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1. 相続放棄は4年で3万件近く増えている

相続放棄はここ4年で3万件近く増えています。

相続放棄をする理由のほとんどは「遺産の中に負債がある」ということです。

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それ以外には不動産を相続した場合に相続税を支払う現預金を用意できないといった理由や、居住するわけでもない、有効活用もできないという不動産を維持管理費を負担してまで相続したくないといった理由も増えてきています。

後者はいわゆる「空き家問題」です。

相続放棄をする人が増えているということは、相続する側の問題が増えてきてもいるということがいえます。

2. 遺産承継のパターンは単純承認・限定承認・相続放棄の3つの選択肢

「本当に相続放棄でいいですか?」

「相続」は財産を受け継ぐというのが一般的ですが、財産にはプラスの財産もあればマイナスの財産もあります。

マイナスの財産、つまり借金などの債務の承継を一部拒否したい場合、相続自体を放棄したい場合も出てきます。

具体的には、相続の対応方法は3種類あり、いずれかを選ぶことになります。

2-1. 単純承認

被相続人の権利や義務をすべて相続する方法です。

プラスの財産もマイナスの財産もすべて受け継ぐことになります。

一般的な相続はこの形が多いです。

借金などの債務がある場合は注意が必要です。

債務の割合は、相続人間で自由に決めることができますが、その割合は第三者である債権者に主張することは出来ません。

例えば、1人の相続人が債務の全額を相続すると決めたとしても、債権者は長男から債務を回収出来なければ別の相続人に請求することが出来ます。

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2-2. 相続放棄と似た概念の限定承認

相続放棄と似たような概念で、限定承認という手続きがあります。

相続人がプラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐということです。

この制度は、相続財産の全貌が確定せず、後から莫大な負債が発見されるようなケースに備えるといった場合に非常に有効です。

相続放棄について検討する際には、限定承認と比較して行う必要がありますので、この限定承認についてのメリットデメリットを含めた内容を理解することは非常に重要です。

もしも、単純承認を行った場合には、あとからプラスの財産を超えるほどの大きな借金が発見された場合においては、これも含めて相続しなければなりません。

これに対して、限定承認の手続きを行っておけば、この様な場合にはプラスの財産の範囲内でしか借金を相続する必要がないのです。

しかも、結果論としてプラスの財産が多かったような場合にはもちろん問題なくそのまま引き継ぐことができます。

このような意味において、限定承認は非常に相続人にとって有利な制度です。

被相続人の相続財産について心配のある人は、是非この制度を利用するとよいでしょう。

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2-3. 相続放棄

プラスの財産もマイナスの財産もすべて受け継がない方法です。借金の方がプラスの財産よりも明らかに多い場合などに有効です。

相続を放棄すると、その者ははじめから相続人でなかったことになり、代襲相続も認められません。

なお、相続放棄は相続人1人でも行うことが出来ます。

単純承認はマイナスの財産含めて全ての相続財産を引き継ぎますから、特に手続きが必要になってくるわけではありません。

限定承認と相続放棄はいずれも相続開始から3ヶ月以に家庭裁判所に書類の提出等が必要になってきますので、早めの検討が必要になる反面、熟慮せず焦ってしまい選択を誤ってしまうこともあるので注意が必要です。

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3. 相続放棄と限定承認の手続きの流れ

この相続放棄と限定承認は、相続があることを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所で手続きをしなければなりません。 期限を過ぎてしまうと、無条件に相続(単純承認)することになるので気をつけましょう。

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4. 相続放棄について詳しく知ろう!

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法定相続人となった場合に、初めから相続人ではなかったことにするのが相続放棄。

マイナスの財産はもちろん、プラスの財産も受け継ぐ権利を放棄することになり、相続放棄者の子や孫に代襲相続は行われず、残った相続人で遺産を分割することになります。

相続放棄の手続きの期限は、相続の開始があったことを知った日から3か月以内です。

親などの被相続人が亡くなり悲しみに暮れている間に3か月という期間は、気が付いたら過ぎてしまったという人は多いのではないでしょうか。

この期限を知らずに、3か月が過ぎてしまい普通に相続財産をすべて引き継ぐ前提での「単純承認」となってしまったという状態になってしまう例が非常に多くみられます。

また、忘れないようにと相続開始前に手続きを行いたいと考える人もまれにいるようです。

相続放棄すべきケースで一番わかりやすいのは、相続財産と負債を比べて負債の方が多い場合でしょう。

ただ、そのような場合に限ったことではありません。

たとえば被相続人もしくは周囲の相続人との関係が悪くて、手続きでの書類のやりとりなどもしたくない、どうせたいした金額の財産でもないから相続に一切関わりたくないなどの理由で相続放棄する人もいます。

相続放棄は基本的に他の相続人と話し合ったりせずに自分1人でもすることができますし、次順位の相続人に知らせるべき場合でも手紙などで済ませることもできます。

家族関係という点でいえば、長年音信のなかった前妻の子供が父親の相続を放棄するといったパターンなどはよくみられます。

参考:「遺産分割協議」と混同してはいけない
「相続放棄」は家庭裁判所に所定の相続放棄の申し立てをして初めて認められるものです。相続人同士でだれが遺産を相続するかを話し合うことは「遺産分割協議」をしているに過ぎないのであり相続放棄ではありませんから、その場合は相続人の誰も借金を免れることはできません。借金はあくまで債権者という相手のあることなので、相続人(=義務を持つ側の人間)だけで「誰が借金を免れる」と勝手に決めることはできず、そのようなことは債権者の同意があって初めて認められるのです。 もし相続放棄が家庭裁判所に認められた場合、「その人は最初から相続人ではなかったものとみなされる」という効果が生じます。

5. 相続放棄のメリット

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(1)借金、債務を相続しなくてよくなる

借金を相続せずに済むことが一番のメリットになるのではないでしょうか。

実際、相続放棄をする人で一番多い理由として、借金を引き継ぎたくないというのが一番多いと思います。

マイカーローンや一部高額商品の分割払いに関する債務程度であれば特に気にならないかも知れませんが、プラスの財産があったとしてもあまりに大きな借金については考えものです。

(事例1)

被相続人が個人事業主で事業性の融資を受けていた場合などは金額が大きくなりがちです。しかも、マイホームに関するローンなどと違って、資金調達してまで購入した事業用資産は既に価値がないような状態もあり得ることです。被相続人の死亡により事業が終了したような場合にはなおさら事業用資産に使用価値はありません。住宅ローンであれば、その対象となっている住宅を処分すればある程度返済することができます。が、上記のように購入した事業性の資産にローン残高ほどの価値がない場合には返済は困難です。このような場合に相続放棄をすることで、銀行債務を免れることができます。

(事例2)

長い間家賃を滞納していたような場合にも、処分する財産がない上に債務の金額が大きくなりがちです。過去に交通事故を起こしたことが原因で損害賠償金を支払っているケースもまれにあります。交通事故により運悪く被害者が亡くなってしまっているような場合には、1億円を超す損害賠償債務が存在することも珍しくはありません。このような場合も相続放棄をすることで損害賠償債務を免れることができます。

相続放棄を行えば、相続により財産をもらうことができないものの、思わぬ借金を背負い不安になることは一切ありません。

(2)遺産分割協議に関わらなくて良い

相続放棄のメリットとしては遺産分割協議に関わらなくて良いという点も挙げられます。

家庭裁判所を通して正式に一切の財産を引き継がないことを宣言するわけですから、その後の遺産分割協議に参加する必要性はありません。

遺産分割協議については、それぞれの利害が対立しますので、それまでに仲の良かった親族の間にもトラブルが発生することが多くみられます。

小さな金額でも意外ともめるのが相続の特徴です。

もしも仮に、最終的には話し合いがついたとしてもいったんもめた経緯を記憶から消すことはできません。

相続発生後の長い年月をぎくしゃくした関係で過ごすことにもなりかねません。

早々に相続放棄を宣言し、手続きをとることによってこのような心配ごとから解放される点が、実は一番のメリットかもしれません。

参考:相続放棄をしても保険金は受け取れる。
そして、これもよく誤解されるのですが、相続放棄したら親がかけていた死亡保険金を受け取ることはできないのではないか?ということです。しかしこれは相続放棄した人でも受け取ることができることになっており、家庭によってはそのことが兄弟の不和を招くこともあります。よって、保険金を受け取れる人が相続放棄する場合、もらえる保険金とのバランスや他の兄弟との関係もよく考慮してから手続きする方がよいといえます。

6. 相続放棄のデメリット

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相続放棄には借金を免れられるという大きなメリットがある反面、もちろんデメリットもあります。

(1)プラスの財産も相続することが出来なくなる

相続放棄をすると、被相続人の借金を相続する必要がなくなりますが、同時にプラスの財産も一切相続することができなくなるので注意が必要です。

(事例1)

たとえば、借金が1,000万円あることが分かりその金額の大きさから不安になり相続放棄をしたとします。しかし、あとから2,000万円の有価証券が発見された場合どうなるでしょうか。この有価証券についても必ず放棄をする必要があるのです。2,000万円分の有価証券があれば、現金に換金しその中から借金1,000万円を返済したとしても手元に1,000万円が残る計算です。この場合は相続放棄をしてしまうと1000万円の損をする結果となってしまいます。

(事例2)

プラスの財産が買い手のつかない2,000万円の土地であったような場合にはどうなるでしょうか。金額的には、借金の額を超える価値の財産を手にしたところで、換金することができないため、借金が払えないというようなケースもあります。このような場合には、最悪のケースとして借金が返済できないことを理由に2,000万円の土地が強制的に換価され二束三文で売り払われ、結果的に借金だけが残ってしまったということも十分に考えられます。財産の金額的評価も重要ですが、そのときになればすぐに現金化できるかどうかも重要です。

以上のように、基本的にはプラスの財産の金額の方が大きい場合に全体として損をしてしまう可能性がありますが、財産の内容についても慎重に吟味する必要があるということです。

熟慮期間として3か月が設けられているので、そのあいだにしっかりと財産に関する調査をして間違いのないように判断しましょう。

たとえば先祖代々から受け継いだ不動産や自分の思い入れのある実家であっても当然手放さなければならないわけであり、自分でそれを選択することはできないのです。

(2)相続放棄により親族に相続権(この場合は債務)が移ることになる

また、自分の相続放棄により親族に思わぬ迷惑をかけることがあります。

もし法律上、第一順位相続人(子供)が全員相続放棄すれば、相続権は第二順位(親や祖父母)に移ります。

これらの人がいないか、全員相続放棄すれば相続権は第三順位(兄弟姉妹)に移ることになります。

よって、もし相続放棄する際には自分が放棄したことにより次に相続権を持つ人に「負債も含め相続権が移ること」を伝えておいてあげるべきといえるでしょう。

相続放棄が認められるのはそれほど実務的に難しいことではないですし、デメリットは上記以外には目立ったものはないといえます。

ちなみに相続人の中で特定の人が受取人に指定されている生命保険の死亡保険金については、たとえ相続放棄したとしても受け取ることができます。

7. 相続放棄の判断

相続放棄の判断は、各相続人が個人で行って構いません。

相続財産を相続するかしないかについては、相続する人が決めることができます。

他の相続人と相談して、全員で一緒に放棄を行わなければならないと言った決まりはありません。

相続人の一人が相続放棄を行った場合には、その人は初めからいなかったものとして取り扱われます。

このように他の相続の誰とも協議することなく個人で判断し手続きを行うことができるのが相続放棄になります。

だからこそ、しっかりと法的に有効な相続放棄を行うことができなかった、思わぬところで単純承認が成立してしまい相続放棄を行うことが出来なかった、相続放棄を行った方が得なのか判断がつかない、といったことが生じます。

相続放棄すべきかの判断は非常に難しい問題があります。

また、法的に有効な相続放棄の手続きを行うことは意外と難しいです。

思わぬところに落とし穴がある可能性があります。そんなときは、是非相続に強い司法書士や弁護士に相談をしましょう。

下記の点にも留意しよう!
同順位の相続人がいる場合はその人の取り分が増えます

たとえば、父が亡くなり母と子供2人が相続人になる場合、母が2分の1、子供はそれぞれ4分の1ずつというのが法定相続分(民法で定められた相続分)ですが、子供のうち1人が相続放棄すれば母ともう1人の子供が2分の1ずつとなります。

相続放棄しても自分の子どもは代襲相続はできない。

また、親の相続を自分が受け取らずに自分の子供(自分の親から見た孫)に直に相続させたいと思って相続放棄しても、自分の子供が代襲相続することはできないということにも注意が必要です。代襲相続というのは自分が親より先に「死亡した」場合に自分の子供が自分に代わり親の相続を受けられるというものです。つまり相続放棄は代襲相続の対象になる事由ではないということなのです。

8. 相続放棄の手続き

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具体的に相続放棄はどのように手続きしたらよいのでしょうか。

気をつけるべきなのは期間の問題です。

自分が相続人となったことを知ってから3カ月以内というのが原則的な期間制限です。

ただ、財産調査に時間を要することがはっきりしているような場合は、あらかじめ家庭裁判所に許可をもらった上で期間を伸長できることもあります。

「知ってから3カ月」ですから相続の事実自体を知らなかったような場合は、知ってからカウントすればよいのです。

ただし知った日付を証明できるように債権者や親族からの手紙などは残しておいた方がよいでしょう。

相続放棄を行う際には、きちんとした手続きを行うことが必ず必要です。

単に、相続を放棄する旨の意思表示を行った場合には相続放棄は認められません。

公的な機関において、相続を放棄する意思をしっかりと確認する必要があるのです。

具体的には、被相続人の住所を管轄する家庭裁判所に申告する必要があります。

正式には、相続放棄の申述と言います。

8-1. 申述人

基本的に相続人が裁判所に申述を行います。相続人が未成年または成年被後見人である場合には、法定代理人が代理します。未成年者の法定代理人は、基本的にその父や母の親権者がなります。ただし、法定代理人と申述人が両方相続人となっている場合等で利益が相反する状態になっている場合には正しい判断ができません。このような場合においては、別途特別代理人を選任します。もしも特別代理人を選任しなければ、法定代理人は自分の利益が大きくなるように申述人の代理人としての判断をゆがめてしまうためです。実際に利益が相反する状態か否かの判断は、内容に応じて個別のケースで判断されるということにはなっていません。外形のみで判断されます。次のような場合には、特別代理人の選定が必要となります。

・親と子が共同相続人であり、子だけが相続放棄をする場合

純粋に、親が子の身を案じて借金を背負わせたくないといった判断をする状況は通常であり得ます。一件、子のことを考えての善意の判断とも思えますが、外形上は利益が相反している状態と判断がされ、特別代理人の選定が必要なケースに該当します。

・子が複数いる場で、一部の子のみを代理して相続放棄をする場合

長男だけが高校生で、他の子がまだ小さいなどといった状況も十分にあるでしょう。この様なときに、小さな子供には借金を背負わせたくないからと言って、一部の子について相続放棄をする場合もあると思います。このようなケースも、外形上、利益が相反していると判断され、特別代理人の選任が必要になります。

反対に、次のようなケースにおいては上記と似たような状況に見えるものの、特別代理人の選定は必要ありません。

・親と子が全員で同時に相続放棄をする場合

この状況が生じた際には、特別代理人を選定することなく親が子の分についても相続放棄の手続きを行うことが可能です。

8-2. 申述期間

相続開始があったことを知った時から3か月以内に手続きを行う必要があります。

8-3. 申述先

被相続人の住所を管轄する家庭裁判所です。家庭裁判所は、上位の裁判所に比較して比較的近くにあることが多くあります。下記を参考にして、自分の住所地を管轄する家庭裁判所を調べるとよいでしょう。また、引っ越しをしたような場合については、最後の住所管轄する家庭裁判所です。

(裁判所の管轄区域) http://www.courts.go.jp/saiban/kankatu/index.html

8-4. 申述に必要なお金

収入印紙800円分が必要です。これは、申述人ごとに必要になるので、全員で同時に手続きを行う場合においても、金額は変わりません。裁判所から発送される書類もありますので、返信用封筒に張り付ける切手の用意もする必要があります。

8-5. 添付書類一覧

添付書類は下記の通りとなっています。

①共通して必要なもの
・相続放棄の申述書
・被相続人の住民票または戸籍附表
・放棄する人の戸籍謄本


②申述人が被相続人の配偶者の場合に必要なもの
・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本


③申述人が被相続人の子またはその代襲者(孫、ひ孫等)(第一順位相続人)の場合に必要なもの

・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本


④申述人が被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合に必要なもの
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・ 被相続人の直系尊属に死亡している人(相続人より下の代の直系尊属に限る(例えば、相続人が祖母の場合の父母のこと言います。))がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本


⑤申述人が、被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(甥、姪)(第三順位相続人)の場合
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している人がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・申述人が代襲相続人(甥、姪)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本

④、⑤の書類については、先順位の相続人から同様のものが提出済みである場合に重ねての添付は不要となります。

上記添付書類については、相続人の構成に応じてそれぞれ別に定められています。

非常に複雑な内容になりますので、ゆっくりと確認することが必要です。

8-6. 申述書の記載例

相続人が成人の場合に申述書の書き方のポイントを説明します。

■印紙貼り付け欄

申述書の一番先頭のところには、収入印紙の貼り付け欄があります。収入印紙について、貼り付け後、自分の認印を押印する人がいますが、これは必要ありません。貼った収入印紙には押印せず提出するようにしてください。

■宛先と申述人の欄

成人の申述人が書類を記入する場合には、本人の名前を記名し押印します。ここでの押印については、特に印鑑規定は設けられていないので、認め印で構いません。役所への提出書類全般にいえることですが、印鑑は必ず朱肉をつける硬質なタイプを利用してください。シャチハタ等、インクが内部からしみだしてくる構造のものについては、ゴムなどのやわらかい素材でできています。押印するたびに陰影が変わる可能性がありますので、正式な文書を作成する際には使用は認められません。宛先については、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所を記載し、日付については作成年月日を記入してください。

■添付書類の欄

添付書類の欄については、チェック欄にマークして添付した通数を記入することとなっています。提出書類についてはしっかりと確認して、チェックマークを付けてください。また、標準的な添付書類のほかに、各種証明書類を提出する際には、一番下のチェック欄の右側が空欄になっています。ここに具体的な書類の名前を記載したうえで、チェックを付けてください。

■申述人の欄

申述人の本籍、住所、氏名、被相続人との関係などについて記載します。特に記入に迷うような項目はありませんが、裁判所から返送物等が届かないことのないように正確に住所を記載してください。もし万が一、書類に不備があった場合には裁判所から連絡がくる可能性があります。期限のある重要な手続きになりますので、ミスのないように正確に記載してください。また、電話番号を書く欄がありますが、自宅の固定電話にこだわる必要がありません。裁判所の業務時間は平日の日中になります。この時間に確実に連絡のつく番号を記載してください。外出が多い方については、携帯電話の番号を書いておいた方が良いかも知れません。

■被相続人の欄

亡くなった人の情報を記載します。本籍、最後の住所、死亡当時の職業、氏名、死亡の日付を記載する欄があります。家族と疎遠になっている場合に相続放棄を行う例も多くあります。このようなときには、最後の住所や正確な死亡の日付がわからない場合もあります。相続放棄の手続きを考えている場合には、提出間際にあわてないためにもあらかじめ調べておく必要がありそうです。

■申述の趣旨の欄

申述の趣旨については、今回は相続放棄になりますので予め裁判所の様式に「相続の放棄をする。」と記載されています。裁判所には似たような様式が多数あります。相続の手続の際には、いろいろと手続きが多く間違いが起こりがちです。間違って異なる様式を使用することのないように、申述の趣旨の欄を記載してください。

■申述の理由の欄

申述の理由の欄には、相続の開始を知った日と放棄の理由、相続財産の概略について記入します。ここで最も重要なのは相続の開始を知った日の記載になります。すべてのケースで被相続人が死亡した日に相続開始を知るというわけではありません。中には、先順位の人が相続放棄をして初めて自分に相続が起こることがわかる場合もあります。死亡の通知を受けるのが遅れる場合もあります。相続開始を知った日をしっかりと確認し、その日から3か月以内の提出であることを確認しましょう。

相続の理由については、選択式になっていますが、該当する理由が見当たらない場合には、その他として具体的な理由を記載してください。相続放棄の理由の内容によって放棄が認められるかが判断されることは基本的にはありません。

相続財産の概略について記載する項目もあります。特に相続放棄をするような場合についは、細部まで財産の構成を知らない場合も多くあると思います。このようなときには、概略で構わないので大体の金額を記入すればよいでしょう。記入する必要があるのは、プラスの財産だけではありません。その内容は記載しませんが、マイナスの財産についても合計金額を記載する必要があります。 「相続放棄申述書」の様式は、裁判所の次のアドレスよりダウンロードすることができます。 http://www.courts.go.jp/vcms_lf/2019_souzokuhouki_m.pdf

8-7. 相続放棄の期限の伸長

相続放棄の手続きについては、原則的に自分に対して相続の開始があったことを知ってから3か月以内におこなわなければなりません。しかし、被相続人はすでに亡くなっていますので、相続財産の調査に思いのほか時間がかかる場合もあります。たとえば、3か月たってもなお相続放棄をすべきかどうかの判断するに至る資料を入手できない場合も十分にあり得ます。このようなときには、家庭裁判所に相続放棄の期間の伸長の申し立てを行うことができます。家庭裁判所が個別に内容を検討し、認めた場合に限って期限が延長されます。ただし、やはり原則的には3か月以内の判断が必要になる場合が多いです。

たとえば、手続きの期限について、数年前に他界した夫の相続放棄を申述できるかという問題があります。基本的には相続放棄の申述期限は過ぎていると考えられます。しかしながら、法律の規定上「相続の開始を知り、これにより自分が法定相続人となった事実を知った時から3か月と定められています。したがって、もしも相続財産が全くないと信じていた場合で、なおかつそのように相続人が考えてしまう相当の理由があるときには、事実を認識してから3か月以内に申述すれば相続放棄が受理されることもあります。まったくもって相続財産の存在を知らなかった人で、もう期限が過ぎてしまっているからとあきらめていた人は弁護士に相談してみるとよいでしょう。

相続放棄の難しいところは、「財産と負債調査がうまくできるか」ということと「3カ月以内に守備よく書類を揃えて申立てができるか」という2点になるでしょう。

相続放棄がうまくいくかどうかで場合によっては何千万円の負債を免れられるかどうかが決まることもありますので、不安な人は早めに専門家に相談してみましょう。

9. いったんした相続放棄は撤回できない

相続放棄を行うと、遺産相続に関してはいっさいかかわらないことができます。

ただし、いったん行った相続放棄の意思表示は、後になってから撤回(なかったことにすること)はできませんので、相続放棄を行うかどうかは慎重に判断しなくてはなりません。

これはまだ熟慮期間が経過していない場合でも同様です。

例えば、相続が発生したことを知ってから1か月のタイミングで相続放棄を行ったけれど、その1か月後になって撤回をしたくなった(まだ相続発生を知ってから3か月が経過していないので、熟慮期間中)という場合にも、相続放棄の意思表示の撤回は認められません。

もっとも、実際にはプラスの遺産があるのにもかかわらず、他の相続人に「遺産は借金ばかりだから相続放棄しないと大変なことになる」といったようにだまされて意思表示を行った場合には、いったん行った相続放棄の撤回が認められるケースもあります。

ただし、相続放棄の撤回については裁判所はきびしい判断をするケースが多いので、誤った認識のもとに相続放棄の意思表示を行ったことを認めてもらうことのハードルはかなり高いものと認識しておく必要があるでしょう。

10. 相続放棄の期限が過ぎたらどうなる?

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相続放棄の期限は相続が発生してから3か月で、この3か月間の期間のことを「熟慮期間」(その名の通り相続をするかどうかじっくり考える期間)とよびます。

もし、熟慮期間を過ぎてしまった場合には、遺産を相続することに同意したことになり、遺産に借金が含まれている場合にはその借金も引き継ぐことになってしまいます。

なので、もしあなたが遺産相続をしたくないという意思を持っている場合には、3か月間の熟慮期間のうちに必ず相続放棄の手続きを完了しなくてはなりません。

10-1. 熟慮期間の延長が認められることも

ただし、相続放棄を行うかどうかの判断を行うためには、どのような種類の遺産がどれだけあるのかということを正確に把握できていないといけません。

そのために、相続が発生したら残されている遺産について財産調査を行うのが一般的です。

もし、この財産調査に時間がかかってしまうことが明らかな場合には、家庭裁判所に熟慮期間延長を認めてもらえるケースがあります。

※管轄の家庭裁判所に対して、「相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書」という書類を提出します。

10-2. 熟慮期間延長の手続きは早めに行う

ただし、実際に熟慮期間の延長が認めてもらえるかどうかは裁判所の判断しだいですし、認められるかどうかがはっきりするのは、熟慮期間延長の申し立てを行ってから1週間~2週間後です。

なので、ぎりぎりのタイミングで熟慮期間延長の申し立ての手続きをしてしまうと、家庭裁判所からの返答を待っている間に熟慮期間が経過し、しかも延長が認められなかった…などという事態にもなりかねません。

相続放棄をするかどうかの判断が難しい(財産調査が困難な)相続にかかわる可能性がある方は、早めに熟慮期間延長の申し立て手続きを行っておくのが良いでしょう。

11. 相続放棄に関する例外的な場合のルール

上では相続放棄に関する原則的なルールを説明しましたが、以下では相続放棄に関連する例外的なルールについて説明します。

相続放棄の例外的な事例としては、11-1.相続が生じたことをそもそも知らなかった場合と、11-2.相続財産の存在をしらなかった場合の2つが重要です。

11-1. 相続があったことを知らなかった場合

相続放棄の熟慮期間は「自分のために相続が生じたことを知った時点」から期間計算がスタートします。

そのため、相続が発生したことをそもそも知らなかったというような場合には、熟慮期間の期間計算はまだスタートしていないということになります。

なお、相続放棄の熟慮期間である3か月間が経過するのは、相続があったことを知った日の翌日から計算して3か月です。

例えば、遺族の1人から相続が生じた旨の通知が葉書で届いた日が3月1日だったとしたら、その翌日の3月2日に熟慮期間の起算がスタートしますので、相続放棄の期限は6月1日ということになります(3月1日から起算して5月31日まで、ではありません)

11-2. 相続財産の存在を知らなかった場合

「相続される遺産なんて何もない」と信じ込んでいたことにより、相続が発生したことを知ってから3か月間何もせずに過ぎてしまった…という場合にも、救済措置があります。

このような場合には、遺産の存在を知った時から3か月以内に相続放棄の申述を行えば問題なく相続放棄を行うことが可能です。

ただし、この救済措置が認められるためには、相続される遺産が何もないと信じてしまったことについて合理的な理由があると裁判所に判断してもらわなければなりません。

具体的には、亡くなった人の生前に借金の存在を知らされていなかった場合や、非常に疎遠な状態になっていた場合には、具体的な事情をみながら相続放棄の期間延長が認められる可能性があります。

熟慮期間が経過してしまった場合にも、あきらめることなく救済措置を受ける手段がないかどうか模索することが大切です。

12. 相続放棄の費用

相続放棄の手続きは、被相続人の住んでいた地域の管轄の改訂裁判所で申述という手続きを取っていきます。申し立てを行う人一人につき800円の収入印紙がかかります。その他かかる費用は被相続人の戸籍謄本や住民票などが必要になってきます。

・相続放棄の申述書に貼る収入印紙代 800円
・被相続人の戸籍謄本 450円
※配偶者が申請する場合は必要ありません。
・被相続人の除籍謄本、改製原戸籍謄本 750円
・申述人の戸籍謄本 450円
・被相続人の住民票 300円

13. 相続放棄を自分でやる場合の手続き

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相続放棄を行うためには以下のような法律のルールに従わなくてはなりません。

手続きが適正に行われていないと後から相続放棄の無効を主張されてしまったり、想定外の相続税の負担を求められてしまったりする可能性があります。

相続放棄の手続きは家庭裁判所への申述という形で行う必要がありますので、他の相続人に対して「自分は相続には関わりません」と意思表示するだけではだめなことに注意が必要です。

13-1. 手続きを行う場所

相続放棄の手続きは、亡くなった人が住んでいた地域を管轄していた家庭裁判所にいき、申述という手続きをとることで行います。

住所地を管轄する家庭裁判所は裁判所のホームページで確認することができます。

13-2. 費用

相続放棄の申述を行う場合、申し立てを行う人1人につき800円の収入印紙を購入しなくてはなりません。

収入印紙は購入して消印を受けることで納入したことになりますので、裁判所内の販売所で購入し、申述書に貼り付けて提出するということで納入しましょう。

なお、後日に家庭裁判所から送られてくる書類を郵送してもらうための郵便切手代(数百円です)が必要になりますので注意してください。

13-3. 手続きを行える人

相続放棄の申述を行うのは、原則として相続人となる本人です。

ただし、相続人となる人が未成年者である場合や、事理弁識能力が不十分である場合には法定代理人(未成年者の場合は親、成年で事理弁識能力が不十分な方の場合は成年後見人など)が手続きを行います。

しかし、亡くなった人に妻(子供の母親)と子供1人がいるといったように、親が子を代理すると子の相続人としての権利を侵害してしまうような場合には、親であっても子供を代理して相続放棄を行うことはできません。

この場合には家庭裁判所に特別代理人を選任してもらい、その人が未成年者を代理するという形で相続放棄を行うことができます。

13-4. 手続きの期限

相続放棄は「相続があったことを知った日から3ヶ月以内」に行わなくてはなりません。

この期限を過ぎてしまうと相続を認めたものとして扱われてしまいますので注意しましょう(ただし、あとで解説させていただくように例外的に延長が認められるケースがあります)

13-5. 必要書類

相続放棄を行うためには以下のような書類を家庭裁判所に持参しなくてはなりません(相続放棄申述書は家庭裁判所に備え付けてあります)

相続放棄申述書
相続放棄を行う人の戸籍謄本
亡くなった人の住民票の除票

戸籍謄本や住民票の除票は住んでいる地域の市役所で発行してもらうことができます。

また、裁判所のホームページから相続放棄の申述書のテンプレートが取得できますので、ダウンロードしたうえで内容に記入を行います。

相続放棄申述書や戸籍謄本は管轄の家庭裁判所(亡くなった人の最後の住所地があった地域を管轄している家庭裁判所です)の窓口に直接持って行っても良いですが、郵送でも可能です。

14. 自分で行う場合と専門家に依頼した場合の費用比較

相続放棄の費用は、自力で行なった場合には上でも説明させていただいたように収入印紙代800円に郵便切手代をプラスした金額ということになります。

一方で、相続放棄を行うべきかどうかの判断が難しいような場合には弁護士などの専門家に相談した上で相続放棄の手続きを行うことが考えられます。

◼︎専門家に依頼した場合の費用相場

相続放棄に関する相談は弁護士または司法書士にすることが多いです。

専門家に依頼した場合には以下のような相場の費用が発生することが多いです。

相談料      :1時間に3000円〜5000円程度
相続放棄申述書作成:5000円程度
戸籍謄本の取得等 :実費
代行手数料    :3万円程度

15. 単純承認になってしまわないように注意

相続放棄というのは簡単にいうと「自分は相続人ですが、相続はしたくありません」という意思表示をすることです。

日本の法律では、自分の意思に反して財産を取得したり負債を負ったりすることはないという建前になっていますから、期限内に相続放棄を行えば自分の意思に反して遺産を相続することはないというのが原則です。

しかし、法律上相続人となる人が以下のような行為を行なった場合には、「この人には相続をする意思がある」と判断されて相続放棄ができなくなってしまうことがあります(これを単純承認といいます)

遺産の一部または全部を処分した時
遺産を隠したような場合
相続放棄の期限が過ぎた時
一定の還付金等を請求した時

上の「一定の還付金等」というのは介護保険や健康保険の還付金や、世帯主以外の人が受け取る高額療養費などが該当します。

遺族年金や生命保険の死亡保険金は受け取っても単純承認にはあたりませんが、一定の種類の死亡退職金などは退職金規定の内容によっては単純承認とみなされることがありますから注意しておきましょう。

◼︎専門家からのアドバイス

相続サポートセンター
司法書士:田中千尋
相続開始から3カ月以内の手続きが大切

相続税の申告期限は「その相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内」と定められています。相続の開始があったことを知った日とは、通常、「被相続人が死亡した日」です。一方、相続放棄や限定承認は、相続開始=被相続人が死亡した日から3カ月以内に行うことが定められています。ただし、相続放棄は「相当の理由」があれば期限が切れた後でも相続放棄を行うことができるという考え方があります。それは、たとえば生き別れた親の死亡を知らされずに3カ月が過ぎた場合などで、裁判所の判断により「相当の理由」が認められることが必要です。とはいえ、こういったケースはまれなので、くれぐれも3カ月の期限は守りましょう。

(提供:相続サポートセンター