目次
- DXで女性が活躍するフィールドの拡大を
- 猫がいるオフィスはアットホームな雰囲気
- 機動力ときめ細かい対応力が持ち味の少数精鋭の工務店
- 2014年、社長を務めていた父親からの依頼で雑賀工務店へ
- 現場の仕事に最初は戸惑うが、地道に取り組んで信頼関係を築いた
- 考案したコーポレートマークはサイをデザイン
- 従来以上に時間を効率的に使うためにICTやデジタル機器に着目
- NASを導入して現場と本社を行き来する時間と手間を削減
- 現場写真の整理も効率的に 本社に戻ってからの仕事量を削減
- クラウド型の原価管理システムで見積書を簡単に作成 手間の削減だけでなく情報共有も容易に
- 2013年から企業向けのホームページ作成システムを導入して情報発信に取り組む
- 業務効率化によって生み出した時間を自己研鑽とネットワークづくりに活用
香川県高松市に本社を構える1961年創業の株式会社雑賀工務店は、建設業界では数少ない女性経営者の舵取りの下、地域に根差した企業として事業を営んでいる。2020年7月に父親から事業を継承した蒲生亜季代表取締役は、経営と現場監督の仕事に加え、先を見据えた戦略策定や経営者のネットワークづくりにも取り組む。忙しく充実した毎日を過ごす中、効率的に時間を使うため積極的にICTとデジタル機器を活用している。(TOP写真:本社で現場から送られてきた写真を確認して整理する様子)
DXで女性が活躍するフィールドの拡大を
「男性中心で女性が少ない業界には、これから女性が活躍できるフィールドが大きく広がっていく可能性があります。人手不足の建設業界は、ほかの業界以上に女性が働きやすい環境を整備しなければなりません。働き方を変える重要な鍵となるDXを業界全体でスピードアップする必要があると思っています」。香川県高松市の閑静な住宅街に立地する雑賀工務店の本社で、蒲生社長は柔らかな表情で話した。
建設業界の女性就業者の比率は近年増えつつあるが、それでも2020年の時点で約17%。技術や技能を持って現場で働く女性就業者は約10%と更に少なく、女性経営者は数%でしかない。建設業界では数少ない女性経営者として、今後は女性が自然体で働くことができる環境を作っていきたいという蒲生社長の思いは強い(現状は女性従業員1人)
猫がいるオフィスはアットホームな雰囲気
「経営者としての役割を果たせているのは従業員の皆さんのおかげです」と蒲生社長。アットホームな雰囲気を大事にしており、オフィスでは蒲生社長が飼っているオス猫のトラ吉が、のびのびと過ごしている。
トラ吉は、2023年10月下旬、生後1ヶ月くらいのころ、高松市内の集合住宅の改修工事現場で母猫とはぐれてさまよっているところを蒲生社長に保護された。「衰弱してあまりに可哀想で、そのままにしておくことはできませんでした。一度保護したからには責任を持って人とのふれあいの中で育ててあげたいと思い、毎日自宅から連れてきているんです」と蒲生社長は話した。すっかり元気になったトラ吉は体重も2倍以上になり、日々、マスコットとして従業員に癒やしを与える大事な役割を果たしている。
機動力ときめ細かい対応力が持ち味の少数精鋭の工務店
雑賀工務店は創業当初、土木中心に国鉄関連の工事にも携わっていたが、約20年前から施工管理と設計を業務の主要領域にしている。従業員は6人。一級建築士事務所として登録し、機動力と小規模な修理にも応じるきめ細かい対応力を持ち味にしている。品質マネジメントに関する国際規格、ISO9001も取得している。香川県内の公共事業をはじめ、飲食店、保育園、ドラッグストアなどの建築に携わった60年を超える実績をベースに年間30件ほどの案件をこなす。蒲生社長自身、複数の現場を担当しなければならない時も多い。
2014年、社長を務めていた父親からの依頼で雑賀工務店へ
蒲生社長が、30代前半で雑賀工務店に入社したのは2014年。それまでは船舶設計の会社で図面の作成を担当していた。充実した日々を過ごしていたが、当時社長を務めていた父親の省二氏に雑賀工務店への転職を頼まれたという。「現場の担当者が不足していたんです。すぐに即戦力の従業員が必要ということで、建築を学んでいた私に白羽の矢が立ちました。現場は初めての経験ということもあり不安はありましたが、なんとかなるだろうと覚悟を決めて新しい世界に飛び込むことを決めました」と蒲生社長は朗らかに語った。
現場の仕事に最初は戸惑うが、地道に取り組んで信頼関係を築いた
現場監督としての最初の仕事は公共施設の外壁改修だった。最初は戸惑うことが多かったが、先輩に教わって現場で経験を積みながら原価、工程、品質、安全といった様々な管理の仕事を覚えていった。施工会社のベテラン職人に自分から積極的なコミュニケーションを取ることを心掛け、地道に信頼関係を築いていったという。毎日、仕事を終えてから二級建築士の資格を取得するための学習にも取り組んだ。入社3年目からは経理の業務も担当。現場で仕事をして、一度事務所に戻って経理の仕事をこなし、もう一度現場に戻るという多忙な日々を送っていた。
考案したコーポレートマークはサイをデザイン
蒲生社長の入社は、創業から半世紀以上が経過し転換期を迎えていた雑賀工務店に新しい風を吹き込んだ。尻尾の先にハートマークを付けたサイをデザインした雑賀工務店のコーポレートマークも蒲生社長が考案したものだ。マークの上には「サイガ」とカタカナで表記している。「はじめてのお客様でも一瞬で会社の名前を覚えていただけるように、サイガとサイをひっかけてインパクトを最優先に親しみも感じていただけるデザインにしました」と蒲生社長は説明した。マークは会社の看板、ユニフォーム、現場シートなどに活用している。今後、ステッカーの作成も検討していきたいという。
従来以上に時間を効率的に使うためにICTやデジタル機器に着目
「現場を経験すればするほど、成果を形にして残すことができる建築の仕事が好きになっていきました。できあがったばかりの建物をうれしそうに眺めるお客様の笑顔を見る度にこの仕事をしていてよかったと心から思います」と蒲生社長。入社6年で父親の後継者として雑賀工務店の4代目社長に就任したのも自然な流れだった。
社長に就任してから常に意識しているのは、従来以上に時間を効率的に使うことだ。そのためにICTやデジタル機器に着目し、機能や業務内容との親和性を見極めながら導入を進めている。
NASを導入して現場と本社を行き来する時間と手間を削減
2021年3月に導入したのがネットワークへの接続機能を備えたストレージデバイス、NASだ。NASを導入したことで図面などのデータを保存している本社のストレージに社外から接続することが可能になり、現場と本社を行き来する手間と時間を大幅に節減できるようになったという。NASの導入と合わせて一台に様々なセキュリティ機能を盛り込んだUTM(統合脅威管理)の機器もバージョンアップした。
「現場で図面を急遽修正しなければならなくなった時、以前は紙の図面に手書きで修正を加えた上で本社に戻り、パソコンで修正してプリントアウトした図面を持って再度現場に戻っていました。NASを使えば現場でパソコンに図面データをダウンロードして、その場で修正することができるので、わざわざ本社に戻る必要がなくなりました」と蒲生社長は話す。
現場写真の整理も効率的に 本社に戻ってからの仕事量を削減
記録のために撮影する現場写真の整理も以前は、本社に戻ってから取り組まなければならない作業の一つだったが、スマートフォンやデジタルカメラで撮影した画像データを現場から本社のストレージにまとめて送信できるようになったので、本社勤務の従業員に任せやすくなった。結果として現場から本社に戻ってからの仕事量の削減につながっているという。
クラウド型の原価管理システムで見積書を簡単に作成 手間の削減だけでなく情報共有も容易に
2023年10月からは過去に蓄積したデータから見積書を短時間で作成できる機能を備えたクラウド型の原価管理システムを導入した。以前使っていた原価管理システムは本社でしか使用することができなかった。そのため各現場の担当者が手書きで作成した見積書を本社の事務担当者に渡してシステムに入力してもらわなければならなかったという。
クラウド型の新しい原価管理システムは、社外にいてもパソコンなどの端末からシステムにアクセスすることができる。複数のユーザーライセンスを取得することで各現場の担当者が、現場や自宅でも見積書を作成できるようになった。「手書きした見積書を入力し直す二度手間を省くことができるようになったことで、作成時間は半分以下になりました。時間を有効活用できるようになっただけでなく情報も共有しやすくなりました」と蒲生社長はその効果を説明した。見積書の数は工事によっては数十枚になることもある。見積書のデジタル化によって複合機の印刷枚数も減ったのでコストの削減にもつながっている。
導入したシステムは、原価管理から実行予算、見積、支払管理を連携したシステムで、一元管理によって経営を見える化することが可能。蒲生社長は今回の導入の成果を踏まえて原価管理システムと販売管理システムを連動するなど更なる活用を考えている。「蓄積した過去のデータを活用することで更なる業務の効率化が図れそうなので楽しみにしています」と蒲生社長。
2013年から企業向けのホームページ作成システムを導入して情報発信に取り組む
雑賀工務店は2013年から企業向けのホームページ作成システムを導入して情報発信に取り組んでいる。会社案内や実績を掲載し、一級建築士の資格を持つ従業員がほぼ毎日のペースでブログを更新している。会社のありのままの姿や今後の取り組みを知ってもらうためにこれからも積極的にシステムを活用していく方針だ。
業務効率化によって生み出した時間を自己研鑽とネットワークづくりに活用
蒲生社長はICTやデジタル機器で業務を効率化して時間を生み出すことで、自らの活動の幅が広がっていることを実感している。地元の経済団体や大手生命保険会社が運営する経営者のオンラインコミュニティに参加し、会社の可能性を広げるためのネットワークづくりに積極的に取り組んでいる。
自らの研鑽(けんさん)だけでなく、建設業界や経営に関心を持ちながらも不安があって一歩を踏み出せない女性に手を差し伸べ、サポートしていきたいという。「変化が激しいこれからの時代を乗り切っていくために、しっかりとした経営理念やビジョンを打ち出していきたいと考えています。女性が無理をすることなく活躍できる環境づくりに貢献できればうれしいですね」と蒲生社長は明るい表情で話した。
ICTやデジタル機器で着実に足場を固めている雑賀工務店。少数精鋭の強みを生かした更なる飛躍に期待がかかる。
企業概要
会社名 | 株式会社雑賀工務店 |
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本社 | 香川県高松市桜町2丁目8番10号 |
HP | http://saiga-k.co.jp |
電話 | 087-833-5544 |
設立 | 1970年10月(創業1961年) |
従業員数 | 6人 |
事業内容 | 建築工事業、土木工事業、宅地建物取引業 |