第4回 話しすぎ、聴きすぎに注意し、傾聴を心がける「反応の意識化」
(画像=jo-panuwat-d/stock.adobe.com)

*マネジメント改革を実現する「上司力」の詳細をさらに詳しく知りたい方は、拙著『本物の上司力〜「役割」に徹すればマネジメントはうまくいく 前川 孝雄』(大和出版、2020年10月発行)をご参照ください。

目次

  1. 一方的な「話しすぎ」のリスク
  2. 無反応な「聴きすぎ」のリスク
  3. 反応の意識化とは
  4. 傾聴の6つのステップ
    1. ステップ①「姿勢」を整える(座り方、姿勢、動き)
    2. ステップ②「受容」する(頷き、相槌)
    3. ステップ③「共感」する(気持ち、感情の汲み取り)
    4. ステップ④「確認」する(繰り返し、言い換え)
    5. ステップ⑤「理解」を示す(要約)
    6. ステップ⑥「内省」に導く(質問)

一方的な「話しすぎ」のリスク

リモートワーク下での「支援型マネジメント」の第3のポイントは、「反応の意識化」です。オンラインでの打ち合わせや会議では、上司・部下ともに、相手の表情や反応が読み取りにくい状態にあります。「相手は、自分の話をどの程度集中して聴いているか」「果たして、話は通じているのか」「相手の話の受け止め方は肯定的なのか、懐疑的なのか」など様子を捉えにくく、互いに不安になりがちです。

そこで上司が陥りやすいのが、「話しすぎ」です。対面のコミュニケーションですら、部下との1対1の面談や打ち合わせで、相手があまり語らず沈黙が続くと、上司が耐え切れず、一方的に語る場面が見受けられます。オンラインでは、相手の反応がさらに見えづらいことから、「とりあえず、まず言うべきことはすべて伝えておこう」となりがちです。

しかし、部下は上司の話の途中で疑問や質問を挟むわけにもいきません。一方的な話に集中力も欠いて、次第に頭にも入りづらくなります。上司は、部下のさえない表情や反応にも鈍感で気づかないままだと、独演会になっていまい、結果として上司の真意をしっかり伝えることもできません。

無反応な「聴きすぎ」のリスク

他方、オンラインで部下からの報告や連絡や相談を上司が受ける際に、じっと無反応で聴き続ける「聴きすぎ」にも要注意です。一心に話している部下にとっては、上司の反応がないと、上司がどの程度分かって聴いてくれているのか、自分の意見に肯定的なのか否定的なのか、心配になります。上司は仏頂面のつもりでなくても、部下からすると押し黙っている上司の態度は威圧的で不安に感じるものです。

そうなると悪循環で、部下が言葉少なになり、早々に発言を切り上げてしまうと、上司は部下が言いたいことを十分に聴き取ることができません。そこで、待ちきれない上司が話を取り返してしまい、結果、また上司の独演会になってしまいかねません。

反応の意識化とは

そこで、上司が留意したいのは、部下との対話にあたり、対面時のコミュニケーションよりもお互いの反応をより意識化し、相互の理解を確かめ合う「反応の意識化」です。

すなわち、上司が自らの「話しすぎ」に注意し、自分の話を部下がどの程度理解しているか、話の途中で時々「何かわからないことはないかな?」「質問や意見があれば何でも出して」と、応答を促すことです。また、部下の話に対しては「聴きすぎ」に注意し、節々で分かりやすいリアクションや声かけを交えます。自分がしっかり聴いていることや、理解や共感の様子が相手に伝わるようにすることが大事です。

「反応の意識化」は、リモートワーク下での留意点として強調していますが、実はコーチングの技法などでも推奨される「傾聴」を積極的に取り入れることに他ならず、普段から心がけたいものです。そこで、以下では傾聴の手順に沿って、「反応の意識化」の具体的な内容を押さえていきましょう。

傾聴の6つのステップ

傾聴は、「相手の話をじっと聴くこと」と誤解されがちです。確かに、「話しすぎ」をぐっとこらえて、話し方と聴き方をコントロールしますが、単に黙って聴くものではありません。相手をより深く理解するために、積極的にこちらから聴きに行く「アクティブリスニング」を意味します。

それでは、傾聴を6つのステップに分けて解説します。

第3回 部下の主体性を引き出して任せる「仕事の具体化」

ステップ①「姿勢」を整える(座り方、姿勢、動き)

まず、話を聴く準備と心構えができていることを、相手に示します。リアルでの対話では、椅子に姿勢を正しく保ちリラックスして座ります。椅子に浅めに腰かけた、やや前傾姿勢がよいでしょう。視線は相手の目のあたりを中心に向けますが、凝視しないように気をつけます。身振り手振りなど上半身の動きは自然に行います。自分と相手の座る位置は、正面から対峙せず、90度の角度か隣に座るのがよいでしょう。

リモートの場合には、リラックスした表情や笑顔を心がけ、身振り、手振りはやや大きく、また、はっきりとした聴き取りやすい声で、ゆっくりと話すように、態勢を整えましょう。

ステップ②「受容」する(頷き、相槌)

共感的な印象を与えるには、相手の話に合わせた適度な「頷き」や「相槌」が効果的です。首を縦にふり、話の要所要所で「うん、うん」「そうか」などと声を発すると、相手の「受け入れてもらっている感」が増します。相手の話のリズムや内容に応じて、頷き方や相槌の速度や深さにも、変化を付けるとよいでしょう。

リアルの対話では、頷きや相槌が大げさすぎたり、頻度が多すぎると、わざとらしく見えて逆効果です。但し、リモートの場合には、ややオーバーアクション気味にして、相手にしっかりと伝わることが大事です。

ステップ③「共感」する(気持ち、感情の汲み取り)

「そんなふうに思ったんだね」「それはとても嬉しかったね(辛かったね)」など、相手の気持ち・感情を汲み取るのが「共感」です。相手に「気持ちをわかってもらえている感」を与えるのです。

なお、共感は同調とは異なります。共感が「~と感じたんだね」と相手の気持ちや考えを理解しているのに対し、同調は「そうだね、それが一番いい選択だね」などと相手と同意をすることです。上司は、部下に共感はしても必ずしも同意はせず、異なる意見を持っていても構わないのです。この二つを、はっきりと区別して理解しておくことが大切です。

ステップ④「確認」する(繰り返し、言い換え)

次に、相手の話の内容や、気持ち・感情を確認します。その方法として、相手の話のポイントを復唱する「繰り返し」と、相手の言葉を別の表現で確認する「言い換え」が有効です。

「今回の新しい仕事には、やりがいを感じます」との言葉に、「やりがいを感じてるんだね」と復唱したり、「ただ、いくつかの仕事が重なってくると、どれから手をつけたらいいか悩んでしまうんです」との相談に、「複数の仕事の優先順位づけがうまくいかないんだね」などと言い換える方法です。

話し相手には、あなたに自分の話や気持ちが伝わったことがわかり安心と納得が得られます。

ステップ⑤「理解」を示す(要約)

さらに、相手が伝えたい内容を正しく理解していることを示すために、話の要点を短く伝え返す「要約」を行います。「要点を整理すると、〇〇と○○が課題で、改善のためには○○が必要と考えているんだね」といった具合です。

要約にあたっては、自分の「思い込みの押しつけ」にならないように気をつけましょう。相手の反応をよく見聴きして、捉え方にズレがあるようなら、どこにズレがあるのかをきちんと聴き直し、再確認していくことが大切です。

ステップ⑥「内省」に導く(質問)

傾聴の真価は、最後に部下に「質問」を投げかけ本人の内省を促し、深く考えさせることにある、と言っても過言ではありません。上記までのステップで部下の問題意識や悩みを把握したら、それについて「では、なぜそう思う?」「あなたには何ができる?」「どうすればいい?」と問いかけ、本人に考えさせるのです。

「仕事が進まないのは人のせい」「自分はやらされているだけ」といった「他責」(他人の責任)でとらえている限り、部下は「仕事の主人公」にはなれません。「自分ならこうする」「このやり方で任せてほしい」と「自責」(自分の責任・役割)でとらえられた時に、自ら主体性と働きがいをもって仕事ができます。リモートワーク下でこそ、常に部下の内発的動機づけと自律性を高める支援が大切なのです。

第4回 話しすぎ、聴きすぎに注意し、傾聴を心がける「反応の意識化」
本物の「上司力」
前川 孝雄
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師/情報経営イノベーション専門職大学客員教授

人を育て活かす「上司力」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団㈱FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、ウーマンエンパワー賛同企業 審査員等も兼職。連載や講演活動も多数。著書は『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『コロナ氷河期』(扶桑社)等33冊。最新刊は『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)及び『本物の「上司力」』(大和出版)

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