は感じましたね。毎日英字新聞を読むことを習慣づけるなど、英語力を伸ばす努力をしました。
―――飛び込み営業は精神的にも厳しい世界だと思いますが、どのように営業力を鍛えましたか。特に気を付けていた点があれば教えてください。
当時、オリベッティは欧州最大のシステムインテグレータでしたが、日本国内では馴染みがなく、タイプライターのイメージしかなかったため、営業時は必ず会社説明から始めました。飛び込み営業では、まず受付から担当者へ繋いでもらわないといけないので、何をしている会社で何を紹介したいのか、また自分は何者なのかということを短時間で説明する、いわゆるエレベーターピッチが絶対条件です。ターゲットとなる部署に取り次いでもらうために、短いメッセージで丁寧かつ明確に情報を伝えることを特に気を付けていました。トライ&エラーで少しずつ営業力が鍛えられたと思います。今考えれば、実に欧米志向的なやり方ですね。
―――伊オリベッティ社と英国ケンブリッジ大学との共同ラボのテクノロジーを日本に投下するマルチメディアタスクホースに選抜され、後に目標として掲げていたトップセールスとなったとのことですが、これまでの営業と違った点はなんでしたか?
通常の営業は、営業マテリアルがあり、価格表があり、営業ツールが全て整ってから営業活動を行うのが当たり前かと思いますが、マルチメディアタスクホースでは、まだ日本に無い最新最先端のテクノロジーのターゲットとなる新顧客を新たに開拓し、訪問、必要であればデモを行う必要がありました。いわゆる新規事業開拓(ビジネスデベロップメント)です。商品よっては、社内でまだ商品化されていなかったり、販売価格もまだ未確定なものもありましたので、タスクホースのテクノロジー商材は全てが揃う前に見切り発車して、ターゲット顧客のフィードバックを聞き、動きながら決めていくようなプロセスでした。この手法は、Googleがまだサービスローンチする前にβ版を世に出し、意見バグ情報収集、それをベースにサービスローンチしているのと同じと感じますね。そしてこの手法は、まさにイスラエルのスタートアップのビジネスデベロップメントと全く同じ方法なのです。
元マイクロソフトジャパン株式会社副社長からの誘いで独立、無収入社長へ
―――これまでの平野さんの飛躍が認められ、元マイクロソフトジャパン株式会社副社長からのお誘いで、資金調達から会社設立までを手掛ける事業を無収入で行うことになったとのことですが、具体的にどのようなことをされていたのですか。
当時、投資企業様向けのプレゼン資料からビジネスプランの資料作成、プレゼンテーションまで、全て一から自分で作りました。日課のように毎日資料を作成、訂正、提出といった作業を繰り返し、A4用紙に書いたメモをプレゼン化し、エクセルとにらめっこしながらビジネスプランを作成するといったことが日常茶飯事でしたね。出先でもカバンの中はいつも紙でいっぱいだったことを今でも思い出します。スケジュール通りにいかないことや思い通りにいかないこともたくさんありました。また約一年間無収入だったので、友人とも会わずに100円マックの節約生活をしていましたよ。(笑)その間は、実家の両親に大変お世話になり、両親にはいつも感謝しています。とにかく朝から晩まで、考える暇もないほど仕事に没頭していました。そして努力の末に、おかげさまで複数の投資企業様から3億5000万円の資金調達に成功しました。
―――当時、独立のお話を受けたときに迷いはありませんでしたか。
オリベッティ時代の顧客であった金子氏から、「給与なしでアメリカの最新テクノロジーを利用したインターネットサービスの会社を一緒に設立しないか?」とお誘いがあった時、正直迷いよりも嬉しさが勝りました。今でもそうですが、人から必要とされることはとても嬉しいことです。そして最新テクノロジーに惹かれ、何よりも会社を設立したいという夢があったので、素直に「YES」と回答しました。
―――毎日資料を作っては投資家へプレゼンテーションされいてたとのことでしたが、特にどのような点で営業出身ということが役に立ったと思いますか。
営業時代、相手を意識し、常に先の先を読むようにしていた点が役に立ったと思います。基本となる資料作成の部分でも常に相手を意識し、先の先を読むようにしていました。投資企業の担当者に説明をして資料をお渡しした後、その資料が社内でどのように利用されるのか、いかに自分が説明しなくても各部署の担当者や役員の方々にわかりやすくご理解していただける資料、そして社内で伝達される際に、担当者が説明しやすい資料を持たせるなどの工夫をしていました。この考えはやはり実際に営業をしていたからこそ気がつく点であると今でも感じます。
―――12歳のころから社長になることを夢見ていたとのことでしたが、実際に社長になってみてどのような気持ちでしたか。
長年の夢を実現できたことは、素直に嬉しかったです。 初心貫徹できたことが大きな自信となり、さらなる自分の力になったと感じました。同時に新たな夢・目標・責任感が生まれました。もっと明るい未来にしたい、もっと豊かな生活環境づくりに役立ちたい、社名のように、Beare!(イタリア語:幸せ)になってほしい、みんながもっと幸せになれる、最先端で豊かな社会づくりに貢献していくことをゴールに今も走り続けています。
日本初上陸の最先端テクノロジーで豊かな未来づくりへ
―――現在は日本初上陸スタートアップの日本展開を支援されていますが、日本市場は他の国と比べてもかなり異質で海外企業はなかなか進出しにくいというお話を聞いたことがあります。実際にそのような難しさを感じることはありますか?またその場合、どのようにして状況を打破していますか。
海外企業からすれば、日本ビジネスのポテンシャルは大変大きいものです。しかし、待ち構えているのは国内の競合、言語や文化の違いなど様々な壁です。そこで弊社では、日本進出をしたい海外企業に対して、下記のサービスを提供しています。
①日本市場情報提供
世界のビジネス共通言語は英語です。海外の場合、英語でネット検索すれば、海外企業の競合情報をすぐに入手できます。しかし、日本企業の多くは日本市場に特化したビジネスを行っているので、商品情報を英語にする必要性がないのです。当然、海外企業が英語で検索を行っても、日本企業の情報や商品情報などを入手できないのが現実です。弊社では、戦略立案の前段階で、海外企業に対し、事前に日本国内競合の情報を提供するだけでなく具体的に調査・分析を行い、顧客に合った適切なアドバイスを行いながら戦略立案を推進しています。
②ペーパー文化支援
欧米では、ビジネスミーティングを行う際、口頭ベースで情報共有を行うのが一般的でありますが、一方で、私たち日本人は、基本的にペーパーベースで情報交換を行い、紙資料をベースに社内稟議をあげていく社内プロセスが一般的かと思います。海外と比較すると、日本はペーパー文化が未だに続いていると感じます。そのため弊社では、ターゲットとなる日本の企業様向けに、海外企業側の情報をいち早くまとめ、日本ビジネス文化にマッチするようにローカライジゼーションし、アドバイスを行いながらご提案・商談を進めています。
③決定責任者へのアプローチ&エンゲージメント
海外では、営業マンが決定権を持つ責任者と会いたいと言えば、容易に会えるのが一般的ですが、日本では基本的にボトムアップ営業でステップバイステップで進んでいくのが一般的であります。
知らない会社の営業マンが、いきなり決定権のある責任者と打ち合わせをしたいと申し出ても、基本的には会わせてもらえず、反って失礼だと思われてしまいます。外国人だからと言う理由で直接会えるケースもまれにありますが、基本的にステップバイステップで、一歩一歩のアプローチと長い時間をかけ、一個一個プロセスを踏んでいかなければならないのが、日本の独特なビジネス文化です。
海外企業とっては、この独特な日本ビジネスのプロセスが実にフラストレーションとなる事が多々見られます。
弊社では長年培ってきた経験を生かし、海外企業の国内ビジネス展開が円滑かつスピーディーに推進できるようなビジネス戦略立案をご提供しています。
同時に、速やかに意思決定者へのアプローチを代行して行わせていただいております。両社が良いより関係を築けるよう、エンゲージメント支援も行っています。
④日本初上陸海外企業支援
日本初進出の海外企業は、日本に支社がないため、大手日本企業との直取引ができず、グループ会社や付き合いのある代理店会社経由での取引になってしまうことが多々あります。
海外企業から、一度見積を提示し、ディスカウントも行い、注文書を頂ける状況になって、やっと目の前に注文書がくると思いきや、また指定されたグループ会社と最初からプロセスのやり直しで、また再度ディスカウントを要求され、また時間をかけて、見積り提示、価格交渉の繰り返しでかなりの時間がかかってしまうのがネックです。
弊社では、日本市場へのエントリー戦略の一つとして、事前にプロセスシミュレーションを行い、両社間での戦略意見交換を行いながら両社合意の上、商談へと進めています。
―――これまで約40社の日本進出支援をされていますが、その中でも特に印象に残っているのはどのような企業でしょうか。
当時、全世界の放送局市場の約70%シェアを持つ、世界最先端の映像受信技術を提供するイスラエル企業です。
―――初めてイスラエル企業と仕事をした時、どのような印象を受けましたか。
とにかく、アグレッシブでエネルギーに満ち溢れている!そしてお金!というのが非常に印象深かったです。今でもそれは変わらないですね。
―――これまで35回イスラエルを訪れており、600人以上のユダヤ人ネットワークをお持ちとのことですが、イスラエルビジネスで特に興味深い点は何でしょうか。また日本企業がイスラエル企業に学べる点は何だと思いますか。
そうですね、特に興味深い点は「スピード」です。メール返信のスピード、次回の展開を予測するスピード、そして何より決断するスピード。イスラエル人は日本人よりもせっかちに感じます。そのせっかちがプラスに働き、スピード感へとつながっていると思います。新型コロナウィルスのワクチン接種へのイスラエルとしての判断はまさにそれです。リスクはあるにせよ、世界で一番早く決断した結果、ワクチン接種率が世界一になりました。これも私からすると決断のスピードだと思います。そして、この決断のスピードは日本人、日本企業も学べる点だと思います。
―――今特に注目しているジャンルはなんでしょうか。
画像分析ソリューションですね。省人化を進めるためのものやマーケティングのためのものなど色々ありますが、中でも注目なのは映像解析や複数のセンサーで来店者の動線や表情を分析、また商品がどのくらい手に取られているのか、一度手に取られたものの購入に至らなかった商品は何か、などのデータを見える化するものです。
今後の目標、展開
―――最先端テクノロジーを通じて、豊かな未来づくりに貢献されたいとのことですが、具体的にどのようなことをされたいのですか。
最先端テクノロジー通じて、豊かな未来づくりを実践していく為に、現在も世界最先端の技術を組み合わせて新たな技術革新を起こす努力を続けています。テクノロジーがツールとなり、性能・機能・価値を向上させ、「元気な日本復活」に向けて、日本の暮らしの中のスタンダードとなる事で、知らず知らず未来が豊かなになっていきます。そして、加速度的に技術革新が進む時代に向けて、脱CO2・脱廃棄物など地球環境への配慮やライフサイクルコストの低減など多岐に渡り貢献できればと考えています。
―――今後の目標や展開予定があれば教えてください。
ベアーレ・コンサルティング株式会社は、おかげさまで2021年で25周年を迎える事が出来ました。全てに関わってくださった、全世界中の皆様に感謝の気持ちで一杯です。25年のこの節目に、より一層日本企業様へ貢献できればと強く考えています。これまで培ってきた経験とイスラエルとの交渉術やエンゲージメントコミュニケーションスキルを、今後日本国内へ広げていきたいと考えています。
実は、もう既にこの取り組みをスタートさせており、一部上場企業様へ海外企業とのエンゲージメントコミュニケーション支援などを行っています。今後、より多くの日本企業様にさらなる新たな価値とソリューションの創出を目指して、邁進して参りたいと考えています。
そして、IT技術の進化により、これまで経験したことのない急速な社会変化・業界改革が起こっています。これからの時代を生きる子どもたちにも、このグローバルコミュニケーションスキルは絶対必要だと強く確信しています。
日本の未来を創る子どもたちに、時代を生き抜く資質・能力として共有して行きたいと考えています。明るい・豊かな日本の未来のために、今後も貢献・努力し続けていきます。
取材を終えて
今回平野さんにインタビューをお願いしたところ、これまでの経歴がきれいにまとめられたプレゼンテーションを用意され、とてもわかりやすく丁寧にお話をして頂いたことがとても印象的でした。こういったところにも細かな気配りやこれまで培ってきた営業力が表れています。言葉の節々から仕事への情熱、愛情、向上心といったものが感じられ、そして何よりも仕事を楽しんでいるということがその表情からも窺えました。インタビューでもお話いただいたように、一般的に困難と感じられるようなことでさえも、試練をチャンスへと変えるポジティブな姿勢は、仕事だけでなく普段の生活においても見習いたい点です。今後も最先端テクノロジーを通して豊かな未来づくりに貢献される平野さんの動向から目が離せません。