工藤裕実さんは、一般社団法人NADESHIKOの代表理事で、スマイルクリエイターとしても知られています。自身のうつ病をきっかけに、一人でも多くの人の役に立ちたいと独立。現在は、企業への社員研修やセミナー、講演会、パーソナルコーチングなど多方面で活躍しています。「太陽のような存在になりたい」と語る工藤さんに、活動に込められている思いなどを伺いました。
飲食業で目の当たりにした「人の可能性」
18歳から7年ほど大手飲食チェーンで働き、そのうち5年は店長を務めていました。小さい頃から人の役に立つのが喜びに感じていたので、接客の仕事を選びました。飲食店で勤務していたときは、1日20時間働く日があったり、他店舗への異動に伴って14回の引っ越しを経験するなど、過酷な労働環境でした。
店長としてさまざまな店舗を経験するなかで、私との関わりを通じて成長するスタッフを見ることがやりがいとなりました。特に印象深いのは、仕事ができないと言われて1年間皿洗いしかやらせてもらえなかった男子の話です。本人も自分のことを「どうせできないやつなので」と言っていました。
その彼に対し、皿洗いがとても重要な仕事であり、他の業務もこなせる可能性があることを伝えました。その結果、彼は皿洗い以外の業務も次第にこなせるようになり、周囲の人々からも認められるように成長しました。最終的には、「君がいなければ店は回らない」と言われるまでに至りました。
人の変化を間近で目の当たりにし、人の可能性を制限しているのは周囲の人々であることを痛感しました。その経験から、自分が関わる人が成長したり、彼らの人生に変化をもたらすきっかけになりたいと思うようになりました。
言い訳せずやりたいことにチャレンジ
大手飲食チェーンを退職した理由は、適応障害を発症したためです。アルバイトのスタッフが、自殺するという悲劇を経験したことがきっかけでした。仕事に対して人の役に立つことを目指していましたが、私が仕事に追われている状況で、共に働くスタッフの心情を理解することができなかったと思います。特に亡くなったスタッフに対して、もっと関われることがあったのではないかと自責の念に駆られました。
適応障害になって入院したときに、ようやくゆっくり休むことができたので、これまでの自分を振り返ってみました。小さい頃から指圧師になる夢を持っていましたが、大学進学のための資金がなく、その夢を断念。結局は、料理が好きだったことから飲食業界への就職を選択しました。今までずっと「何かがないからできない」と、言い訳ばかりしていたことに気づいたのです。
それからは言い訳をせずに、自分の本当にやりたいことに真剣に取り組む決意をし、長年の夢であった指圧師・整体師を目指すことに。最初は整体院で働きながら技術を習得しました。3カ月後には整体師として活動し始め、5年の経験を経て独立しました。
もともと起業願望が強かったので、整体院で働きながら起業塾に通ったり、ビジネスコミュニティに参加したりして、20代後半は迷走していましたね。その結果、400万円の貯金が借金に変わり、体重も10kg以上増加。5年間交際していた婚約者とも別れ、何のために生きているのかが分からなくなり、気がつけばうつ病になっていました。
うつ病から回復できたのは、両親の支えがあったからです。「今までの経験はすべてあなたのためになっている」と私を受け入れてくれました。それにより「自分であること」の大切さを実感し、自分の知識や経験を活かして人の役に立ちたいと思い、独立を決意しました。その後、レンタルスペースを借りて自分のサロンを開業しました。
太陽のような存在になりたい
仕事や人間関係において、個人の「在り方」や「軸」が整っていなければ、やり方ばかりに目が向いてうまくいきません。そこで現在はパーソナルや企業研修という形で、人の“基盤”を整えるコミュニケーションのセッションを行っています。
独立してサロンをオープンすると同時に、ワンコイン交流会を始めました。『のんびりカフェ会』と称したこの座談会が、基盤を整えるセッションの仕事につながっています。私はそれまで会社員しかやったことがなかったので、人脈づくりやいろんな方のニーズを聞いて自分の経験を積むためにも、1年間で1200回ほど開催しました。
時には1日に4〜5回、40〜50人の話を聞くこともあり、これを1年半続けました。その中で人生における悩み相談を受けることが増えましたね。さまざまなつながりが生まれ、親友や恋人ができたり、家族連れの参加者もいました。
独立後はコーチングを学びましたが、当初は受講者の立場でした。さまざまな方の悩みを伺うなかで、私自身も支援する側に立ちたいと考え、コーチングをする側になりました。現在は個人のクライアントが約20名、企業研修の依頼も2社から受けています。私が行うセッションの内容をまとめて、2021年に『FOUNDATION ヤマトナデシコ塾』を出版しました。
日本の女性は、結婚や出産といったライフイベントにより決断や諦めを強いられて、自信を無くしてしまい、人生に迷うことが多いです。私自身もかつてそうでしたが、自己否定に陥る女性が多いことに気づき、彼女たちが自信を持って自分らしい人生を謳歌できるよう支援したいと考えました。
女性が楽しそうに生きていたら、周りにいる男性や子どもたちも幸せになると信じています。輝く女性が増えていくことで世の中がもっと良くなっていくと思い、『一般社団法人NADESHIKO』を立ち上げました。
私が目指しているのは太陽のような存在です。周りの人を温めて、私をきっかけに変わったり、成長したりする人が増えたらうれしいです。特に、女性が仕事に誇りを持って、毎日笑顔でいる人がもっと増えてほしいと思います。
主婦の方々の中には、家事を「仕事」と捉えられずに疎外感を感じる方がいます。私は、どんな状況でも自身を最高だと感じられる女性を増やし、彼女たちが集まる「港」のような場所をつくりたいと考えています。