事業継承,タイミング
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

我が子のように育ててきた会社をいつかは誰かに譲らなくてはならない。

それは企業トップの逃れられない宿命です。2013年の税制改正において、事業承継税制(非上場株式等における相続税・贈与税納税猶予制度)の適用要件などが見直されることが決まっています。「これによりどんな影響がでるのか?」と事業継承に関心を強めた方も多いと思います。
次世代への継承は、引退直前に考えても遅すぎます。いつかは必ず来ることなのですから、できるだけ早いうちに継承を考えた事業の進め方をしておくべきなのです。今回は、日本に古くからある技術伝承の方法を学び、事業継承のヒントを得るとともに、事業承継税制の適用要件の見直しについてみていきたいと思います。

伊勢神宮で行われてきた技術伝承

事業継承,タイミング
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

私たち日本人は、古来より伝統技能や技術の伝承を重ねてきた民族です。
いわゆる職人と呼ばれる人たちをはじめ、代々、自分の持つ技術や経験を次の世代に伝えるということを繰り返してきました。日本で技術伝承が着実に繰り返されてきたのは、日本の持っている「様式」がそれほど大きく変わらなかったからです。
たとえば宮大工。伊勢神宮には「式年遷宮」といって、20年に一度、神宮や橋などを作り変える神事があります。これが1600年にわたって続いてきました。

建築物を作り変える際には、当然ながらさまざまな技術を持った職人が参加しなくてはなりません。大工、橋梁、そして彼らが使う金物など、さまざまな専門家が、それぞれの領域で技能を発揮するわけです。20年前は新人だった人が、次の「式年遷宮」を迎えるときには、親方として参加し、その若者はさらに次の時代に親方となり教えていく。

船大工や船鍛冶による技術伝承

事業継承,タイミング
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

また、日本のように四方を海で囲まれている島国であれば、船造りも良い例となるでしょう。
ひとつの船を作るためには、船大工や船鍛冶がおり、彼らが使う和釘や木材などが必要になります。それらを調達する鍛冶職人や木こりは、新しい船の発注が続くことによって技術を伝えていけるのです。

誰もが通る道として見習いとして入門し、技術を覚えて自分のものにする。これが技能と呼ばれるものです。さらに経験が重ねられて、熟練されていくと、ほかの職人が真似たくても真似できない、オンリーワンの強みになっていきます。

見習いくんの未来を明るくしよう

事業継承,タイミング
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

しかし、古くから伝わる技術伝承でさえ続けられないケースが往々にして発生します。 それは必要とされる技術が変わるためです。仮に神社が木材ではなくオール鉄鋼で作られるのが当たり前の社会になったら、木材に関する技術はいらなくなります。

こうしたことは技術や産業の発展の中でよく起こることですね。また身近な人材が技術を継承してくれなかったら、その技術はその人の代で途絶えてしまうことになります。事業を自分の代で止めないためにも、社会や技術の変化を的確に捉え、継承する人材の確保や仕組み化を行うことが重要です。

事業承継税制改正前の概要

一定の要件を満たす場合には、後継者が相続・贈与により取得した一定の非上場株式に係る課税価格の80%(贈与は100%)に対応する税額が納税猶予されます。

一定要件:贈与の場合には、先代の経営者が役員を退任することが要件、また相続・贈与後5年間は「雇用の8割以上を維持」「親族である後継者が代表者を継続等」の要件を満たさないと納税猶予が打ち切られてしまいます。

事業承継税制改正前の問題点

要件のうち、最も利用しにくい点に「雇用の8割以上を維持」要件がありました。しかも5年間です。要件を外れた時点で、納税猶予額について全額の納付が求められてきます。その他使い勝手の悪い点については改正の内容をみていくとよくわかります。

改正の概要

1 親族以外の事業承継が可能
従来の経営者の親族である後継者が代表者に限定されていましたが、親族以外の後継者の事業承継が可能になりました。

2 雇用維持要件8割の緩和
従来の5年間での8割以上の雇用維持要件が、改正により雇用の8割以上を5年平均で評価することになりました。一時的に8割を下回っても、納税猶予の打ち切りが即行われることがなくなりました。

3 先代経営者の役員退任要件の緩和(贈与)
贈与税の納税猶予において、先代経営者の役員退任要件が「贈与時において認定会社の代表権を有していないこと」と緩和されました。

4 利子税の負担軽減
納税猶予打ち切り後の利子税が2.1%から0.9%に引き下げになりました。また納税猶予打ち切りの場合に延納または物納を選択することができるようになりました。

5 事前確認制度の廃止
改正前は経済産業大臣の認定と事前確認が必要でしたが、今回の改正で事前確認が不要となり、事後的に対策が可能になりました。

6 その他
株券の発行が不要になったこと、債務控除方式の変更により納税猶予額のデメリットがなくなる等の改正。

この改正案は国会で成立後、平成27年1月施行となります。

まとめ

「自社の持つ技術的な意味合いでの財産は何か?」
「それをどうやって若手に伝えていく仕組みを作るか」
「新しい技術が出てきた際に、旧来の技術とどう融合させたり、住み分けをはかるのか」
この3つの視点を持っているか否かで、引退後の自社の運命は180度変わってくることでしょう。
また、経営者の頭を悩ます事業承継による相続税や贈与税の負担といった点に関しては、今回の事業承継税制の改正により、経営者の悩み・負担も軽減されていけばよいなと思います。税制改正を期に、早めの対策を考えていきましょう。(提供:ベンチャーサポート税理士法人