カンブリア宮殿,アイリスオーヤマ,富士フイルム
(画像=© テレビ東京)

「なるほど家電」で大躍進~アイリスオーヤマ変貌の秘密

アイリスオーヤマを放送したのは2018年6月21日。洗濯物が乾かない梅雨の悩みを解決する「サーキュレーター衣類乾燥除湿機」を紹介した。除湿器で湿気を取り除いた空気を強力な風で直接、洗濯物に吹き付ける。室内でも衣類を一気に乾かせる。

一方、干せない布団には「ふとん乾燥機カラリエ」。従来の布団乾燥機といえば、温風を入れるマットを広げるなど準備が大変だった。だが、これは温風が出るノズルの先端にある羽根を開き、布団をかけるだけ。これでテントのような空間ができ、布団全体に温風が広がる。

アイリスオーヤマといえば、ホームセンターで扱うさまざまな収納ケースで知られてきた日用品メーカー。2010年、番組に初めて登場したときは、アイデアグッズを連発するメーカーとして紹介した。ところがその後、家電に進出。ヒットを連発して成長を続け、今では年商5000億円企業となった。その原動力が「なるほど家電」だった。

その立役者・大山健太郎は「『なるほど』がないと開発しない。『なるほど、いいね』と。消費者の目線でモノを作る」と言う。

大阪市にあるアイリスオーヤマの開発拠点に、短期間で家電メーカーへと変貌できた秘密がある。東芝、シャープ、パナソニック……ベテランエンジニアのほとんどが大手家電メーカー出身だ。

アイリスが家電部門を一気に拡大したのは2012年。その頃、大手家電メーカーは海外メーカーとの戦いに敗れ、軒並み苦戦していた。大山は、家電業界のピンチをチャンスと捉え、大手を早期退職した優秀な技術者を大量に採用。一気に、家電事業のアクセルを踏んだのだ。

「彼らの持ってるノウハウと我々が持ってるアイデア、これをミックスしようと」(大山)

「なるほど家電」が売れているもう一つの理由がその安さだ。アイリスには他のメーカーと全く違う価格戦略がある。

毎週行われる商品開発会議では、客が値ごろと感じる価格にできるかが、製品化の絶対条件となる。

「お客様の立場で言えば、いくら欲しい物でも高すぎたら買わない。許容範囲に合わせて原価をブラッシュアップする。それが当社の開発手法です」(大山)

多くの家電メーカーの商品は、新たな機能を加えれば、その分価格も上げていくのが値付けの常識。しかしアイリスでは、まず魅力的な価格を決める。その価格を実現するために、原材料や機能を徹底的に見直していく。これがアイリス家電の秘密なのだ。

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倒産の危機から大逆転~ピンチになっても生き残る術

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アイリスオーヤマが産声を上げたのは1958年の大阪。大山の父・森佑が経営する下請け工場だった。

得意としたのは、今も広く行われているプラスチック製品のブロー成形。溶かしたプラスチックを金型ではさみ、中に空気を送り込むことで空洞にし、容器を作る技術だ。

しかし、大山の父はガンを患い若くして亡くなる。そして19歳の大山が代表を任されることに。大山このピンチに攻めに打って出る。

大山が目指したのは、価格さえも言いなりだった下請け業からの脱却だった。そして自社製品を開発する。それが海で養殖などに使う浮き玉。当時、真珠養殖の現場で、割れやすいガラス製の浮き玉が悩みの種だと聞きつけたのだ。

「ブロー成形で作った。中を空気で膨らませた。台風が来ても壊れることがない。問屋さんを通さず全国の漁協にサンプルを送って直接取引をしました」(大山)

これが当たると、今度は農業に目をつける。田植えに使う重い木製の苗箱を軽いプラスチック製で売り出し、またヒットを飛ばす。

「これを作って売り上げが倍々に上がっていくんです。ちょうど26歳の時に宮城県の工場を造ることになったんです」(大山)

だが、工場を宮城に造った矢先、危機が訪れる。1973年のオイルショックだ。工場は在庫で溢れかえり、一気に倒産の危機に。大山はこの絶体絶命のピンチにも攻めた。

まずは大阪の工場を閉じ、1978年、拠点を宮城に移す。そして国内140万社の企業データを集め、いま売れている商品は何か、徹底的に調査した。

するとある日、あるプラスチックの会社が業績を伸ばしているのを発見。その会社が伸ばしていたのはプラスチックの園芸向け商品だった。

「ウチの技術を使えばもっといい製品が作れる」と思った大山は、美しくてしかも丈夫なプラスチックのプランターを開発、その後の園芸ブームをつかむ。

これを機にアイリスはホームセンター向け商品に参入、特大のヒットを飛ばす。爆発的に売れた透明の収納ボックス。さらに便利な収納のHGチェストも大ヒットとなる。誰もが驚くのが軽い引き出し。その秘密は業界で初めて採用した金属製のレール。さらにインテリアとしての見栄えにもこだわり、天板は木製で作り込んだ。

ピンチにあっても、今までにない便利さを果敢に追求し続け、アイリスオーヤマは勝ち残ってきた。

「成功すると安住するんです。だから我々はヒットが出ても次のヒットを作ることに明け暮れている。世の中の不満はまだいっぱいあるんです、皆さん気付いてないだけで」(大山)

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新型コロナに立ち向かう~マスク1億5000万枚国内生産

新型コロナ危機の中、アイリスは新たな挑戦に乗り出している。

オフィスの入口にあるモニターには社員の顔と数字が映し出されている。これはAIが一度に20人まで認識し、同時に検温できるというアイリスオーヤマの監視カメラ「ドーム型AIサーマルカメラ」だ。映像と音声で熱がある人を教えてくれる。今、注文が殺到しているという。

「人が集まるところは感染リスクが高いので、病院やスポーツ施設からの需要が大きいです」(髙橋里奈)

2年前、大山は会長に就任。長男・晃弘が社長を継いでいる。

この日の議題はマスク。アイリスは国内有数のマスクメーカーでもある。中国の自社工場で生産し、日本に供給しているのだが、世界的なマスク需要の高まりで、中国政府が検疫を強化、時間がかかっているという。

そこで、月1億5000万枚のマスクを国内で生産しようというのだ。マスクの生産ラインは宮城・角田市の既存の建屋内に設置する計画だ。

「スピードが命だからな。やろう」と、その場で決断。8月には生産体制が整う予定だ。

「マスクに関しては需要が爆発しているという状況で、国内製造を始める。地産地消というか、中国だけでないものづくり体制を作っていく。こういった危機においては積極的に投資して変化に対応する。これが我々の使命だと思っています」(晃弘社長)

奇跡の構造転換で復活~富士フイルム攻めの経営

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2012年5月10日放送の番組に登場した富士フイルムホールディングスの古森重隆。富士フイルムは年商2兆4000億円の巨大企業だ

富士フイルムといえば緑の箱でおなじみの写真フィルム。さらに、手軽に写真が撮れるレンズ付フィルム「写ルンです」も国民的ヒット商品だった。しかしデジタル化の波で写真フィルムの売り上げが急減。世界の総需要は2000年をピークに、10年で10分の1にまで減ってしまった。かつて利益の6割を稼いでいた屋台骨を失った富士フイルム。そんな危機の会社を復活させたのが古森なのだ。

古森は会社最大の危機から一歩も逃げずに戦った。キーワードは「新たな稼ぎ頭を育てろ」。その稼ぎ頭が化粧品。フィルムメーカーがなぜ化粧品をと、世間が驚いた。

2007年発売の「アスタリフト」。肌に潤いを与えるという赤いゼリー状の化粧品。40グラム9450円(2012年当時)とちょっと高めだが、たちまち人気となった。

その開発現場、医薬品ヘルスケア研究所に潜入すると、そこには大勢の女性研究員が。 「いつも自分で作っては塗っています。腕も白いです。腕でしょっちゅう評価して、腕でいけると思ったら、顔に」(青木美菜子)

美肌の秘密は化粧品を肌に浸透させる力にあるという。

富士フイルムの化粧品に使われるのが、アスタキサンチンという肌の老化を防ぐ物質。しかし水に溶けない物質のため、化粧品の成分として使いたくても、使いづらかった。いくらかき混ぜても分離したままなのだ。その解決法として、富士フイルムは写真フィルムで培った技術を応用した。

物質の粒子を極小にするナノ化。ナノ化したというアスタキサンチンを水に溶かすと、あっという間に解けてしまう。つまり、ナノ化技術を使えば、さまざまな成分を肌に浸透させることができるようになる。これこそが写真フィルムの技術そのものだった。

電子顕微鏡で、フィルムの断面を500倍に拡大して見ると、その表面に、0.02ミリの厚さで光を感じるための物質が塗られているのがわかる。しかも、その表面をさらに拡大すると、そこには色を作るための粒子が、20層近くも規則正しく塗られていた。実はこのナノレベルの技術があってこそ、美しい色合いが出せるのだ。

富士フイルムは、肺がんの診断をサポートする画像検索システムにも乗り出していた。

このシステムは、診断画像でがんが疑われる部分を選択すれば、過去の診断画像1000例のデータベースから類似した画像を検索し、瞬時にピックアップしてくれる。医師の経験に頼りがちな診断を、過去の症例と比較することでより確実なものにする。

築き上げた写真技術を総動員し、新たな分野へ果敢に攻める富士フイルム。2000年におよそ2割あった写真フィルムの売り上げは、今や1%未満に。代わりに医療・化粧品分野がおよそ2割。また富士ゼロックスの子会社化によって、複写機やプリンター事業が4割を占めている。古森は全く別の会社に変身させた。

富士フイルムのパワーの源について、古森は「コダックの存在が大きい。入社した頃は売り上げはコダックのほうが20倍くらいあったと思います。それに追いつけ追い越せ、負けちゃいけないと頑張ってきた歴史がある」と言う。

コダックの創業は1880年。黄色いパッケージのフィルムは、長く世界のスタンダードとして写真や映画の世界に君臨した。

富士フイルムの社史をめくると、1ページ目にコダックの名前が登場。そこには「写真フィルムはわが国においては全く未開発の分野であり、一時はコダック社との提携も考慮する。しかし、コダック社の拒否回答で自力による開発を決意」とある。コダックに拒否され、自力で歩み続けたことが、変化に強い富士フイルムを作っているのだ。

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新型コロナの切り札?~富士フイルム「アビガン」

新型コロナ危機の中、富士フイルムのトップ・古森はこんなコメントを寄せてくれた。

「求められるのは強いリーダーシップだ。リーダーの使命感と覚悟、決断の質・スピードと、打ち出す施策のダイナミズムが、その後の組織の興廃を左右する。有事を乗り越えるためには、時機を逃さず、思い切って実行することが肝要だ」

富士フイルムの子会社が開発したのは「新型コロナウイルス遺伝子検出キット」。遺伝子検査、PCR検査に使うキットだ。これを使えば、従来4時間以上かかっていたPCR検査の検査時間を75分に短縮できる。

「PCR検査に不慣れな検査技師でもお使いいただける。検査の拡充につながると考えています」(富士フイルム和光純薬・川端智久)

そしていま、富士フイルムはある薬で注目されている。新型インフルエンザの治療薬「アビガン」だ。

新型コロナウイルスに効果があると期待され、日本政府は備蓄を増やす計画だ。またおよそ80カ国から、提供の要請を受けている。富士フイルムも月4万人分の生産体制を、9月には30万人分に拡大する予定だ。

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~村上龍の編集後記~

大企業病はどんな企業にもごく自然に訪れる。過去に大成功を収めた時期があったりすると、さらにその傾向は強まる。だが、アイリスオーヤマも、富士フイルムも、大企業病とは無縁だ。片やオイルショックで潰れかけ、片や常にコダックという巨人を追う宿命にあった。

そして両社とも、過去の遺産に救われた。家電に進出したアイリスオーヤマは、筐体のプラ成形はお手の物だった。富士フイルムは先端化学部門などが新事業に活きた。ピンチをチャンスになどと言うが、問われるのは、過去に何を、どれだけやってきたかということだけだ。

<出演者略歴>
大山健太郎(おおやま・けんたろう)
1945年、大阪府生まれ。1958年、父・森佑が大山ブロー工業所を創業。1964年、父の急逝により19歳で代表に就任。1971年、大山ブロー工業株式会社を設立。

古森重隆(こもり・しげたか)
1939年、長崎県生まれ。東京大学卒業後、1963年、富士写真フイルム入社。自ら希望した産業材料部で開発した素材が生産中止を検討される中、新規顧客開拓に尽力、生産中止を免れる。後の液晶パネル部材の礎となる。2000年、社長就任。

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