ピンク・レディーの最高裁判決に学ぶ SNSにおけるパブリシティ権侵害に注意
(画像=jirsak/stock.adobe.com)
風間 啓哉
風間 啓哉(かざま・けいや)
監査法人にて監査業務を経験後、上場会社オーナー及び富裕層向けのサービスを得意とする会計事務所にて、各種税務会計コンサル業務及びM&Aアドバイザリー業務等に従事。その後、事業会社㈱デジタルハーツ(現 ㈱デジタルハーツホールディングス:東証一部)へ参画。主に管理部門のマネジメント及び子会社マネジメントを中心に、ホールディングス化、M&Aなど幅広くグループ規模拡大に関与。同社取締役CFOを経て、会計事務所の本格的立ち上げに至る。公認会計士協会東京会中小企業支援対応委員、東京税理士会世田谷支部幹事、㈱デジタルハーツホールディングス監査役(非常勤)。

近年は、SNSを利用して収益を上げるビジネスモデルが増えてきている。SNSはネット環境にあれば、老若男女、誰でも簡単に利用することができる。さらに、世界規模での情報発信も可能となる非常に便利なツールであり、もはや社会的インフラともいえるだろう。

しかし、SNSの便利さの裏返しとして、私生活に関する個人情報や著作物の写真を掲載した場合などの情報の取り扱いが難しい一面もある。今回は、SNSなどを利用して行う情報発信等でトラブルが生じやすく、事前に留意しておくべき権利、その中でも特に「パブリシティ権」についてフォーカスをあててみようと思う。

目次

  1. パブリシティ権とは?
  2. パブリシティ権の侵害にあたる条件3つと権利の侵害が発生するケース、しないケース
    1. パブリシティ権の侵害が発生すると考えられるケース
    2. パブリシティ権の侵害が発生しないと考えられるケース3つ
  3. パブリシティ権と肖像権・著作権の違いをおさえよう!
    1. パブリシティ権と肖像権
    2. パブリシティ権と著作権
    3. パブリシティ権、プライバシー権と著作権の比較
  4. パブリシティ権の侵害に対する賠償金の税務上の取り扱い
    1. パブリシティ権を侵害したときの賠償は?
  5. パブリシティ権についてSNS発信者が気をつけるべきポイント

パブリシティ権とは?

「パブリシティ権」とは、「有名人や著名人が、自己の氏名や肖像等が、商品の販売等を促進する顧客吸引力を有する場合、対価を得て第三者に排他的に使用することができる権利」である。

法律上の明文規定はないが、米国の判例でその概念が創設されたことを受け、日本の裁判所でも1976年に「パブリシティ権」に相当する判決がなされた。さらにその後、2009年の最高裁判所判決において、「パブリシティ権」の侵害にあたる条件が最高裁で示され、広く認知されるようになってきている。

パブリシティ権の侵害にあたる条件3つと権利の侵害が発生するケース、しないケース

2009年の最高裁で示されたパブリシティ権の侵害にあたる3つの条件は、以下のとおりである。「無断で使用」かつ「顧客の吸引力の利用を目的」にしている場合が該当するとされた。

・(1)肖像等それ自体を独立させて鑑賞の対象となる商品等として使用すること
・(2)商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に使用すること
・(3)肖像等を商品等の広告として使用すること

パブリシティ権の侵害が発生すると考えられるケース

よく問題となるのが、著名人や有名人の肖像を利用したカレンダーや文房具などである。これらは他の商品との差別化を図る目的で、著名人等の肖像を利用しているに過ぎないといえる。芸能人やスポーツ選手の写真を無断で撮影し、カレンダーや下じきなどの商品として販売することで利益を得ようとしている場合には、先の条件の(2)に該当し、「パブリシティ権」の侵害にあたる。

なお、観賞用としてグラビア写真、ポスターなどが無断で作成販売されている場合には、先の条件の(1)に該当すると考えられ、同様に「パブリシティ権」が侵害されている。

パブリシティ権の侵害が発生しないと考えられるケース3つ

では、次に実際に有名人等に関して発生した「パブリシティ権」に関する事例を取り上げたい。しかしながら、これらの判例は、いずれも「パブリシティ権」の侵害は認められなかった点も注目である。

・1)サッカー元日本代表の中田英寿選手に関する書籍発行が問題になった事案

中田選手に無断で、ワールドカップ・フランス大会出場直前までの半生をまとめた書籍が発行され、それに対して書籍発行の差し止め等を求めた事案だ。結論として、東京地裁は、以下の理由から「パブリシティ権」の侵害には該当しないと判決を下した。

【判決理由】
・書籍内に掲載されている写真、サイン等以外は、関係者に対するインタビューやその他取材活動に基づいて、原告の生い立ちや言動について記述された文章で構成されており、本書籍の中心的部分であるといえる。

・表紙、背表紙等で利用された中田選手の氏名および肖像写真は、文章部分とは独立しており、顧客吸引力に着目して利用されているが、書籍全体から見ると一部分にすぎず、肖像等の顧客吸引力に専ら依存しているとはいえない。

・著名人について紹介、批評等をする目的で書籍を執筆、発行することは、表現・出版の自由に属するものとして,本人の許諾なく、自由にこれを行うことができる。当該書籍がその人物に関するものであることを識別させるため、書籍の題号や装丁にその氏名,肖像等を利用することは当然あり得ることだから、原則として、著名人本人は氏名,肖像の利用を甘受すべきだ。

・2)女性歌手グループ「ピンク・レディー」に関する事案

昭和を代表する女性歌手グループ、ピンク・レディーに関し、最高裁判決が2012年に出ているので紹介してみたい。

ある週刊誌が「ピンク・レディー de ダイエット」という題名で、3ページにわたり、無断で写真14枚を掲載し、ピンク・レディーの楽曲のダンスの振り付けを用いたダイエット法を紹介したことについて、損害賠償請求を求めた事案だ。結論として、最高裁は、以下の理由から、「パブリシティ権」の侵害には該当しないとの判決を下している。

【判決理由】
・記事の内容が、ピンク・レディーそのものの紹介ではなく、その楽曲の振り付けを利用したダイエット法の解説であること。

・雑誌全体が約200ページであるところ、写真等を利用したページが3ページという使用状況であること。

なお、当該判決により「パブリシティ権」の侵害が成立するための判断基準が明確となった。これは、実務を行う上では大変意義深いこととされ、現在においても「パブリシティ権」を判断するうえで中心となる判決事例となっている。

・3)報道

「パブリシティ権」の侵害と判断されないその他のものとして、ニュースに代表される「報道」がある。報道は、報道それ自体に顧客吸引力があり、メディアは最新のニュース等を公開し、情報の正確性、客観性およびその報道事実の新鮮度などの評価により、視聴者数を獲得すること等を主たる目的としている。

報道の対象となった著名人や有名人の肖像は、顧客である視聴者を吸引するものではなく、そもそも「パブリシティ権」自体が発生しないと考えられている。

パブリシティ権と肖像権・著作権の違いをおさえよう!

パブリシティ権と肖像権、著作権はどのような点で違いがあるだろうか。

パブリシティ権と肖像権

肖像権とは、「容姿などの肖像を無断で公表・使用されない権利」という人格的利益を保護する権利をいうが、法令等により明文化された権利ではない。今回フォーカスして見てきた有名人、および著名人に関わる「パブリシティ権」は、この肖像権に含まれると考えられている。

肖像権に含まれる別の権利として、「プライバシー権」がある。プライバシー権とは、自分の容貌を大衆の前に勝手にさらされるなど、人格権の侵害から保護するための権利であり、有名人および著名人だけではなく、広く、一般人にも認められる権利である。

パブリシティ権と著作権

著作権とは、著作物を保護するため、著作権法により保護されている権利だ。著作権法は、「著作物ならびに実演、レコード、放送および有線放送に関し、著作者の権利およびこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的」として定められた法律である。

著作権法で保護される「著作権」には以下のように大きく2つに区分することができるとされている。

・a)著作者人格権

著作者の意図に反し、勝手に内容を変更するなどの行為から、著作者の名誉等の人格権の保護を目的としている。

・b)著作権

著作物の利用に伴い、受領すべき収益等の財産権の保護を目的としている。

パブリシティ権、プライバシー権と著作権の比較

これまで「パブリシティ権」と「プライバシー権」そして「著作権」を見てきたが、これらの異なる点を表にまとめると次のようになると考えられる。

肖像権著作権
プライバシー権パブリシティ権
明文規定
人格権の保護
財産権の保護 〇(※)

(注:表は筆者の私見に基づくものである)

「パブリシティ権」は財産権の保護という観点からは、著作権がカバーする範囲と同様とも思える。しかし著作権は、著作者の財産権の保護のみで、著名人等の被写体の財産権は対象外となっており、その意味においても「パブリシティ権」は重要な権利であるといえる。

パブリシティ権の侵害に対する賠償金の税務上の取り扱い

「パブリシティ権」の侵害があった場合に、賠償金の支払いや受領について留意しなければならない点にも触れていきたいと思う。

パブリシティ権を侵害したときの賠償は?

「パブリシティ権」の賠償金を考える前に、著作権の賠償金についてふれてみたい。著作権法で規定されている権利侵害等に対する損害賠償金は、著作権の使用料として取り扱うこととなる。著作権侵害でその賠償金を受領する際には、支払う側に源泉徴収義務が生じる。

では、「パブリシティ権」侵害の損害賠償金等についてはどのように取り扱うことになるのだろうか?先に触れたように、「パブリシティ権」には明文規定がない。そのため現時点では、原則として、著作権の使用料には該当することはないと考えられている。「パブリシティ権」の侵害の賠償金には、原則として、源泉徴収は考慮せず、額面どおりの賠償金満額を支払うこととなる。

なお、有名人や著名人が個人として「パブリシティ権」の賠償金を受領する場合、損害の補填として賠償金を受領したとすれば、交通事故などの賠償金と同様に、所得税法上は非課税として取り扱うのが決まりだ。

パブリシティ権についてSNS発信者が気をつけるべきポイント

今回取り上げた「パブリシティ権」は、言葉の認知度はそれほど高くない。概念は理解していたが、言葉そのものを知らなかったという方も多いと思われる。これから、ますますSNSによりコミュニケーションをとることが多くなると予想される中で、SNS発信者が気をつけなければならないことの中心には、権利侵害があるといえる。中でもこの「パブリシティ権」の侵害ともなれば、多額の賠償金などが発生する可能性があるという点を、SNS発信者は事前に深く理解しておく必要があるだろう。

文・風間啓哉(公認会計士・税理士)

無料会員登録はこちら