中堅・中小企業のM&Aで、最も多く用いられるスキームが株式譲渡です。 本記事では、株式譲渡の概要、メリットやデメリット、手続きの流れ、税金についてM&Aに精通した税理士がご紹介します。
株式譲渡とは
株式譲渡は、譲渡対象企業(売り手)の株主が保有する株式を、譲受け側(買い手)に売却し、経営権を承継する手法です。
株券を発行している場合には株券の現物を譲渡しますが、不発行会社の場合には現物を譲渡する必要はありません。
株式譲渡は株式の譲渡によってM&Aが完了し、スムーズに比較的簡易な手続きで譲渡対価を株主(譲渡オーナー)が受け取れることから中堅・中小企業のM&Aで多く用いられています。
中堅・中小企業のM&Aで譲受け側(買い手)は基本的には一部の株式ではなく100%全ての株式を取得するケースが多く見られます。特に後継者が不在の事業承継型のM&Aにおいてはその傾向が強くみられます。なお、日本M&Aセンターの過去事例においては約9割の案件で株式譲渡の手法が用いられています。
株式譲渡の種類
株式譲渡で譲受け側(買い手)が株式を取得する取引方法には、主に以下3つの種類があります。 どの方法を採用するかは、譲渡側(売り手)が上場企業か非上場企業かによって変わりますが、非上場である中堅・中小企業M&Aでは相対での取引になります。
相対取引
相対取引では、株式市場や証券取引所を介さず、売り手と買い手が直接交渉を行い、株式の価格や条件を合意します。あらかじめ当事者同士が売買する価格や数量を決めてから、取引所外で取引します。
非上場企業では、経営者が会社の株式の過半数を保有していることが多く、そのため相対取引で、株式譲渡が完結します。 ただし、過半数の株式が多くの株主に分散している場合は、個別に交渉する必要があるため、株式譲渡手続きの負担は大きくなる場合もあります。
市場買付け
市場買い付けとは、証券取引所を通して株式を売買する取引方法のことです。 買収対象企業が上場企業であれば、証券取引所を通して株式を買い集めることが可能ですが、過半数以上の取得を目指す買収において市場買い付けが行われるケースはほとんどありません。
市場に出回っている株式の株数が限定的であることや、株価は常に変動するため最終的な買収金額を確定させることができないことなどが理由に挙げられます。
TOB(株式公開買付け)
買い手が上場企業の株式を取引所外で買い集める場合は、TOB(株式公開買付け)を採用します。
TOBとは、あらかじめ買い付け期間・買取株数・価格を公開して、取引所外で上場企業の株式を買い取る取引方法のことです。TOBでは経営権を取得できる50%超の株式を買い集めるために、市場価格よりも高い「プレミアム価格」を提示することが一般的です。