高齢化が進む日本の中で、企業における後継ぎ社長の役割が重要視されている。本企画では、これからの日本経済を支えていく後継社長に、どのように変革を起こし、成長を遂げていくのかを伺い、未来の経済発展へのヒントを探っていく。
2001年 福岡大学薬学部卒業後大手ドラッグストア入社。2005年 新生堂薬局入社後、チェーンストア理論を学び、組織改革・MD改革・DX推進を含む経営革新を行い2017年代表取締役就任。新業態ヘルスケアステーション構想を掲げ、ヘルスケアカウンセリングプラットフォーム「健康台帳®︎」を開発し、「受診勧奨システム及び受診勧奨方法」を発明し特許を取得。
創業からこれまでの事業変遷
ーー 創業からこれまでの事業変遷についてお聞かせいただけますか?
株式会社新生堂薬局 代表取締役社長兼CEO・水田 怜氏(以下、社名・氏名略):当社は1978年に創業し、調剤薬局としてスタートしました。ターニングポイントとしては、昭和62年にドラッグストアの一号店を福岡市西区に出店したことが挙げられます。アメリカのドラッグストアを見て、今後の薬局のあり方について学びました。
その後、調剤薬局とドラッグストアを同じぐらいの店舗数で出店していましたが、1990年から2010年ぐらいまでドラッグストアの出店に力を入れていました。しかし、人口のピークが訪れることを考慮し、ドラッグストアから調剤薬局に再び注力することにしました。現在はドラッグストア52店舗、調剤薬局97店舗を展開しています。
また、別会社として株式会社ライフネスを設立し、健康体操教室や女性専用フィットネス事業を展開しています。運動、栄養、禁煙、薬という4つの要素を掲げ、健康なくらしのお手伝いをしています。
ーー 代表は2005年に入社され、2008年頃から経営に携わられたと伺いました。役割の変化や意思決定について教えていただけますか?
水田 :はい、私は30歳の時に取締役になり、経営会議や取締役会への参加が始まりました。その当時は取締役としてナンバー3のポジションでしたが、ビジネススクールで学んだ知識を活かし、新しいアイデアや今後の展望について提案していました。その一つが、調剤薬局に注力し、ドラッグストアと併設させることでした。
その後、成果が認められて常務取締役に昇格し、最終的に代表取締役社長に就任しました。取締役になってから代表取締役になるまでには10年以上の期間がありましたが、その間は父である当時の社長と二人三脚で意見交換をしながら、意思決定のポイントを進めていきました。
代替わりの経緯・背景
ーー 新生堂薬局の経営交代の経緯や背景についてお聞かせください。
水田 :徐々に引き継ぎを行いながら一緒に仕事をしていく中で、一通り引き継ぎが終わったところで、私が社長に就任しました。慎重に進めたことが、一つのキーワードになるかもしれません。
ドラッグストア業界では、私と同じくらいの年齢の方が二代目として多くいらっしゃいます。私よりも5年や10年早く社長になられた方もいらっしゃいますが、当社の場合は私が代表取締役社長になったタイミングで、父はすべての経営から身を引きました。
現在は、父は取締役でもなく、株も持っていません。もちろん、父との信頼関係は大切ですが、私が社長に就任するにあたり、社員との信頼関係や社会との信頼関係を構築していくことが重要でした。
ぶつかった壁と乗り越え方
ーー これまで経営者としてぶつかってきた課題と、それをどのように乗り越えてきたのか教えていただけますか?
水田 :実は、課題を乗り越えたという感覚はあまりなく、日々課題に取り組むことが大事だと認識しています。役員会で課題解決のためのディスカッションを行い、その結果をもとに解決策を進めてきました。もしかすると、課題解決の仕組みを構築するのが一番苦労したかもしれません。
ーー どのような課題解決の取り組みが行われているのでしょうか?
水田 : 毎朝8時35分に全役員が集まり、大小さまざまな課題を持ち寄っています。父がいる時からこの手法を取り入れており、スピード感を持って課題解決に取り組んでいます。この仕組みを回すことが、もしかしたら一番の課題かもしれません。
ーー 新しい取り組みややり方を導入する際には、どのような苦労がありますか?
水田 : 新しいやり方を導入する際には、社員が戸惑うことがあります。しかし、新しい手法は社員が働きやすく、お客様が利用しやすいようにするために取り入れているので、一度試してもらいたいと考えています。そして、3ヵ月後や1年後には、その方法が良かったと思ってもらえるだろうと信じています。
ーー 苦労を乗り越えるためのコミュニケーションはどのように行っていますか?
水田 : コミュニケーションを通じて、社員に新しいやり方を理解してもらい、乗り越えていくことが大切だと考えています。スムーズに進まないときもありますが、継続的なコミュニケーションで乗り越えていると思います。
今後の経営・事業の展望
ーー 御社がこれから展開していく新しい事業についてお聞かせいただけますか?
水田 : 現在、飲食事業に進出することを考えています。健康に関する食事は非常に重要ですし、一人世帯の方も多くいらっしゃいます。そこで、地域の方々に健康になれる気づきを与えられるような飲食店を開業する予定です。また、調剤薬局にレストランを併設し、健康相談ができるコーナーを設けることも検討しています。
ーー 福岡から始める予定ですか?
水田 : はい、福岡から始めます。成功すれば、ドラッグストアや調剤薬局を超えた形で、ヘルスケアステーションという名前で展開していきたいと考えています。私たちは人と人とのコミュニケーションを大事にした健康に関するサービスを提供していきたいと思っています。
ーー 新規事業に関して、M&Aやファイナンスの活用は考えていますか?
水田 : 調剤薬局やドラッグストア、フィットネス事業などで、M&Aの機会があれば積極的に取り組んでいきます。ただし、私たちのエリアと親和性がある場所であることが条件です。これまでにも、十数店舗のM&Aを行っています。
ーー IPOや株式公開を検討されていますか?
水田 : いいえ、考えていません。私たちのできる範囲の中で、地域に根差してしっかりと事業を展開していきたいと考えています。
次世代の経営者様へ一言
ーー 水田代表、皆様に向けて一言いただけますか。
水田 :日本という国が人口減少や高齢化により社会保障費が増大していく中、世界との関係も気になるところですが、世の中がどうなるかはある程度予想できると思います。その中で顧客のニーズを捉え、アイデアを生み出していくことができれば、ビジネスは面白いものだと感じています。
現代はこれまでのビジネスの延長では勝ち残れない社会になっていると思います。お父様が経営者の方といった話はあるとは思いますが、先代がやってきたことの延長ではこの先は勝ち残れないと考えています。
そのため、若い皆さんと一緒に先の日本、またその先の世界の情報情勢を見据えながら、新たなビジネスを生み出していけると、日本もまだまだ楽しく人々が生活できる社会づくりができると思います。
一方、我々のような次世代経営者がそういったことに声を上げて、新しいビジネスを築いていかなければ、私たちの子どもたちの未来が大変な社会になると思います。我々の父たちもビジネスを始めた頃は大変だったと思いますが、その方たちが必死でビジネスをやってくれたおかげで今があると思いますし、その結果大変になっている部分もあるのかもしれません。
つまり、未来ある子どもたちのために何かできるのは、今の若い経営者の皆様だと思うので、より良い日本経済を作っていくために一緒に勉強して、新しいサービスの開発や今の事業からの転換を行っていけたら経営も楽しくなるかなと思います。
ーー 本日はお時間いただきありがとうございました。
- 氏名
- 水田 怜(みずた さとし)
- 会社名
- 株式会社新生堂薬局
- 役職
- 代表取締役社長兼CEO