政治家がコロナ禍でも会食をやめられない2つの理由
(画像=キャプテンフック/stock.adobe.com)

日本政府が大人数での会食を控えるよう国民に要請している中、政治家の夜の会食や高級クラブに足を運んでいることが問題になっている。このことに対し、「上級国民だから特別なのか」といった批判も多い。なぜ政治家は会食やクラブ通いを辞められないのか。

「5人以上の会食」を国民に呼び掛けたが…

日本政府の新型コロナウイルスの分科会が、「5人以上の会食」を控えるよう国民に呼び掛けたのは、2020年10月23日のことだ。

新型コロナウイルスの感染拡大を防止するには、会食はできればしない方がよく、するとしても少人数であればあるほどよい。当然、飛沫感染のリスクが小さくなるからだ。事実、会食で発生した多くのクラスターは、5人以上で行われている。

しかし、「要請」ではなかなか国民にこのようなことを徹底させるのは難しい。そのため政府や自治体は何度も会見などを通じ、5人以上の会食を控えるよう呼び掛けた。しかし、このことに水を差す出来事が続々と起きた。国会議員の夜の会食やクラブ滞在だ。

国の要請には、国会議員が率先して範を示して初めて説得力を持つ。しかし、夜の会食問題などが続々と発覚したことで、国民の間で「なぜ自分たちだけがルールを守らなければならないのか」「これではルールを守ろうという人は増えない」といった声があがった。

首相を含む有力政治家に続々と夜の会食問題

夜の会食や銀座のクラブ滞在で問題視されたのは、菅義偉首相や自民党の二階俊博幹事長などの要職に就く政治家のほか、大臣経験者の石破茂氏などさまざまだ。報道を時系列でまとめると、以下のような流れとなる。

<夜の会食問題 時系列ドキュメント>

日付内容その後の対応
2020年12月14日菅義偉首相と自民党の二階俊博幹事長が、みのもんた氏ら8人とステーキ店で会食。首相は国会で「深く反省」とお詫び、二階氏は「別に8人で会っただけ」などと発言。
2021年1月8日自民党の石破茂元幹事長や山崎拓・元党副総裁ら9人が福岡県内で福岡県内のふぐ料理店で会食。石破氏が「お断りすることは礼を失するとの思いが勝ってしまった」「深くお詫び申し上げます」などと釈明。
2021年1月18日自民党の松本純衆院議員、田野瀬太道衆院議員、高司両衆院議員が深夜に銀座のクラブに滞在。3氏とも自民党を離党。
2021年1月21日自民党の石原伸晃元幹事長、坂本哲志地方創生担当相、野田毅元自治相が派閥の会合に出席、その後にレストランで約40分間昼食。その後、石原氏のコロナ陽性が判明、坂本氏が「慎重であるべきだった」などと釈明。
2021年1月22日公明党の遠山清彦幹事長代理が深夜に銀座の高級クラブに滞在。衆院議員を辞職。

上記を見れば分かるように、夜の会食問題は自民党の離党や衆院議員の辞職までに発展した。

なぜ政治家は会食やクラブ通いをやめられない?

では、なぜ政治家は会食やクラブ通いをやめられないのだろうか。その理由は2つの視点で考察すべきだ。「人として」と「政治家として」として、という視点だ。

「人として」の理由

政治家ではない普通の国民の中にも、コロナ禍にも関わらず大人数での会食をやめていない人はいる。その理由としては、ただ単に我慢が足りないことなどが挙げられる。夜の会食をやめられない政治家も、政治家である前に人であり、このような一般国民と同じようにただ単に我慢ができなかっただけ、というケースも少なくないはずだ。

この視点で考えれば、夜の会食をした政治家だけを責めるわけにはいかない。感染防止の観点では、夜に大人数でパーティーをした国民も同じように責めを受けるべきだ。

「政治家として」の理由

一方で、政治家たちが夜の会食をやめられない背景には、日本の政治家独特の慣習もある。この慣習が良いか悪いかには触れないが、日本の政治の世界では「料亭政治」という言葉もあるほど、政治家の会合の舞台が夜の会食になるケースが多い。

そして政治家は、地元の支持者や地元の有力者などと食事をともにするケースも多い。政治家は「聞くのが仕事」「会うのが仕事」とも言われる。純粋にさまざまな人の声をより多く集めようとすると、夜の食事の機会なども当然増えてくる。

ただ、そのような背景があるからといって、国民に「5人以上の会食」を控えるよう要請しているのに、自分たちだけが許されるという「免罪符」にはならない。企業などがウェブ会議ソフト「Zoom」などを活用してテレワークを導入しているように、政治家もそれらの便利なソフトウェアなどを使って、「会議の仕方」「聞き方」「会い方」を工夫すべきであろう。

政治家は改めて襟を正して

このように、政治家が会食をやめられない理由は、一般国民と同じような「人として」という理由と、「政治家として」の理由に分かれる。しかし、今は国民が一つになって感染防止に向けた努力をするべきときであり、政治家には進んで範を示してもらいたいところだ。

今後、新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいくが、ワクチンが効かない変異種が猛威を振るう懸念もぬぐいきれない。政治家には改めて襟を正し、自分たちがどう行動すべきかを考え直してほしい。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)

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