所有と経営の分離が向いているケース

所有と経営の分離には、上述のようなメリット・デメリットがあります。これらをふまえ、所有と経営の分離を積極的に行った方が良いケースをご紹介します。

後継者が不在で事業継続が難しい場合

親族や従業員など関係者内で後継者候補がおらず、事業継続が困難である場合、外部への事業承継か廃業かどちらかを選択しなければなりません。廃業を選択した場合、従業員は職を失い、取引先との関係も途絶えてしまいます。また、廃業には費用や手続きが必要になります。

外部への承継を選択した場合、事業や従業員の雇用も引き継がれ、経営者も売却益が得られます。 オーナー経営者は株式の譲渡により、所有と経営を分離させ、株式を譲渡することで事業承継が成立します。承継後は、オーナー経営者はこれまでとは違う立場で自社と関わることができることが大きなメリットです。

これらのことから、オーナー企業である中小企業でが、事業承継を考えるタイミングで「所有と経営の分離」が検討されるケースが多く見られます。

<関連記事>
「後継者不在率」が2023年、過去最低53.9%に。TDB 全国「後継者不在率」動向調査

個人資産を確保しながら経営を続けたい場合

所有と経営が一体化しているオーナー経営者は、金融機関から融資を受ける際に、連帯保証人となり、個人資産を担保に入れるケースが多く見られます。そのため会社の経営が傾いてしまうと、最悪の場合は個人資産のすべてがなくなってしまうことも覚悟しなければなりません。

しかし、所有と経営の分離を進め、株主から経営を任された経営者となれば、基本的に個人資産を担保に入れることはないため、個人資産をリスクにさらすことなく企業経営が続けられます。

企業再生をさせたい場合

業績が悪化した企業を再生させるためには、資金調達が必要です。一般的に企業が資金調達を行う場合には、金融機関からの借入金によって資金を調達する「デットファイナンス」と、株式を発行して投資家などから出資を受ける「エクイティファイナンス」の2つの方法があります。しかし業績が悪ければ、融資による資金調達を望むことは難しいでしょう。

したがって、投資家などからの出資によって資金を調達しなければなりませんが、そのためには所有と経営の分離を進め、第三者から出資を受けなければなりません。

所有と経営の分離を行う方法

所有と経営の分離を行うためには、株主と経営者を分け、それぞれの役割が果たしやすい仕組みに会社そのものを作り替えなければなりません。その方法は主に以下の2つです。

ホールディングス化

ホールディングス化とは、持株会社(ホールディングス)が傘下の事業会社の株式を保有し、持株会社を頂点に企業グループを形成する企業形態のことです。持株会社はグループ全体の戦略の策定や管理を行い、実際の事業の運営は各事業会社がそれぞれの裁量で行います。

企業グループをホールディングス化すれば、株式は持株会社が持ち、各事業会社は事業に専念できるため、所有と経営の分離が可能です。ホールディングス化を進めれば、効率的な企業経営が望めるようになるでしょう。

<関連記事>
ホールディングス化とは?メリット・デメリットをわかりやすく解説

株式公開(IPO)

株式公開(Initial Public Offering:IPO)とは、株式市場に上場し、証券取引所で自社の株式が売買できるようにすることです。上場するためにはかなり厳しい審査を受けなければならず、また上場の維持には毎年高額な費用が必要です。

しかし、市場からの資金調達が可能になり、知名度や信頼性も向上するため、事業や人材確保などさまざまな点で多くのメリットが受けられます。また、不特定多数の投資家が自社の株主となるため、株主の構成は大きく変わり、所有と経営の分離が達成できます。

<関連記事>
IPO(新規公開株式)とは?上場するメリットやデメリット、審査基準を紹介