個人事業主が亡くなった場合、事業用資産も相続税の対象になります。
「事業用資産」とは事業に使っていた道具や在庫などのことです。
人が亡くなるとお葬式や個人財産の相続で頭がいっぱいになってしまい、うっかり事業用資産の申告を忘れるケースがよくあります。
また、そもそも事業用資産が相続税の対象になることを知らないケースも多いようです。
どんな理由や事情があっても、事業用資産の相続税の申告を忘れると過怠税などの対象になってしまいます。
事業用資産の相続に関する必要書類チェックリストで、手続きを確認しておきましょう。
また平成31年度改正のポイントも解説します。
事業用資産とは
事業用資産とは、個人事業主が事業に用いていた物のことです。
工具や車、商品の在庫や電化製品など、個人事業主が事業で使っていた形ある物のほぼすべてが事業用資産に含まれます。
事業用資産には一般動産と棚卸資産の2種類があります。
一般動産
一般動産とは、土地や家などの不動産以外の物のことです。
パソコンや車、工具や備品、などが事業用資産の一般動産にあたります。
たとえばフリーランスのプログラマーが仕事で使っていたパソコン、事務所に設置していた電話機、仕事の書類や専門書を収納していた本棚などはすべて一般動産です。
ただし、事務所に設置されていたエアコンや消火設備などは家屋の付属設備のため、一般動産には含まれません。
また、仕事で使用または取得した特許権などの権利類は動産ではないため、同じく一般動産ではありません。
棚卸資産
棚卸資産とは、簡単にいうと在庫のことです。
仕事で販売するために仕入れた商品のうち、まだ販売されていないもののことを棚卸資産といいます。
たとえば文具を取り扱う個人事業主が仕入れた鉛筆100本のうち、30本は売れたものの70本がまだ売れずに残っているとします。
この残り70本が棚卸資産にあたります。
事業用資産の相続税申告の必要書類チェックリスト
事業用資産の相続税は、個人財産と同様に相続人が自分で申告して納付しなくてはいけません。
申告には、個人財産とは別の書類が必要です。
事業用資産の相続税申告に必要な書類をチェックリストで確認しましょう。
書類名 | どこでもらえる? | 費用 | 備考 |
所得税の青色申告決算書 または 収支内訳書 | ・基本的に、控えが保管されているはずです。パソコンなどを探してみましょう。 ・控えがない場合は税務署で閲覧可能。ただしコピーはできません。 | 0円 | ・故人が税務申告を税理士に依頼していた場合は、その税理士に連絡すれば用意してもらえます ・最近はインターネット申告をしている人が多いので、パソコンの中をよく探すのがおすすめです。 ・ネットバンキングを使っている人が増えてきているため、通帳がないケースも多いことに注意。 |
帳簿 | ・一定期間の保管義務があるため、基本的に事務所などにあるはずです。 ・見つからない場合は税務署や税理士に相談しましょう。 | 0円 | |
通帳 | ・基本的に事務所などにあるはずです。 ・見つからない場合は銀行などに問い合わせましょう。 | 0円 |
事業用資産の相続税申告の必要書類の集め方
事業用資産の相続税申告をする際には、必要書類を上手く集めるのがポイントです。
まずは故人の事務所や自宅をよく探してみましょう。
個人事業主は毎年所得税の確定申告を行っているはずなので、たいていは申告書類や決算書類の控えがどこかに保管されているはずです。
本棚やパソコンの中などに保管されているケースが多いです。
・青色申告決算書
・賃借対照表
・収支内訳書
上記のような名前の書類を見れば、事業用資産の状況がわかります。
見つからない場合や見つかってもよくわからない場合は、税理士や税務署に相談してみましょう。
故人が税理士に税務を委託していた場合には、担当の税理士に確認すれば必要書類を揃えることができます。
申告書等閲覧サービスを活用しよう
すべて探したけど見つからないというケースもあります。
故人が整理整頓や税務に無頓着だった場合には、そもそも必要な書類が保管されていないことも珍しくありません。
そんなときには、税務署の申告等閲覧サービスを活用しましょう。
相続人などが税務署の窓口に行けば、税務職員の立ち合いのもと、故人の過去の申告書類などを無料で閲覧することができます。
ただし、申告等閲覧サービスを使う際には税務署への事前連絡と書類の提出が求められます。
また、相続人全員の委任状と印鑑証明書も必要です。
閲覧した内容をメモに書き写すことはできますが、コピーはできません。
平成31年度改正のポイント
平成31年度の税制改正の目玉のひとつは、個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度の創設です。
この改正により、事業用の不動産や一定の事業用資産に係る相続税が全額免除となる可能性があります。
個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度とは
個人事業者の事業用資産に係る納税猶予制度とは、平成31年1月1日から令和40年12月31日までの間に認定相続人が特定事業用資産を相続し、事業を継続していく場合には、担保の提供を条件として特定事業用資産の相続税の納付を免除する制度です。
個人事業主から事業用資産を相続し、それを使って事業を継続していくのなら、その事業用資産分の相続税は払わなくて良いということです。
ただし、この猶予制度を使うにはいくつか条件があります。
「認定相続人」であること
「認定相続人」とは、あらかじめ都道府県に提出された承継計画に記載された後継者であり、法に基づく認定を受けた相続人のことです。
承継計画とは認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けて作成された特定事業用資産の承継前後の経営見通し等が記載された計画であって、平成31年4月1日から令和6年3月31日までの間に都道府県に提出されたものをいいます。
この承継計画に記載された後継者のうち、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の規定による認定を受けた者が「認定相続人」にあたります。
簡単に言うと、事前に後継人として認定された者だけが認定相続人となり、この猶予制度を利用できるというわけです。
個人事業主が亡くなって事業用資産をいろいろ相続できたから、せっかくだし同じ事業を続けていこうかなというような相続人は、この制度の対象外です。
「特定事業用資産」であること
すべての事業用資産の相続税が猶予されるわけではありません。
「特定事業用資産」である必要があります。
特定事業用資産とは、故人の事業に使われていた土地のうち400㎡までの部分であり、建物以外の減価償却資産であって、青色申告書に添付の賃借対照表に記載されている資産のことです。
事業に使われていない土地や400㎡以上の部分などは特定事業用資産にあたらず、猶予制度の対象外です。
まとめ
個人事業主が亡くなった場合、事業用資産も相続税の対象になります。
忘れずに申告し、相続税を納付しましょう。
事業用資産の相続税申告には、申告書類の他に所得税の青色申告決算書または収支内訳書や帳簿、通帳などが必要です。
たいていの人は控えを保管しているはずなので、故人の事務所や自宅などをよく探しましょう。
見つからない場合には、税務署の申告書等閲覧サービスを活用するのがおすすめです。
税務署に事前に閲覧したい旨を連絡し、必要書類を揃えて窓口にいけば申告書類などを無料で見ることができます。
ただし、閲覧内容のメモは可能ですがコピーはできません。
(提供:相続サポートセンター)