2021年10月14日、サザビーズ (ロンドン) の「Contemporary Art Evening Auction」が開催された。この中でもひときわ人々の関心を引いたのは、2018年のオークションでの落札直後に裁断されたバンクシーの作品≪Love is in the Bin (愛はごみ箱の中に) ≫だ。
本作品は、約28.9億円 (1,858万ポンド)という高額で落札された。2018年当時、裁断される前に 約1.5億円 (104万2000ポンド) で落札されたものであり、裁断後も当初の落札予想価格は 6.2億円〜9.3億円 (400万〜600万ポンド) であったため、予想最高落札価格の3倍以上の価格で落札されたかたちだ。
また、これまでのバンクシー作品のオークションでの最高落札は、2020年に”医療従事者への感謝”を風刺画に仕立てた≪Game Changer≫の 2021年3月のクリスティーズ(ロンドン)オークションでの落札価格約 27.6億円 (2,090万ユーロ) であり、今回の結果はそれを上回り、バンクシー作品の落札価格としては史上最高額となった。
画像引用:https://www.sothebys.com/
サザビーズによれば、オークションにおいて9人もの人が10分以上にわたって入札合戦を繰り広げたといい、落札者はアジアのコレクターだったという。
今回も何らかのサプライズが起こるのではないかとも推測されたが、大きな「事件」は起こらなかったようだ。ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、サザビーズは今回の販売に先立ち、バンクシーが今回もサプライズを計画していないかどうかを確認するために多大な努力を払ったとのこと。額装されたキャンバスの重さを測り、隠された部品がないことを確認し、シュレッダーから電池が取り外されていることを再確認した上でオークションにかけられたという。
しかし、この本作品は、なぜこれほど高額で落札されたのだろうか?この作品のもつ意味と、近年のバンクシー市場の動向から見てみよう。(※ 1ポンド = 155.61円で計算、落札価格は手数料込み)
目次
▍≪Love is in the Bin (愛はごみ箱の中に) ≫ とは?
本作について振り返ってみよう。
2018年10月5日、サザビーズのコンテンポラリーアート・イブニングオークションにバンクシーの作品 ≪Girl with Balloon (風船と少女) ≫ が出品され、104万2000ポンドの落札額をハンマーで叩きつけると同時に、額縁に仕込まれたシュレッダー機構によって、キャンバスが切断されていった。
画像引用: https://news.artnet.com/
作品が取り外された際、機械は途中で止まり、キャンバスは完全に裁断されることなくひとつの作品として自立する状態となっていた。これについて、バンクシーは自身のInstagramで「リハーサルでは毎回うまくいっていた」と主張している。
この事件は、あまりにも巧妙に仕組まれており、また、セールの最終ロットというタイミングで起こったこともあって、アーティストとサザビーズのコラボレーションを疑う声もあったが、サザビーズはバンクシーの計画をまったく知らず、関与もしていないとしている。
これは、作品を「自壊」させるという行為でありながら、破壊行為ではなく、創造の瞬間だった。バンクシーの ≪Girl with Balloon≫ を新たな芸術作品に変えた行為であり、史上初のオークションの最終に制作された作品であり、BBCのアートエディター、ウィル・ゴンペッツによれば「21世紀初頭の最も重要な芸術作品のひとつとして見られるようになるだろう」とも言われている。
▍波紋をよび、バンクシーの知名度を一気に向上させた作品
オークションの会場で作品が自壊するという「事件」の後、全世界で30,000件のニュースが報道された。
この事件はインターネット上でも拡散され、バンクシーのInstagramのフォロワー数は一夜にして100万人増加。オークション終了後、バンクシーのスタジオであり認証機関であるペストコントロール社はすぐに新しい証明書を発行し、作品タイトルは ≪Girl with Balloon (風船と少女) ≫ から ≪Love is in the Bin (愛はごみ箱の中に) ≫ へと変更となった。
画像引用:https://www.sothebys.com/
オークション後、裁断された作品をサザビーズが公開すると、雨の中にもかかわらず、5,000人以上の来場者が本作を見に長蛇の列をつくったという。
落札者は、裁断されてしまった作品の購入を辞退することも許可されたが、この様子を見てそのまま買い取ることを決意。「最初はショックでしたが、自分の作品が歴史に残ることになると思いました」と述べている。本作品は間違いなく、これまでにバンクシーが制作した作品の中でも最も重要な作品のひとつと考えられるだろう。
▍≪Love is in the Bin≫ 以降、高騰するバンクシー作品
オンラインアート価格データベース「Artprice.com」のレポートによると、バンクシーは2021年上半期にオークションで約140億円 (1億2300万ドル) を売上、売上高ランキングで、存命中のアーティストの中でトップに躍り出ている。全期間を合算した総合ランキングでも、なんとピカソ、バスキア、ウォーホル、モネに次ぐ5位につけている。
引用:https://www.artprice.com/
「事件」の起こった2018年以降、バンクシー作品の売上高と販売数はともに大きく伸びており、2021年は上半期のみで前年1年間の倍近い売上を上げている。
また、作品によって価格は異なるので単純比較はできないが、単純に売り上げ高を作品数で割った平均単価を見ると、「事件」前の2017年と比較し、2021年はその単価が9倍近くとなっている。今回の作品が重要な作品であるだけではなく、≪Love is in the Bin≫ 以降バンクシー人気は高まる一方であり、作品価格そのものが上昇していることも今回の高額落札の要因のひとつだろう。
画像引用:http://www.noiseking.com/
「I Can’t Believe You Morons Actually Buy This Shit(こんなものを買うバカがいるなんて信じられない)」と作品の中で市場を否定してきたバンクシー。その精神を体現するかのように仕込まれた作品の「自壊」がさらに彼の市場を後押しするとはなんとも皮肉だが、彼のアートにはそれだけの魅力を感じる人が多いことを物語っているようだ。
多くの人々を魅了し続けるバンクシー。ANDARTでは、このバンクシー作品を共同保有することができる。現在は、大手企業をパロディーにした≪Very Little Helps≫ を販売中のほか、≪Jack and Jill (Police Kids)≫ ≪BOMB LOVE≫ といった作品のユーザー間取引も実施中だ。
高騰し、個人で所有することは難しいバンクシー作品だが、「共同保有」というかたちで、彼の作品をコレクションしてみるのはどうだろうか。
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文:ANDART編集部