フィリップスオークションの「20th Century & Contemporary Art」がロンドンで開催され、2021年10月14日にデイセールが行われた。平面作品を中心に20世紀以降の現代アートが多数出品され、ANDARTで取り扱いのあるアーティストの作品も好評を博した。本記事では、デイセールの落札額TOP5の作品と、ANDARTに関連する注目作品をピックアップして紹介。落札価格は手数料込み、1ポンド=155.40円(10月14日終値)で計算。
5)スタンリー・ホイットニー《Iraqi Blues》
落札価格:約4,699万円(£302,400)
画像引用:https://www.phillips.com/
スタンリー・ホイットニーは、アメリカ生まれのアーティスト。1970年代半ばから、基盤の目のように色のブロックを配置する絵画で、幾何学的な構成の可能性を模索してきた。ミニマリズムやカラーフィールド・ペインティングなどからの影響がうかがえる。ホイットニーは色と音楽が制作の原動力だと語っており、本作のタイトルは2003年に発売されたエルビス・カーデンの音楽アルバムから取ったもの。予想落札価格を大きく上回る結果となった。
予想落札価格:約1,864万円〜約2,797万円(£120,000 – 180,000)
4)エミリー・メイ・スミス《Industry City》
落札価格:約5,874万円(£378,000)
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アメリカ出身のエミリー・メイ・スミスは、シュルレアリスムや象徴主義を現代風に昇華させたような、物語性のある油彩画で知られる。赤いしずくが滴る夕暮れという不気味な情景がポップなタッチで描かれた本作には、ルネ・マグリットやサルバドール・ダリの影響が感じられる。予想落札価格の5倍以上となる高値で落札され、第4位をマークした。
予想落札価格:約777万円〜約1,087万円(£50,000 – 70,000)
3)ジョージ・コンド《Gold Nude》
落札価格:約7,440万円(£478,800)
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ニューヨークを拠点に活動するジョージ・コンドは、デフォルメされたややグロテスクな表現を特徴とするアーティスト。短期間ではあるがアンディー・ウォーホルのスタジオ「ファクトリー」で働いていたこともあり、ジャン=ミシェル・バスキアやキース・ヘリングとも親交があった。既存のイメージを新しいコンテクストに置き換えるのがコンドの作風で、本作はアンリ・マティスとパブロ・ピカソの裸体像を合体させ、背景にはグスタフ・クリムトの黄金を引用したように見える。 予想落札価格:約3,108万円〜約4,662万円(£200,000 – 300,000)
2)ジョージ・コンド《Grandpa (Old Red with Bubbles)》
落札価格:約1億2,571万円(£809,000)
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1位は2作品が同額で並んだ。ひとつは、3位と同じくコンドの作品。「グランパ(おじいちゃん)」というタイトルの付いた、赤い毛に覆われた怪物のようなポートレートは、ユーモラスでありながらグロテスクさも備えている。この赤いキャラクターは、コンドがウィーンの美術史博物館で目にしたアルブレヒト・デューラーの祭壇画にインスピレーションを得て生まれたもので、1990年代半ばに制作された他のコンド作品にも登場する。予想最高落札価格の約2倍の価格を付け、見事1位に輝いた。
予想落札価格:約4,662万円〜約6,216万円(£300,000 – 400,000)
1)ゲルハルト・リヒター《Abstrakt 474-1》
落札価格:約1億2,571万円(£809,000)
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ドイツ最高峰の画家と言われる90歳の現役アーティスト、ゲルハルト・リヒター。中でもマーケットで高い人気を誇るのが、この作品を含む「アブストラクト・ペインティング」シリーズだ。本オークションでは予想を倍以上も上回り、落札価格第1位という結果に。このシリーズは40年以上にわたり、さまざまな画材を試しながら続けられているが、本作はスキージ(シルクスクリーンで使われるゴムベラ)が使われている初期のもの。イエローとブルーの調和が美しい画面に、アクセントをつけるようにスキージの跡が残されている。
ANDARTでは、同じく「アブストラクト・ペインティング」シリーズの中でも制作年が2014年と新しく、スキージのより繊細な効果が現れた《Abstraktes Bild (P1)》を取り扱っている。
予想落札価格:約6,993万円〜約8,547万円(£450,000 – 550,000)
ANDART編集部が落札情報をピックアップ!
バンクシー《Girl with Balloon》
落札価格:約2,349万円(£151,200)
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バンクシーの代表的な《Girl with Balloon》のプリント作品が登場。やはりバンクシー作品は人気が高く、予想最高落札価格を超えての落札となった。本オークションと同日に開催されたサザビーズ (ロンドン) の「Contemporary Art Evening Auction」には、同じ図柄の《Love is in the Bin》が出品された。そちらは2018年のオークションでの落札直後に裁断された「シュレッダー事件」で有名なもので、約28.9億円 (1,858万ポンド)で落札され、バンクシー作品の落札価格としては史上最高額を記録した。
予想落札価格:約1,398万円〜約2,331万円(£90,000 – 150,000)
ゲルハルト・リヒター《Abstraktes Bild (P1)》
落札価格:約587万円(£37,800)
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本オークションにはリヒターの「アブストラクト・ペインティング」シリーズが複数出品され、全てが予想落札価格を上回る結果に。本作は、リヒターが国際的なアートサービス会社「HENI Productions」とコラボレーションをした最初の作品。2014年に制作された16の限定版プリントのうち、最初のエディションであるP1は、シリーズの中でも最大かつ最高と評価されている。
ANDARTで取り扱っている同作の別エディションのものは、スイスのバイエラー財団から特別顧客に直接販売されたという来歴を持つ。非常にコンディションが良く、これからも評価されると考えられている。すでに完売するほどの人気で、会員間取引での取引開始を待ち望む声を頂いている。
予想落札価格:約233万円〜約310万円(£15,000 – 20,000)
ゲルハルト・リヒター 6点組
《Cage P19-1》《Cage P19-2》《Cage P19-3》《Cage P19-4》《Cage P19-5》《Cage P19-6》
落札価格:約1,762万円(£113,400)
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同じくリヒターによる6点組の抽象画が、予想最高落札価格の3倍近い価格で落札された。
アメリカを代表する現代音楽家ジョン・ケージに共感を示しているリヒターは、ケージの曲を聴きながら制作した作品を、2007年に《ケージ》という6点のペインティングシリーズとして発表。本作は「HENI Productions」が制作したそのプリント作品となる。
予想落札価格:約466万円〜約621万円(£30,000 – 40,000)
ダミアン・ハースト 「The Virtues」より8点
《H9-1 Justice》《H9-2 Courage》《Mercy H9-3》《Politeness H9-4》《Honesty H9-5》《Honour H9-6》《Loyalty H9-7》《Control H9-8》
落札価格:約1,409万円(£90,720)
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NFTプロジェクト「The Currency」でも話題になったダミアン・ハースト。ホルマリン漬けのサメなど死生観に疑問を投げかけるセンセーショナルな作品で知られるが、実は日本人に馴染み深い「桜」をモチーフにした作品を複数手掛けている。本作のそれぞれに付けられたタイトルは、武士道の心得から引用した8つの徳。この連作は、2021年にオンライン限定で販売され、暗号資産での支払いを受け入れたことでも注目された。
予想落札価格:約466万円〜約777万円(£30,000 – 50,000)
ジュリアン・オピー《Woman taking off pants. 3.》
落札価格:約1,331万円(£85,680)
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シンプルな描線と配色によるスタイリッシュな表現が特徴的なイギリスのアーティスト、ジュリアン・オピー。オピー自身が日本の浮世絵やアニメのセル画をコレクションしていることもあり、平面性が強調された日本のアートの影響もうかがえる。本作は、大型の人物像を得意とするオピーによる、縦2.3メートルを超えるセミヌード作品。予想を上回る落札価格で、マーケットでの人気を証明した。
予想落札価格:約777万円〜約1,087万円(£50,000 – 70,000)
翌日に行われたイブニングセールの結果はこちら↓
個性強めな作品がランクイン!10月15日フィリップスイブニングセール落札額TOP5作品解説
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文:ANDART編集部