矢野経済研究所
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今年もまた大型連休がやってきた。祝日のトップは昭和の日だ。とは言え、昭和を28年間過ごした筆者であっても特段の感情が募るわけではない。4月29日が昭和天皇の誕生日であったことは言わずもがな、戦前は天長節、戦後は文字通り天皇誕生日、昭和天皇崩御後に“みどりの日”に変更され、そして、昭和の日だ。ところで、いつから名称が変わったのでしたっけ? 調べてみると2007年だ。「祝日にはさまれた日を祝日にする法律」の制定に伴い“みどりの日”は5月4日に移動、4月29日を祝日として残すべく昭和の日と改称される。

国民の祝日に関する法律によると昭和の日は「激動の日々を経て、復興を遂げた昭和の時代を顧み、国の将来に思いをいたす」日であるとされる。“復興”は当然ながら“マイナスの状況”が前提にあるわけであるが、そこに至った日々を“激動”の一言で済ますことは出来ない。そもそも激動は昭和元年(1926年)に始まったわけではない。“坂の上の雲”を目指した1890年代から続く国策の延長線上にあると言え、その帰結が1945年8月15日である。

その時代、世界も激動した。起点はかつての同盟国ドイツである。そのドイツを率いたヒトラーの腹心、ヨーゼフ・ゲッベルス宣伝大臣を描いた映画「ゲッベルス~ヒトラーをプロデュースした男」を観た。真実を隠蔽し、巧みな演出とフェイクで国民の熱狂を煽り、国家を総力戦に扇動してゆく。映画の終わりの場面、アウシュビッツから生還した女性の言葉に身が引き締まる。「それは本当に起きた。ゆえに再び起きるかもしれない」、戦後80年、昭和元年から99年、映画のメッセージは時空を越える。是非映画館に足を運んでいただきたく思う。

さて、読書好きの方には米国の魚類学者でスタンフォード大学の初代学長デヴィッド・スター・ジョーダン(1851-1931)氏の光と影を描いた「魚が存在しない理由」(ルル・ミラー著、上原裕美子訳、サンマーク出版)を推薦したい。ヒトラーのもとで行われた史上最悪のジェノサイドの根拠となった優生思想は1883年に英国の科学者フランシス・ゴルトンが提唱したものであるが、これを米国に導入したのがジョーダンである。道徳逸脱者、精神欠陥者、身体欠損者、はては犯罪、貧困、無学も“血筋”が原因であるとし、強制不妊手術の合法化に尽力する。驚くべきは戦後になっても断種手術は行われていて、多くが先住民、移民、有色人種、性規範の逸脱者であったという。「優生学的思想は米国で死滅していない」との著者の指摘は重く、あらためて米国の今を考えさせられる。

今週の“ひらめき”視点 4.27 – 5.1
代表取締役社長 水越 孝