新型コロナ感染拡大の影響から、外出自粛などにより自宅で過ごす人々が増えた。人の動きが鈍くなったことで、2020年の清涼飲料市場の販売数量は前年比92~93%になっている。
しかし、その中でも無糖炭酸水や野菜飲料など好調なカテゴリーはある。「カルピス」(アサヒ飲料)に代表される濃縮タイプの飲料も、家庭内需要の高まりを受けて実績を伸ばしたカテゴリーのひとつだ。水や牛乳を混ぜれば簡単に出来る手軽さ以外の価値も注目されている。
「カルピス」(コンク飲料/470ml他)は、2020年の年間販売実績が前年比106%の474万箱となり過去最高になった(1994年の統計開始以来、液量換算)。備蓄のしやすさや持ち運びやすさ、アレンジできる汎用性の高さから、家庭内での需要が高まったことが要因だ。一昨年に発売100周年を迎えたロングセラーブランドの安心感も選ばれる理由のひとつ。夏には“かき氷×カルピス”のコラボを提案し、水で割って飲む以外の楽しみ方を紹介している。同社担当者は、「昨年は家族で一緒に過ごされる時間が増えたことも飲まれるきっかけになった」とする。
キリンビバレッジの「世界のKitchenから ソルティライチベース」(500ml)も同社想定の150%の売り上げ箱数になったという。熱中症対策飲料として人気の高い「ソルティライチ」の希釈タイプであるためトライアルが多かったことが背景にある。また、同社担当者は「牛乳で割って楽しむラッシー風や、おやつなどでもアレンジして楽しまれる人が多かったことから、高いリピート率につながった」と分析する。
コーヒーや紅茶でも濃縮の波は広がっている。濃縮タイプ飲料の「ボス カフェベース」(340ml、サントリー食品インターナショナル)は、昨年3月のリニューアル以降は約5割増の出荷で推移しているという。同社担当者は好調の背景として、「濃縮コーヒーは、濃ければ濃いほどいいと思っていたが、3月のリニューアルからブラック・ラテ兼用にしたことに加え、ドリンカビリティー(飲みやすさ)を上げ、容量も含めて日常的なコーヒーのポジションを目指した」ことを挙げる。
1杯分ずつ個包装の希釈飲料のポーション製品も各社好調だ。「ネスカフェ ポーション」や「ネスティー ポーション」(ネスレ日本)は、2020年3~8月の販売実績が昨対比115%となった。水や牛乳に溶かす通常の飲み方に加え、アイスクリームにかけて「アフォガード風デザート」、凍らせて「氷コーヒー」とするなど、新しい楽しみ方がSNSを中心に反響を呼び、コンビニエンスストアでも販売されるなど、これまでとは異なる若年層からも支持を得て、新規ユーザーの獲得に成功している。
「AGF ブレンディ ポーション」(味の素AGF社)も、2020年4~9月の販売実績が109%となった。いろいろなフレーバーを楽しめることや、まとめ買いや家庭で保管しやすい携帯性・保管性が評価されたことが好調の背景にあるという。ポーション製品は春夏の需要が高く、従来は季節限定で展開していたが、AGFは、備蓄やアレンジのしやすさでニーズが高まっていることを受け、2019年秋からいち早く通年販売に踏み切っていた。今春のリニューアルでは、外袋の一部にバイオマスプラスティックを導入し、環境への取り組みも強化する。
緑茶や麦茶、烏龍茶においても、濃縮缶タイプ(185g缶他)をサントリー食品と伊藤園が相次いで発売し、売り場で展開されている。サントリーが2019年から発売している「グリーン ダ・カ・ラ やさしい麦茶」濃縮缶の販売数量は、2020年に前年比1.5倍へ成長した。
濃縮飲料の好調を後押しするのは小売店だ。流通企業が在宅需要の高まる顧客のニーズをつかみ、軽くて持ち帰りやすい濃縮飲料を、店頭でまとめて陳列する活動を積極的に行ったことが売上伸長につながった。在宅勤務の広がりなど、家庭内での飲料の需要は今後も増加が見込まれる。手軽で、ひと手間加えるアレンジが楽しめる濃縮飲料の存在感が増しそうだ。