株式会社コパン
(画像=株式会社コパン)
市岡 史高(いちおか ふみたか)――代表取締役社長
名古屋大学農学部卒業後、同大学大学院生命農学研究科博士課程に進学。日本学術振興会特別研究員として研究し博士号を取得。在学時にイギリスのカーディフ大学に研究留学。トヨタ紡織に入社し技術者としてドイツに赴任。社会人として働きながらBBT大学大学院に入学し経営管理専攻修士課程を修了。コパンに入社後、マーケティング・プロモーションを担当し、専務取締役管理本部長兼経営企画室長に就任。2023年4月より現職。
1993年4月創業。「健康創造」をキーワードに、スポーツクラブ、スイミングスクール、エステサロン、ピラティススタジオ、学校部活指導、公共事業受託など、心身の健康に関わる様々な事業を展開。中核事業であるスポーツクラブ・スイミングスクールは、事業譲受や居抜きによって店舗数を増やし、中部・関西・北陸エリアに74店舗(2025年7月現在の直営スポーツ施設数)。

目次

  1. 創業からこれまでの事業変遷
  2. 代替わりの経緯・背景
  3. ぶつかった壁と乗り越え方
  4. 今後の経営・事業の展望
  5. 全国の経営者へ

創業からこれまでの事業変遷

—— 創業から現在に至るまでの事業変遷についてお伺いしたいと思います。

株式会社コパン 代表取締役社長・市岡 史高氏(以下、社名・氏名略) 当社は、名古屋市内に本社を置くスーパーマーケットチェーンの余暇開発事業部が前身となっています。当時、スイミングスクール事業を担当していた父(現 代表取締役会長)が、担当事業の拡大とMBOによる独立を実行し、現在の株式会社コパンが生まれました。創業時はスイミングスクールが中心でしたが、現在はスポーツクラブ、エステサロン、ピラティススタジオなど、大人を対象とした事業が売上高の半分を占めています。

—— 最初はスイミングスクールが事業の主軸だったんですね。

市岡 子どもをスイミングスクールに預けている間に、母親は買い物ができるということで、当時はスーパーがスイミングスクールを併設した施設が、各地にあったそうです。

—— M&Aを積極的に行いながら、さまざまな事業を展開されていると伺っていますが、どのような経緯で現在の形になったのですか?

市岡 創業から数年が経ち、「店舗を増やしたいけれど新築する資金力がない」という状況だったことが、当社がM&A(会社や事業の譲り受け)による出店を始めたきっかけです。様々な理由で手放される店舗を比較的安価に譲り受ける中で、ビジネスホテル、スーパー銭湯、チャペル、フットサルクラブ、テニススクールなど、想定外の事業も引き継ぎ、結果として事業の幅が広がることになりました。

—— 広範囲に事業を展開できた要因は何だったのでしょうか?

市岡 M&Aによって出店していることが大きな要因です。新築で出店しようとすると、土地探しや建築に長い時間がかかってしまいますが、M&Aであれば、すでに営業している店舗を引き継ぐことになるため、短期間で出店することができます。また、土地や建物を買い取ったとしても、新築に比べれば費用を抑えられます。

——非常に効率的ですね。しかし、撤退した事業を引き継ぐわけですから、最初の収益化は難しいのではないでしょうか?

市岡 最初の頃は、黒字化するまでに何年もかかることがありました。ただ、経験を積むうちに物件や事業の見極めができるようになってきて、最近は半年から1年くらいで、黒字化できるようになってきました。

—— 数年前のコロナの影響も大きかったと思いますが、どのような対応をされたのでしょうか?

市岡 コロナの時期は、政府からの要請があり、スポーツクラブやスイミングスクールは休業を余儀なくされました。売上がゼロになる中、賃料や給与は支払い続ける必要があったため、当社も大きな打撃を受けましたが、M&Aによる出店という観点では、譲渡のお話をいただく機会がコロナ禍前の数倍に増えました。居抜きの場合も、出店を希望する企業が限られるため、賃料の相場が下がって出店しやすくなったといえます。

——コロナが逆に事業拡大の契機になったのですね。

市岡 結果的にはそうなりました。コロナ禍での出店は、マスク着用、人数制限、エタノール消毒、会員間トラブルなど、コストだけでなくクレーム対応の面でも、通常時に比べ大変でしたが、当初から、収束までに数年かかることを想定して戦略を立てていたため、上手く対処することができました。

代替わりの経緯・背景

—— 事業を引き継がれる際に、何かご苦労があったかと思いますが、その点についてお話しいただけますか?

市岡 2年前に父から社長という立場を引き継ぎましたが、特に苦労というものはありませんでした。世間では親子で意見が対立するケースもあるようですが、とてもスムーズだったと思います。もともと、互いに個を尊重し過干渉しない関係性の家族ですので、それが良かったのかもしれません。私が家業とは無縁の生物学や自動車の世界に進んだときも、やりたいなら応援するという感じでしたし。

—— 親御さんとの間で対立がなかったというのは、珍しいケースですね。幹部の方々とも同じような状況だったのでしょうか?

市岡 私が入社する少し前に幹部の代替わりがあり、役員や部課長も含めて世代や考え方が近いメンバーになっていました。自分が得意とするマーケティングやITに関するポジションが空いていたため、入社後すぐに業績貢献できる状態になっていたことも、既存社員との信頼関係を築く上でプラスに働きました。入社前に同業他社の施設を体験して回り、業界の構造やビジネスモデルの予習をしていたため、何かがわからなくて困るということもありませんでした。

—— 承継後には、金融機関や取引先との関係も重要だと思いますが、そちらも問題なく進んだのでしょうか?

市岡 大きな資金需要もなく、業績的にも安定している中での承継ですので、関係各社とは良好な関係を築けています。資金繰りではなく、事業運営に集中できる状態で引き継いでくれたことについては感謝しています。

—— 投資や新規出店の際には資金が必要なため、関係性は重要ですね。

市岡 そうですね。新たに店舗を出す場合には、数千万円から数億円の資金が必要です。当社は出店機会に迅速に対応できる機動力を重視していますので、平常時も金融機関から一定量の借り入れを行い、出店や改装の準備資金として口座に置いています。

—— 資金面では順調に進んでいるとのことですが、事業承継の際の税金の問題についてはいかがでしょうか?

市岡 会社を成長させると自社株の株価が上がり、個人として多額の相続税負担が必要になるという流れは、今の日本の税制においては避けられません。自社株は第三者に売却して現金化するわけにはいきませんので、複数種の種類株を導入したり、グループ会社を資産管理会社化したりと、経営権を維持したまま納税できる体制を作っています。

——事業承継の際に、親御さんとしっかりと話し合いができたというのは大きいですね。

市岡 そうですね。私が大学や異業種にいて、当社に入るかどうかもわからない頃から、株を相続する準備をしてくれていましたので、入社してからは、それをより効率化する方法を相談しながら進めています。現在は私から息子にどのように相続するかの方が課題ですので、遺言書を書いたり、グループ会社にも種類株を導入したりと対策を検討中です。

ぶつかった壁と乗り越え方

—— 「苦労はない」とおっしゃっていましたが、やはり店舗が各地に散らばっている状況など、運営面での難しさはあったのではないでしょうか?

市岡 確かに店舗が広範囲に散らばっていることでの難しさはあります。全店舗が同じ内容や品質でサービスを提供することは不可能ですし、何がどれくらい違うのかを確認することもできません。指示を出しても、現場に行くと想像とは異なる形になっていることもよくありますが、そのバラつきが新たな発見に繋がったりもしますので、異なることをポジティブな要素として捉えています。

—— なるほど、完璧を求めないというのがポイントなのですね。

市岡 当社はM&Aで店舗を増やしているため、新しく加わった店舗は、スイミングスクールであれば進級基準や指導方法が異なりますし、スタッフの経歴や経験も人それぞれです。命にかかわる部分については統一ルールを適用しますが、それ以外の部分は、お客様と従業員の負担が増えないよう、一定期間そのままで様子を見て、変えた方が良い部分があれば変えるようにしています。

—— 店舗がオーナーチェンジする際、スタッフやお客様に対してはどのような対応をされているのでしょうか?

市岡 スタッフについては面談を行い、なるべく続けてもらえるよう案内しています。雇用条件や業務内容が変わらないことが多いため、ほとんどがそのまま継続しています。お客様についても、サービスや料金の変化点を最小限にすることで、継続率を高めています。

—— 店舗が増えることで社長のお考えが浸透しづらくなるといった課題もあるかと思いますが、その点はどのように工夫されていますか?

市岡 自分の考えを浸透させようとは思っていません。自分以外の誰かと100%の意思疎通をすることは不可能ですし、自分自身も、自分が考えていることを完全に把握できているわけではありません。情報は伝わらないし、すぐに忘れられるという前提で、ミーティング、メール、社内動画共有サイトなど、様々角度から何回も伝えるようにしています。言葉でのコミュニケーションは、お互いの表現力、理解力、解釈の違いなどもあって上手く伝わらないことが多いですが、動画だと「言語化できないけれどなんとなくわかった気がする」という状態を作れるため、社員同士の情報共有もマニュアルや報告書ではなく、動画共有サイトで行ってもらっています。

—— その動画共有サービスは、具体的にはどのように運用されているのですか?

市岡 社員が自分たちの活動や成功事例を動画で発信しています。他店舗からの学びや良い意味での競争もあり、当社の文化として根付いてきています。各店のInstagramも含めると、毎月数百本以上の動画や写真が投稿されますが、その中から私が良いと思った作品について、投稿した社員やアルバイトスタッフを表彰しています。

—— 社員の自発的な取り組みがあるのですね。

市岡 そうですね。全社員が積極的に発信しているというわけではなく、閲覧状況にも個人差がありますが、これについてもバラつきを許容しています。個人が自由に発信しているため、自分とは違う視点やアイデアが出てくるのは面白いですし、その投稿から実際に新たなビジネスに発展させたものもあります。

今後の経営・事業の展望

—— 今後の展開についてどのように考えていますか?

市岡 業界全体としてはコロナ禍でのダメージに光熱費や人件費の高騰が重なり、さらに競合ビジネスの影響も拡大しているため、かつてない厳しい状況だといえます。収益性の悪化により閉店を検討せざるを得ない店舗を各社が抱えているのではないでしょうか。当社も例外ではありませんが、M&Aにより店舗を拡大しているため、業界の危機は成長の機会でもあります。事業譲渡のお話をいただく機会が非常に多くなりましたが、数年は同じような状況が続くのではないかと思います。

—— 地域に密着した店舗が多いとのことですが、今後の事業拡大においてもその方針は変わらないのでしょうか?

市岡 当社に限ったことではありませんが、基本的には近隣住民の方が顧客となるビジネスですので、この先も変わることは無いと思います。

—— 今後の事業展開の中で、ITスタートアップとの業務提携が話題になっていますが、その背景を教えていただけますか?

市岡 すでにプレスリリースでも公表していますが、昨年4月に事業譲渡を受けた緑地公園店を運営していたスタートアップ企業と、資本業務提携をしています。事業譲渡について協議する中で、先方の経営陣やビジネスに興味が出てきて、出資することになりました。異業種の方とのディスカッションは非常に刺激的で、「そんな考え方もあるんだ」と思わされることが多いです。

—— 異業種とのコラボレーションで新たなビジネスの可能性が広がっているのですね。

市岡 今後もIT分野を含めて、さまざまな分野での可能性を探っていきたいと考えています。日本の人口が減少していく中で、今の事業だけで成長を続けることは難しいため、異業種との連携や新規事業の創出が必須です。現在は、昨年開業した日本最大規模のオープンイノベーション拠点「STATION Ai」に参画し、様々な企業と意見交換をしています。

—— IPOに関してはどのようにお考えですか?

市岡 現時点ではIPOは考えていません。IPOには資金調達や認知度向上の面ではメリットがありますが、当社の場合、大きな資金調達は必要ありませんし、現在のビジネスモデルを機動的に進めていくためには、非上場のままの方が効率的であると考えています。

全国の経営者へ

—— 全国の経営者の方々へ向けたメッセージをお願いできればと思います。御社のPRも含めて、何かお伝えしたいことがあればぜひお聞かせください。

市岡 さまざまな業態や状況の経営者の方がいらっしゃるでしょうから、一言にまとめることは難しいですね。強いて言えば、当社は企業や業界の枠を越え、常に新しいことに挑戦したいと考えていますので、もし何か新しいことに取り組むことを検討されている方がいらっしゃれば、ぜひお声掛けいただければと思います。

—— 新しい取り組みをされたい方々との連携をお考えということですね。

市岡 この先の日本で、企業として生き残っていくためには、競合関係にある企業同士であっても、協力し合うことが必要です。業界や企業の枠に囚われず、時には競い合い、時には協力し高めあっていければと考えています。

氏名
市岡 史高(いちおか ふみたか)
社名
株式会社コパン
役職
代表取締役社長

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