矢野経済研究所
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2020年度の国内量子コンピュータ市場は62億円の見込み、2030年度には2,300億円に達すると予測

~金融や化学、製造など複数分野での実証実験や本番運用に向けた動向に注目~

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、国内量子コンピュータ市場を調査し、技術動向や産業にもたらす影響評価、および2030年度までの将来展望を明らかにした。

国内量子コンピュータ市場規模推移と予測

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1.市場概況

2020年度の国内量子コンピュータ市場規模(サービス提供事業者売上高ベース)は、62億円の見込みである。金融や化学、EC(電子商取引)、製造(特にシミュレーション)、物流、学術用途を中心に、積極的な実証実験を通じて、材料計算やシミュレーションなど、量子コンピュータ向けのアプリケーションが出てきている。また、医療分野では新型コロナウイルスの感染シミュレーションをはじめとした実証実験が登場するなど、産業界を問わず活用用途の探索に取組み始めている。

2.注目トピック

市場規模の急速な立ち上がりのポイントはアプリケーションの増加とユーザー企業の活用度合い

今後、国内量子コンピュータ市場は急速に拡大するものとみるが、その前提要件となるのは、ハードウェアの進化や開発環境の整備に加えて、ハードウェアの能力を引き出すアプリケーションと活用を希望するユーザー企業をいかに増やしていくかにある。

まずIT事業者主体の動きとして、アプリケーションの創出にあたっては、現状、ユーザー企業とベンチャー企業やIT事業者との実証実験をきっかけとして、アプリケーションが生まれている状況にあるため、IT事業者はユーザー企業とのコミュニケーションを通じて、量子コンピュータの活用が期待できる課題の発掘に力を入れている。加えて、利用環境の整備にも取組んでいる。量子コンピュータ開発企業各社は、SDK(ソフトウェア開発キット)の提供やGitHub(ソフトウェア開発のプラットフォーム)でのツール公開に加えて、量子コンピュータに関する正しい情報を発信する専門メディアの運営、勉強教材の提供などを行っている。

次にユーザー企業主体の動きとして、2020年7月末に東京大学を事務局とした「量子イノベーションイニシアティブ協議会」が発足しており、金融分野や化学分野、自動車分野など複数分野のユーザー企業が参画している。同協議会は、産官学が連携し量子コンピュータの活用に向けた動きを加速させていくとの理念を掲げている。活用事例の共有や、量子コンピュータを活用できるエンジニアの育成などを通じて、ユーザー企業における活用を増やすべく、市場の成長を後押しする存在としての役割が期待される。

3.将来展望

国内量子コンピュータ市場規模(サービス提供事業者売上高ベース)は2025年度には430億円、2030年度には2,300億円に達するものと予測する。

2025年度には、金融や化学などの先行分野においてイジングマシンを中心に実証実験フェーズから本番環境での活用フェーズへと移行する動きが始まるとみる。また、エネルギー分野を含めた複数の分野において、特定業務を対象とした実証実験から対象範囲を広げた実証実験へと範囲を拡大していくほか、化学分野を中心に、2025年度後半に登場する可能性のあるNISQ※をシミュレーションに活用すべく、量子化学計算や量子機械学習を活用した実証実験が登場し、増えていくとみる。

2026年度以降は、金融分野ではダイナミックプライシングのほか、製造分野では大規模な数値流体力学や空力特性を活用した高精度なシミュレーション、EC(電子商取引)分野ではレコメンドエンジンでの活用なども本格化していくとみられる。また、エネルギー分野おいては、NISQの登場に伴い、2027年度後半から新機能材料の探索や人工光合成(光合成を人為的に行う技術)の基礎研究での活用、最適なエネルギーミックスの実現をはじめとした省エネの高度化に加え、医療分野では超早期診断など複数分野でNISQを活用した実証実験や本番運用が本格化するものと予測する。

2030年度には、車両用バッテリーの開発での活用や、医療分野での本格的な量子コンピュータの活用が始まり、革新的な治療法など社会的に大きなインパクトのある取組みが徐々に登場してくるものとみる。

※NISQ(ニスク)とは、Noisy Intermediate-Scale Quantum Computerの略語。量子ゲート型の量子コンピュータで、汎用型量子コンピュータの前段階に位置付けられる。

調査要綱

1.調査期間: 2020年5月~7月
2.調査対象: 国内外の量子コンピュータ関連企業
3.調査方法: 当社専門研究員による直接面談、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査併用
<国内量子コンピュータ市場とは>
本調査における量子コンピュータとは、量子状態を管理し、特定のルールで操作することにより、粒子と波の二重性や重ね合わせ、量子もつれなどを利用し計算を行う計算機と定義し、対象は、量子ゲート型の量子コンピュータや、輸送経路の最適化に向けた飛行機やトラック、鉄道などの最適な組合せなどのような、組合せ最適化問題に特化したイジングマシンまでを含む。

上記のような特性を利用し、従来のスーパーコンピュータでも対応しきれない莫大な量のデータ処理を含めた複雑な計算の回答を、非常にスピーディに導出できる技術であるため、製薬業界や化学業界、金融業界、学術用途など多岐に渡る分野において、新しい薬剤や治療法の探索、まだ見ぬ新素材の開発、より効率的な資産運用など、量子コンピュータの活用用途の探索が始まっている。

なお、市場規模の算出に際しては、上記のハードウェアに留まらず、ハードウェア上で稼働するミドルウェアやアプリケーションに加えて、導入に伴うコンサルテーションや保守などの各種サービスまで含み、サービス提供事業者売上高ベースにて算出している。
<市場に含まれる商品・サービス>
ハードウェア(量子ゲート方式の量子コンピュータ、イジングマシン)およびミドルウェア、アプリケーションのほか、導入に伴うコンサルテーションや保守などの各種サービス

出典資料について

資料名2020 量子コンピュータ市場の現状と将来展望
発刊日2020年08月07日
体裁A4 230ページ
定価180,000円(税別)

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