株式譲渡と事業譲渡の違い

株式譲渡と事業譲渡の違いですが、譲渡する対象はもちろん、手法を選択する目的や必要な手続き、課税される税金も異なります。

株式譲渡は、会社の「株式」のすべてまたは一部を譲渡することです。 ■株式譲渡 株式譲渡の仕組み

一方の事業譲渡は、買収対象企業の「事業」のすべて、または一部を売買することを指します。 ■事業譲渡 事業譲渡の仕組み

株式譲渡 事業譲渡
譲渡する対象 株式のすべてまたは一部 事業のすべてまたは一部
対価の受け手 譲渡対象企業の株主 譲渡対象企業
譲渡対象企業の経営権の存続
しない する
主な税金 【売り手】
・所得税(復興税)
・住民税
【売り手】
・法人税等
・消費税
主な税金 【買い手】
・なし
【買い手】
・消費税
・不動産所得税
・登録免許税

事業譲渡では譲渡の対象が特定の事業になるため、すべての事業の譲渡であっても譲渡対象企業の経営権は譲渡側に残ります。

また、合併・会社分割とは異なり、事業譲渡は消費税の課税関係を考慮する必要があります。資産・負債をすべて時価で移転するため、事業を譲渡した法人は、簿価との差額に原則として課税関係が生じます。

株式譲渡、事業譲渡いずれかの手法を選択すべきか、判断が難しい場合は、外部の専門家に相談しましょう。

株式譲渡を行うメリット

手続きが比較的簡便かつ短期間である

株式譲渡は、株主の変更のほか、基本的に譲渡対象企業には特段の変更は生じません。そのため、最終契約締結からクロージング(代金の決済)まで、比較的短期間で実行できます。

場合によっては最終契約とクロージングを同時に実行することもあります。このように他の手法と比べて手続きが比較的簡便かつ短期間で完了するケースが多いことがメリットに挙げられます。

スムーズに引き継げる

中堅・中小企業のM&Aでは従業員の継続雇用を前提に交渉が進められるケースが多く、譲渡側(売り手側)の経営者は安心して従業員を任せることができます。取引先との関係も同様です。

譲受け側(買い手)にとっても会社をそのまま引き継ぐため、譲渡対象企業への影響が少なく、M&A後の運営をスムーズに進めることができます。 また、譲渡側(売り手)の法人格がM&A後も残るため、企業の独立性を維持したまま運営することが可能です。

株式売却益に対する税金を抑えられる

個人が株式譲渡を行った場合は、株式譲渡所得に対して20.315%が課税されます。

事業譲渡では譲渡益に対して約34%の法人税等の課税がなされ、株主個人へ譲渡対価を還流する際の課税(給与や配当等)を考慮すると、個人としての手取額は株式譲渡のほうが有利となるケースが多いです。

税制措置を活用できる

株式譲渡を活用する譲受側(買い手)にとって画期的な制度が2021年8月から始まりました。「中小企業事業再編投資損失準備金」という制度です。こちらの制度は譲受側(買い手)のメリットになると考えられます。ざっくりとした制度のイメージは、下記図の通りです。

中小企業事業再編投資損失準備金のイメージ

例えば10億円で株式を取得したときに、その期に70%相当の7億円を一括で税務上の損金に算入することが可能となります。 ただし、その損金に算入した70%相当額の金額は、その後、5年間の据え置き期間を経て、6年後から1/5ずつ取り崩す必要があります。この例では1.4億円ずつ税務上の益金(つまり税金計算の利益)に算入されることとなります。

譲受側(買い手)としては足元の利益と相殺することで一時的な節税となり、6年目から取り崩しがなされます。一時的な課税の繰り延べとはなりますが、長期的なタックスプランニングのもと制度の利用ができれば、有効な制度としてM&Aの促進に資すると思われます。