あなたは納税準備預金を利用しているだろうか。税金の滞納を防止するほか、利息にかかる所得税が非課税になるなどの特典があるが、存在を知らない人も多い。この記事では、納税準備預金の特徴やメリット・デメリット、納税貯蓄組合の特例などを解説する。
目次
納税準備預金とは
納税準備預金とは、税金の納付をするための専用の預金である。納税者が納税資金の確保をうっかり忘れてしまい、税金を滞納してしまうことを防ぐための預金口座だ。
口座を開設し、入金すると、納税以外の目的で払い出すことが原則できなくなるが、口座に振り込まれる利息にかかる所得税が、非課税になるという特典がある。
利用するには、納税準備預金の取り扱いのある金融機関で、納税準備預金として口座開設をしなければならない。
税金の滞納額は年間6,000億円を超える
国税庁から毎年8月に公表されている国税の滞納額は、年間6,000億円を超える。直近の3年度分の滞納額(新規発生)は次のとおりである。
では、何の税金がもっとも滞納されやすいのだろうか。国税といえば、主に法人税、所得税、相続税、消費税であるが、この中で、滞納額が全体の約半分を占めている税金がある。「消費税」だ。
上記の表のとおり、直近の3年度の消費税の滞納額は、毎回3,000億円を超えている。しかも、地方消費税が含まれていないので、これも合わせれば、4,000億円を超える滞納額が生じる年度も出てくるはずだ。
消費税の滞納が多い理由は、赤字で企業が資金不足のときでも、納税額が発生するケースが多いからだろう。簡易課税を選択していれば、赤字でも納税額は生じる。一般課税でも、期中に納税額を予想していなければ、決算をして初めて「納税資金がない!」と気がつくこともあるだろう。
税金を滞納するとペナルティがある
税金を滞納すると、滞納した税金に対する延滞税が別途発生する。延滞税とは、法定納期限の翌日から実際に納税した日までの日数に応じて生じる、利息のような性質の税金である。しかも納期限(※)の翌日から2ヵ月を経過すると、延滞税の税率が上がる。滞納するほど高くなる税金だ。
延滞税の額が1万円未満であれば納税の必要はないが、それ以上になると、本税(滞納した税金)にプラスして納税しなければならない。このような無駄な税金を支払わずに済むよう、納税用の資金は納税準備預金を使って事業用の預金と別管理にしておくと安心だ。
(※)期限後申告や修正申告のときは、申告書を提出した日
納税準備預金の5つの特徴
・1.法人でも個人でも可
法人でも個人でも利用可能である。
・2.対象となる税金
国税も地方税も対象になる。国税には、利子税、延滞税、加算税、印紙税の過怠税も含まれる。
・3.同居親族の納税にも使える
納税準備預金から行う納税は、預金の名義人とその同居の親族の税金も可能である。
・4.払い出さずに振替納税やダイレクト納付の指定も可
あらかじめ振替口座として指定して引き落としで納税する、あるいは電子納税のダイレクト納付の口座として指定することも可能である。
・5.納税準備預金を取り扱う金融機関を要確認
納税準備預金の口座開設ができるのは、納税準備預金の制度を取り扱っている金融機関に限られる。納税準備預金を取り扱う金融機関は、都市銀行、地方銀行、信用金庫などさまざまで、見つけることはさほど難しくない。ただし、最初から取り扱っていない金融機関や、新規の取り扱いをやめる予定のある金融機関も見かけることから、これから開設するときはよく確認する必要がある。
企業の納税準備預金はどのくらい?
国内で、どのくらいの金額が納税準備預金として預けられているのか、参考までに見てみよう。日本銀行の統計預金者別預金によると、2020年3月末における国内銀行の預金(居住者の預金で、外貨預金を除く)のうち、「別段預金・納税準備預金」に区分される預金額は、9兆6,541億円である。「別段預金・納税準備預金」について、もっとも多い預金者は「金融機関」で、金額は4兆1,888億円だ。
続いて「公金預金・政府関係預り金」で2兆3,649億円、その次が「一般法人預金」で2兆8,141億円である。この2兆8,141億円は、一般法人の他の預金(定期預金を除く「要求払預金」にあたる預金)の約1.3%に相当する額である。
納税準備預金の4つのメリット
納税準備預金は、税金の滞納を防ぐ以外にもメリットがある。以下で説明する。
1.納税資金の管理意識が高まる
納税準備預金口座を開設し、資金を預け入れることで、納税資金を準備することへの意識が高まり、滞納を防止できる。特に、消費税の課税事業者は、毎月の課税売上高の数%を翌月に納税準備預金に入れるというルールを決めて、定期的に入金することが理想的だ。
一般課税で税抜経理方式を採用していれば、仮受消費税と仮払消費税等との差額を月次決算後に預け入れるとよい。税込経理方式であれば、例年の課税売上高に対する納税額から、課税売上高を基準とする入金ペースを決めるとよいだろう。簡易課税であれば、「(100%-みなし仕入れ率)×消費税率」を課税売上高に乗じることで、おおむねの納税額を随時把握できる。
2.利息にかかる所得税等が非課税
納税準備預金も、普通預金などと同様に、基準日の残高に応じて利息が支払われる。通常、預金の利息には、支払い時に次の税額が金融機関から源泉徴収される。
個人に支払われた利子は、上記の源泉徴収で納税が完結するしくみである。しかし、納税準備預金であれば、上記の所得税等が非課税になる。もちろん、預金の利息はそれほど大きい額にならないので、この特典によって手元に残る額は僅少といわざるを得ない。
しかし、納税準備預金口座を開設せずに普通預金から納税し続けるよりは、利息の税額分だけ預金が手元に残るのでお得というわけだ。なお、この扱いが受けられるのは、金融機関が他の預金と区分して、納税準備預金として管理しているものに限られる(租税特別措置法第5条第2項)。仮に、普通預金口座を納税専用として利用したとしても、非課税の特典は受けられない。
3.普通預金よりも金利が高いことがある
納税準備預金の金利は、金融機関によって異なる。普通預金と同じ金利の場合もあれば、中には、納税準備預金のほうが高い金利を受け取れる金融機関もある。たとえば、大阪信用金庫の金利は、普通預金が年0.001%に対し、納税準備預金は年0.025%に設定されている。
4.預金保険制度の対象になる
預金保険制度とは、万が一金融機関が破たんしたとき、預金者1人あたり元本1,000万円とその利息等を保護するというものだ。納税準備預金も、この制度による保護対象である。
納税準備預金の2つのデメリット
メリットがある一方でデメリットもある。
1.払い出しができるのは原則として納税時のみ
納税準備預金は、原則として税金の納付以外での払い戻しはできない。しかもATM等からの払い出しは不可で、窓口での手続きが必要になる。このとき、納付書や納税告知書など税金の納付に関係する書類の提出が必要になる。また、通帳や届出印、本人確認書類も必要になる場合があるため、金融機関にあらかじめ確認が必要だ。この点を考えると、振替納税や電子納税のダイレクト納付の手続きをしておいたほうが便利だろう。
なお、災害などやむを得ない事情があれば、金融機関が認める場合に限り、税金の納付以外の払い出しも可能となる。ただしその場合、その引き出しの日の属する計算期間に対応する利息については、所得税の課税対象になる。
国税庁では、納税準備預金から年末調整時の還付金を引き出すことは、納税目的の引き出しにあたらないとしている。
2.法人には非課税によるメリットがない
納税準備預金の利息は、所得税や所得税をもとに課される住民税の利子割が非課税になる。しかし、法人は、法人税の確定申告をすることによって、もともとこの所得税を負担しないことになっている。
順を追って説明すると、そもそも法人が受け取る預金の利息は、法人の収入となり、法人税の対象になる。これにより、利息から徴収された所得税は、二重課税防止のために、最終的に確定した法人税から控除することになっている。
つまり法人は、預金の利息から所得税が徴収されていなくても、そもそも所得税を負担しないということだ。もちろん法人でも、納税資金を準備するという目的で納税準備預金を役立てることはできるが、個人よりもメリットが感じにくくなっている。
納税貯蓄組合の特例
納税貯蓄組合とは、納税資金の貯蓄を目的として組織された団体である。一定の地域、職域又は勤務先を単位としてつくられる組合で、組成するには税務署と役所に届け出をする必要がある(納税貯蓄組合法第1条)。
納税貯蓄組合による預金として金融機関が受け入れた預金であれば、納税以外の目的で払い戻したとしても、その金額が10万円以下であれば利息は非課税となる(同法第8条)。個人や法人が個々に納税準備預金を開設するよりも、非課税の特典範囲が広いということだ。
納税準備預金の意義に注目して開設を検討
納税準備預金の特徴やメリット・デメリット、納税貯蓄組合の特例などを解説した。利息が非課税になる恩恵は軽微であるため、税金の滞納を防止しつつムダな税金を払わないようにすることを目的に開設するものと捉えるとよいだろう。ただし、払い出し制限のある預金であることから、開設後は、無理のない入金ペースを検討することが大切である。
文・中村太郎(税理士・税理士事務所所長)