
参院選、与党は過半数割れの大敗を喫した。物価高、コメ問題、政治とカネなど、そもそもの争点においても与党は守勢にあったが、新興右派政党が提起した外国人問題が政策論争の在り様を一変させた。“日本人ファースト”というシンプルで排外的なメッセージは伝統主義的な保守層と“失われた30年”の中で育った多くの若年層を取り込んだ。与党そして既存政党の退潮はグローバリゼーションから取り残された人々の閉塞感と海外富裕層に消費される“安くなった日本”の写し鏡と言っていいだろう。
SNSではフェイク情報が拡散した。代表的なデマは「生活保護世帯の3割が外国人」、「移民が増えて治安が悪化した」である。事実はこうだ。2020年の外国籍の生活保護世帯率は3.36%、2024年の外国人の刑法犯検挙数は対2005年比64%減、犯罪率は日本人0.22%に対して在留外国人は0.41%、年齢構成や居住地域を鑑みれば0.2ポイントは顕著な差とは言えまい。「日本人の賃金が上がらないのは外国人のせい」? いや、主因は労働分配率の低下、低い労働生産性、非正規の増加であって、在留資格別に就業先の業種、職種、労働力需給を鑑みれば雇用において日本人と競合していないことは直ちに理解できよう。
7月22、23日、日本経済新聞社が主催した「GDS2025 世界デジタルサミット」に招聘された台湾のオードリー・タン氏は「SNSを介して過激な意見が拡散、権威主義が台頭し民主主義が危機に陥っている」としたうえで、「多様な意見をデジタル技術で可視化し、合意形成をはかることが重要」と指摘した(日本経済新聞、7月23日)。選挙戦の最中、劣勢にあった与党は急遽“外国人との秩序ある共生社会推進室”を内閣府に設置した。遅きに失した感はある。しかし、党派を超えた次元において多文化共生に向けてのグランドデザインと制度づくりに早急に取り組んでいただきたい。
さて、今回の選挙、台風の目となった政党のある候補者が「核兵器は安上がり」と語ったという。真意は分からない。抑止力としての効果を誇張したのかもしれない。とは言え、唯一の被爆国の政治家が公に発すべき言葉ではない。20日、知人のお嬢さんが出演するご縁で演劇「夕凪の街 桜の国」(原作:こうの史代、脚本・演出:森岡利行)を観た。被ばくから10年後、死の床に伏した少女のセリフにこの兵器に明日を奪われる悔しさが滲む。「嬉しい?原爆を落とした人はわたしを見て、“また一人殺せた”とちゃんと思うてくれとる?」。広島への一発の原爆はその年の12月末までに14万人の未来を絶った。2024年8月6日現在、原爆死没者名簿には34万4306人の名前が記されている。
今週の“ひらめき”視点 7.20 – 7.24
代表取締役社長 水越 孝