新型コロナウイルスの感染拡大は、社会や経済にさまざまな影響を与えた。そのうちのひとつに「後継者の不在率」がある。ビフォーコロナよりも後継者の不在率が大幅に低下したのだが、なぜコロナ禍でこのような現象が起きたのだろうか。その理由をデータから見ていこう。
黒字なのに廃業、後継者問題が深刻に
日本には創業から100年以上の企業が約3万3,000社、創業から200年以上の企業が約1,300社あると言われている。これは、世界各国と比べても、断トツに多い数字だ。一方、最近は黒字にもかかわらず、後継者不足で廃業を余儀無くされている日本の企業が目立っている。
日本政策金融公庫が調べたところ、年齢が60歳以上の経営者の中で将来的に廃業を考えている割合は、実に50%以上に上るという。その約3割が後継者を見つけられないことを理由にしており、このような課題の解決に国も本腰をあげて取り組み始めている。
民間調査会社の帝国データバンクによれば、全国の全業種の企業における後継者不在率は、2011年から2020年にかけ、以下のように推移してきた。
国の対策を講じたものの、予想通りの成果は出なかった。この10年で後継者不在率は65.0%を下回ることはなく、ほぼ横ばいの状況が続いてきた。しかし2021年の調査では、後継者不在率が61.5%まで下がった。なぜいきなりこのようなことが起きたのか。
経営者の年代別の後継者不在率は?
帝国データバンクの報道発表でその理由のひとつとして「コロナ禍で事業環境が急激に変化するなか、高齢代表の企業を中心に後継者決定の動きが強まった」と分析している。
特に、80代以上の経営者の後継者不在率の低下が目立っており、調査開始以来、初めて3割以下となったという。
一方で帝国データバンクは、後継者不在率が下がった要因は、コロナ禍だけではないとしている。具体的には、次のような点も不在率の低下につながったと考えられるという(以下、帝国データバンクの報道発表から引用)。
・柔軟な発想や対応力がある若い世代、生え抜きの役員など後任に将来を任せたいなど、後継者問題に対する経営者の心境変化も影響している
・地域金融機関を中心にプッシュ型のアプローチが徐々に成果を発揮し始めている
・第三者へのM&Aや事業譲渡、ファンドを経由した経営再建併用の事業承継など支援メニューが全国的に整った
このような点が後継者不在率の低下を後押ししているのであれば、コロナ禍が収束したあとも不在率の低下は続いていくかもしれない。
業種別ではどの業種で最も後継者不足が顕著?
ちなみに、帝国データバンクの発表では、業種別の後継者不在率も明らかにされているので、参考までに紹介しておこう。
最も後継者不在率が高いのは「建設業」で67.4%だった。逆に、「その他」を除けば「製造業」が53.7%で、全業種の中では最も低い結果となった。2020年との比較で後継者不在率が最も低下したのは「不動産業」で4.7ポイント減だった。
また、帝国データバンクは都道府県別の後継者不在率も算出している。2021年のデータで最も不在率が高かったのは74.9%の「鳥取県」、それに続くのが「沖縄県」で73.3%という結果だ。最も不在率が低かったのは「三重県」で35.8%だった。
コロナ禍が収束したあとの調査データに注目を
今後注目したいのは、新型コロナウイルスが収束したあとの後継者不在率の推移だ。再び後継者不在率が高まれば、国はさらに事業承継問題の対策を拡充する必要が出てきそうだ。
黒字の企業は日本経済にとって大きな財産だ。このような企業がより多く存続していけば、雇用も安定する。帝国データバンクの2022年の調査結果にも注目したい。
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文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)