「9.11」隠蔽されていた真相が明らかに バイデン、20年目で文書を公開?
(画像=Jean-MarieMAILLET/stock.adobe.com)

世界を震撼させた「9.11」から20年が経過した今、アフガニスタンはテロ攻撃の元凶となったタリバンの手中に再び落ちた。何とも皮肉な運命である。

一方、アフガニスタンから完全撤退した米国では、バイデン大統領が9.11に関連する一部の文書を巡り、機密指定の解除検討を指示する大統領命に署名した。これにより、未だ謎に包まれたままの真相が解明される可能性が高まっている。

ブッシュ政権が隠蔽を望んだ「サウジ・コネクション」

米国史上最悪の同時多発テロ事件、9.11は、2001年9月11日、約3000人の命を奪い、その後20年にも及ぶアフガニスタン紛争の引き金となった。

事件発生当初からさまざまな陰謀説や憶測が流れていたが、遺族らは長年にわたりサウジアラビア政府によるテロへの関与、俗にいう「サウジ・コネクション」を立証する資料の存在を主張し続けてきた。

2016年には遺族がテロに関与した海外の政府に損害賠償を請求できる「テロ支援者制裁法(JASTA)」を成立させるなど、法的にサウジアラビア政府を制裁可能な地盤を固めた。当時政権を握っていたオバマ大統領は法案への署名を拒否したが、議会が賛成多数で再可決した。

事件の全貌解明を複雑にしたのは、テロ発生当時に政権を握っていたブッシュ大統領だと指摘されている。テロ発生直後にブッシュ大統領が真っ先に行ったのは、捜査資料を機密指定にし、サウジアラビアの有力者とイスラム過激派へのテロ資金提供を結びつける可能性のある証拠を抑圧することだった。

世界最大の産油国のひとつであるサウジアラビアとの関係を掻き乱し、国家の安全保障が危険にさらされることをホワイトハウスは恐れた。サウジアラビアはワシントンで多大な政治的影響力をもつ、米国の同盟国でもある。ブッシュ大統領の意思はオバマ政権、トランプ政権へと受け継がれ、FBI(連邦捜査局)が発見したサウジ・コネクションの潜在的証拠は闇に葬られたまま、20年という月日が経過した。

否定しきれない?サウジ政府関与の可能性

「真相を突き止めたい」という遺族の思いに反し、大部分の米国当局者は疑惑を否定してきた。しかし、当時パウエル国務長官の主席補佐官を務めたローレンス・ウィルカーソン氏の口からは、政権の内部でもサウジ政府の関与を疑う声があがっていたことが明らかになっている。

元来、9.11とサウジアラビアを切り離して考えることは、どう客観的に見ても不自然な話だ。サウジ政府の関与の有無に関わらず、国際テロ組織「アルカイダ」の初代リーダーで9.11の首謀者だったオサマ・ビンラディン容疑者は、サウジアラビア有数の富豪一族のメンバーだった。また、実行犯19人中15人もサウジアラビア国籍と、あまりにも結び付きが濃厚だ。

遺族が背後にサウジ政府の影を感じ、裁判にもちこんだのも不思議ではない。

サウジ高官がテロ資金を提供していた証拠発見?

遺族側の弁護団は、現在までに約1万1000ページの内部文書を米政府から収集したほか、サウジアラビア側の多数の証人を確保するなど、真相解明に向けて戦ってきた。これらの資料からは、すでにいくつかの新事実が明らかになっている。

たとえば、20ヵ月の調査期間を経て2004年に公表された最終報告書では、「サウジアラビアの高官がアルカイダに資金を提供したという証拠は発見されなかった」と結論付けられた。

ところが、弁護側が入手した資料からは、在米サウジ大使館の外交官1人を含むサウジアラビアの高官が、テロ実行犯のハリド・アルミダール容疑者など2人に間接的に資金を提供した可能性を示唆する複数の証拠が見つかった。この中には、カリフォルニア在住の男の家族宛てに、サウジアラビア大使の妻が送金した数万ドル(約数千万円)も含まれる。

FBIは他にもサウジ・コネクションに関する多数の「証拠」を収集したが、司法省はサウジアラビアを告発することなく調査を打ち切った。つまり、未だ公になっていない「真実」が、未公開の文書に存在する可能性が高いというわけだ。

大統領令で新たな真実が明らかになるのか?

追悼イベントを目前に控えた2021年9月3日、ようやく遺族に希望の光が見えた。大統領選の公約として、関連資料の機密解除を掲げていたバイデン大統領が動いたのだ。

しかし、すべての未公開文書が公になるのではなく、これらの文書をFBIが改めて見直した上で、どれを公開するか厳選するという。今回バイデン大統領が署名したのは、そのプロセスのための許可である。そのため「真相を解明するのに十分な収穫は望めない」と、悲観的に捉えている犠牲者の家族もいる。

遺族の中では「未解決」のまま

20年間にわたり、国民の命より自国の保身と国益を優先させてきた政府に対し、憤りを隠せない遺族も多い。9.11で夫を失ったクリステン・ブライトワイザー氏はメディアの取材で、遺族が戦っているのはサウジアラビア政府だけではなく、自国の政府でもあると語った。

「米司法省がサウジ王国を保護している理由を知りたい。私は夫の殺害で正義を奪われた。これ(米政府の行為)はただの隠蔽工作だ。」

20年という節目にタリバンが政権を取り戻したことに関しては、因縁めいたものすら感じる。遺族の痛みは一体どこへ向かうのか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

無料会員登録はこちら