,カンブリア宮殿 テレビ東京
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この記事は2025年6月19日に「テレ東BIZ」で公開された「7年で200億円企業に! 躍進する道産子企業の舞台裏」を一部編集し、転載したものです。

カプセルトイが驚きの進化!~大人が夢中になる精巧なミニチュア

アメリカ生まれのカプセルトイ。1965年に日本の「ペニイ商会」がカプセルトイマシンを輸入したのが始まりだ。1回10円、20円で楽しむことができ、あっという間に子どもたちの心をつかんだ。

70年代に大流行したのが「スーパーカー消しゴム」。さらに80年代には通称「キンケシ」が大ヒット。手軽に楽しめる玩具として、全国へ広まっていった。

最近になってそんなカプセルトイの市場規模が急拡大している。

横浜市青葉区の「東急百貨店」たまプラーザ店にはカプセルトイマシンだらけのスペースがある。370台以上のマシンが並ぶ専門店。最近はこうした店が増えている。

▼横浜市青葉区の「東急百貨店」たまプラーザ店、370台以上のマシンが並ぶ

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その要因が、大人が夢中になるさまざまな商品が登場していること。例えば1回1,500円もする「いきもの大図鑑シリーズ」。食品や日用品のミニチュアシリーズも人気だ。パッケージのリアルさだけじゃなく、触った時の感触まで再現している。

大人たちを取り込み、カプセルトイの市場規模(製造元出荷ベース)は今や1,400億円以上にまで拡大している(日本カプセルトイ協会調べ)。

東京・渋谷のセンター街の入り口からわずか徒歩20秒の好立地にあるカプセルトイ専門店「シープラ」。地下1階から地上2階まで3つのフロアにマシンの数は約1,700台。店内はいつも大混雑で、この店だけで月に約1億円を売り上げているという。

店内でひときわ目立つ場所にあるのが「シープラ」限定のオリジナル商品。本物のクローバーのタネと土が入った手のひらサイズの植木セット「植木蜂」(400円)、かぶりつきたくなるような「肉キーホルダー」(300円)……こうした個性的なオリジナル商品が多くの客を呼び込んでいる。

▼本物のクローバーのタネと土が入った手のひらサイズの植木セット「植木蜂」

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渋谷以外にも銀座や原宿などの一等地に出店しており、現在、全国に225店舗(2025年5月時点)。売り上げはわずか7年で8億円から約210億円に急成長している。

「シープラ」は北海道帯広市に本社を構えるトーシンが運営している。

「特色のあるメーカーがどんどん増えることで業界に恩恵がある。業界の規模がどんどん大きくなるという現象につながっています」と言うのは、社長・宮本達也(42)だ。

拡大しているカプセルトイ市場ではメーカー間の競争が激化している。

「我々が専門店を始めた2018年はほとんど限られたプレーヤーしかいなかったのですが、今は国内市場を取り合っているような状態です」(宮本)

シェアは大手の「バンダイ」「タカラトミーアーツ」の2社で8割近くを占めている。その大きな理由が数多くの人気アニメやキャラクター。一方、そのようなアドバンテージがないトーシンは、独自の戦略で勝負している。

カプセルトイ専門店急拡大の秘密~限定商品、企業とのコラボ…

急拡大の秘密1~店舗限定品&希少なキャラクター商品

東京・渋谷区に商品開発部のオフィス「トーシン渋谷BASE」がある。スタッフは12人で、月に10種類ペースで新しい商品を開発しているという。

秘密兵器が日夜稼働している3Dプリンター。埼玉・入間市の店限定で販売するご当地キーホルダーなど、店舗限定の小ロットの商品はこれにより自社で製造している。

「普通のメーカーは(製造の)数が少ないと仕事として受けないこともある。弊社は店舗運営が主体なので、地域の人が喜んでくれるものを限定商品で展開しています」(商品開発部部長・氏田治久)

トーシンの武器は発想力。例えば渋谷センター街店で人気なのが「渋谷スクランブル交差点到達証明プレート」(1,000円)。渋谷に立ち寄った記念にと、特にインバウンド客にウケているという。

一方、「尻に敷かれる おじさんシート」(300円)は「物理的におじさんの顔をシートにして尻に敷こうという、ダジャレみたいな商品」(宮本)。

▼「尻に敷かれる おじさんシート」こうしたユニークなオリジナル商品も評判は上々だとか

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こうしたユニークなオリジナル商品も評判は上々だとか。

大手とは一線を画すキャラクター商品も手掛けている。

この日、トーシンを訪ねたのはイラストレーターのかわのまきこさん。かわのさんが生み出したのが「ぎょざ・ぎょざお」という餃子のキャラクターだ。トーシンはこれを自分たちで探し出し、かわのさんと商品化する契約を結んだ。

こうして大手がまだ目をつけていないキャラクターを見つけて、独自の商品を続々と増やしている。

「有名なメジャーな人の作品を商品化すれば売れることは分かっていますが、すでに他社がやっていたりする。発掘したものを商品化して、トーシンならではの商品の独自性を出したいと思っています」(氏田)

急拡大の秘密2~企業とコラボ、カプセルトイから販路拡大

オリジナル商品の中で最近力を入れているのが、北海道のコンビニチェーン「セイコーマート」の人気商品をミニチュア化したもの。他にも、道内では随一の生産量を誇る小樽市の酒造メーカー「北海道ワイン」の商品もミニチュア化している。

地元に根ざした企業とコラボし、いま人気の生活に身近なミニチュア商品のラインナップを増やしている。

この日、新たなコラボの打ち合わせでトーシン札幌支店を訪ねたのは、空港や駅などで「ハスカップ」という果物を使ったスイーツを販売する北海道の老舗菓子メーカー「もりもと」。トーシンとのコラボは他のメーカーにはないメリットがあるという。

企業とコラボした商品はカプセルトイ専門店の入り口からすぐの目立つ場所にマシンを設置。さらに、デジタルサイネージを利用した広告で企業や商品の名前をアピールしている。

「我々の店を広報メディアとして使っていただき、ブランド認知に使ってもらって、一緒に成長していきましょうと」(宮本)

コラボする企業にとっては認知拡大以外のメリットもある。

2024年、トーシンとコラボした「ダノンジャパン」(東京・目黒区)は、「ビオ」や「オイコス」といったヨーグルト製品を販売するフランス発の外資系企業だ。

「我々での生産・在庫のリスクがなかったので、大変効率よくプロモーションができました」(「ダノンジャパン」マーケティング部・松岡奈緒子さん)

カプセルトイの製造にかかるコストはトーシンが負担するため、コスト面のリスクがない。さらに、カプセルトイ商品を販促イベントなどのグッズに流用できるというメリットもある。

「キャンペーン自体のひきも強くなりましたし、消費者の関心も引くことができたのではないかと思っています」(松岡さん)

急拡大の秘密3~「他社を圧倒するドミナント戦略」

札幌市の中心部にあるアーケード街「狸小路」。数百メートルほどの通りに「シープラ」を5店舗も出店している。

新規出店の責任者、営業部取締役部長・砂田靖志は「カプセルトイは目的性を持って来店するというよりも、どちらかといえば視界に入った店にふらっと入るような業種かなと思っているんです」と言う。

客の目に止まる確率を高めることでふらっと立ち寄りやすくするという戦略だ。さらに、競合他社に出店される前に空きテナントを抑えるという意味合いもある。

赤字経営、社員の意欲低下…~オリジナル商品で大逆転!

トーシン社長 宮本達也,テレビ東京
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トーシンの創業は1975年、宮本の父・建治(現・会長)が自動販売機の代理店を立ち上げたのが始まりだ。1978年、北海道での「バンダイ」の特約店になり、カプセルトイ事業に進出。商店の空きスペースにマシンを置かせてもらうルートセールスを行っていた。

北海道だけで事業をやっていたトーシンが全国へ出ていくきっかけとなったのが、札幌の各区限定のオリジナルバッジ。

例えば厚別区限定のバッジは、厚別区のさまざまな商業施設が入り組んだ場所をロールプレイングゲーム風に表現したもの。東区限定バッジは名産品のタマネギがデザインされている。

▼全国へ出ていくきっかけとなったのが札幌の各区限定のオリジナルバッジ

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地元の「あるあるネタ」を表現したトーシン初のオリジナル商品だ。

宮本は北海道帯広市生まれ。幼い頃から父の事業を手伝うのが日課だったという。

「例えば中身の商品とカプセルを別に仕入れて、自分たちで組み立てると安いんです。それを1個仕分けすると1円というノルマを達成すると小遣いがもらえる仕組みでした」(宮本)

その後、東京の日本大学法学部へ進学。家業を継ごうとは考えなかった。

当時は就職氷河期と呼ばれた時代。圧倒的な買い手市場で就職活動は厳しく、宮本は100社以上にエントリーし、なんとか北海道の地方銀行から内定をもらう。

「銀行は自分で選んだ道でしたが、はっきり言って全く向いていなかった。だいたい飲み会に行くと上司から説教を受けるわけです。言われるとただ悔しくて、みじめで、飲み会の途中でトイレに行って1人でしくしく泣いたりしていたことがありました」(宮本)

歯を食いしばって仕事をしていたが、このまま続けるべきか悩んでいたという。

そんな中、父が還暦を迎えたことで、家業を継ぐことを意識し始める。そして30歳の時、父に頭を下げてトーシンに入社。しかし、そこでも厳しい現実が待っていた。

「当時のカプセルトイ業界は子ども向けだった。消費税の税率なども少しずつ上がり、利益が出るビジネスにはなっていなくて、やればやるほど赤字みたいな状態でした」(宮本)

少子化の影響もあり当時の市場は頭打ちで、毎年のように赤字経営が続いていた。会社の敷地には、処分しきれない廃棄物があちこちに放置されたままだったという。

何より宮本がショックを受けたのが社員たちの意欲の低さだった。「自分の子どもには、この会社で働いていると言いたくない」と言う社員までいたという。

「要はカプセルトイの補充というのが世間に誇れる仕事じゃないってことです。恥ずかしいと。この会社が40年近く守ってきた結果がこれかと、すごくショックだったので、従業員がまず誇りを持てるような仕事にしていかなければならないと」(宮本)

宮本は社員のモチベーションを上げるため新たな事業に乗り出し、収支を改善させていく。社内の反対を押し切り、カプセルトイ専門店の「シープラ」を札幌に出店したのだ。

店は大盛況。月に数百万円を売り上げたが、これに満足することなく、さらに客を引きつけるための施策に打って出る。

その1つが会員アプリ。店舗にあるQRコードを読み込むと来店ポイントがもらえる、という仕組みだ。

▼店舗にあるQRコードを読み込むと来店ポイントがもらえる会員アプリ

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ポイントが貯まるともう1度マシンを回せる「再チャレンジチケット」などの特典と交換できる。

さらにトーシンの独自性を打ち出すためオリジナル商品の開発にも着手。初めて作ったのが札幌市東区の名産・タマネギをモチーフとした缶バッジだった。当時、パートの従業員が考えたものを宮本が採用した。

「缶バッジを作るプレスの機械がうちにあったのですが、どう見ても誰かのお手製の手作り商品だなという、ちょっとチープな感じの出来栄えだったと思います」(宮本)

宮本は試しに東区のショッピングセンターである実験をしてみた。大手メーカー製の人気キャラクターが並ぶ場所に、1台だけ限定缶バッジのマシンを置いたのだ。

3日後、再び現場を訪れて売り上げを確認すると、どのキャラクター商品よりも、自分たちで考え出したお手製の商品がはるかに売れていた。

「アイデア次第で勝負できる。これを増やせば自分たちの武器になる」と気づいた宮本は、従業員たちが自由に発想する商品の開発に力を入れていく。自主性を取り入れることで、スタッフのモチベーションアップにもつながっていった。

「他社がやらないことをあえて一番最初にやるという考えでやってきました。商品開発にも他のいろいろな投資にも結果が表れていると思います」(宮本)

直径20cmの特大カプセルトイ~1000円から3万円までの高額商品

トーシンの商品開発部がある渋谷のオフィスで新商品の開発会議が開かれていた。「500円以上の商品価格をつけた、新しいジャンルのカプセルトイのアイデア会議です」(前出・氏田)だと言う。

「価格が500円以下だととにかく数を売らなきゃいけない。コストが上がっているので抑えるのが難しいなど、いろいろな課題があります」(氏田)

これまではほとんどが500円以下だったが、高価格帯の商品を生み出そうというのだ。カプセルの大きさも直径20センチの特大サイズを使う。

▼「新しいジャンルのカプセルトイ」直径20センチの特大サイズのカプセルを使う

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そのために購入したのが新しいカプセルトイマシン。1,000円から3万円まで自由に価格を設定できる。

第一弾はすでに決まっており、トーシンで独自に売り出しているキャラクターのフィギュアだ。値段は1万円だという。

他にもそれぞれがアイデアを持ち寄る。

例えば直径20センチもある大きなカプセルをそのままカバンとして売り出すアイデア。価格は3,000円を想定している。

インバウンド客向けに着物をミニチュア化したものも。

▼インバウンド客向けに着物をミニチュア化

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本物の生地を使いリアルに作ると「3万円くらいにはなっちゃいます」と言う。

他にも、これまでコラボした企業のミニチュアに実物の商品を付ける案や、店舗のデジタルサイネージで客が自作した映像を3万円で流せる権利などのアイデアが出た。

どうやらスタッフたちのやる気に火が付いているようだ。

※価格は放送時の金額です。

~村上龍の編集後記~

トーシン社長 宮本達也,カンブリア宮殿 テレビ東京
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大手が持つ知的財産を持っていない。アニメキャラなどだ。長くゲームセンターなどに、卸していた。だがここ数年は、カプセルトイの専門店「シープラ」を、2018年1号店のオープン以来、7年で全国225店舗を展開している。

『スクランブル交差点到達証明書』というのがある。シープラが一から企画したオリジナル商品だが、ただスクランブル交差点に立ったということがわかるだけだ。それをバカバカしいと笑うか、面白いと思うかで、人間は分かれる。わたしは、面白いと思うタイプだ。これは面白いと感心するほうが人生は得だ。

<出演者略歴>
宮本達也(みやもと・たつや)
1982年、北海道生まれ。2005年、日本大学法学部卒業後、北洋銀行入行。2013年、トーシン入社。2019年、代表取締役社長就任。

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