会社を廃業する際の、従業員の有給休暇について

会社が廃業すると、従業員の有給休暇は消滅します。しかし整理解雇を告げた段階で、従業員が有給休暇を未消化である場合は、どのように扱えば良いのでしょうか。

廃業が事前に通知されている場合、未消化分の有給休暇については、廃業の日までに消化することができます。

企業による有給休暇の買い取りは、原則として認められていません。有給休暇の買い取りを企業側に認めてしまうと、従業員が十分に休息をとる機会が失われてしまう恐れがあるため、法律違反であると考えられているためです。

行政通達(昭和30年11月31日、基収4718号)では「年次有給休暇の買上げの予約をし, これに基づいて法第39条の規定により請求し得る年次有給休暇の日数を減じ,ないし請求された日数を与えないことは,法第39条の違反である」としています。

しかし、廃業の日までに消化しきれないほど有給休暇が残っている場合など、例外的に認められてるケースもあります。

有給休暇の買い取りは法律上企業に課された義務ではなく、経営者の判断に委ねられています。退職後のトラブルにつながる可能性もあるため、基本的には従業員が有給休暇を消化できることも考慮し、廃業までのスケジュールを組む必要があります。

会社を廃業する際の、従業員の年末調整について

年末調整は、雇用者(会社)が1月〜12月の一年間の給与にかかる税金額を算出し、あらかじめ天引きされた税金額(源泉徴収)との差額を精算する手続きです。

例えば11月に廃業し、12月時点で、従業員が勤務していない場合、会社側は年末調整を行う必要はありませんが、この場合11月に廃業するまでの期間分について源泉徴収票を発行しなければなりません。従業員は発行された源泉徴収票をもとに、新たな勤務先で年末調整を行うか、自分自身で確定申告を行う必要があります。

会社を廃業する際の、従業員の保険について

従業員は、勤めている会社を通じて失業保険(雇用保険)や社会保険に加入しています。廃業後は、従業員が自ら手続きを行わなければなりません。 会社が廃業する際の失業保険と社会保険について、それぞれ見ていきます。

失業保険(雇用保険)

廃業にともない従業員を整理解雇する場合は、会社がハローワークを通じて手続きを行うとともに、従業員は解雇後に、当該従業員の住所地を管轄するハローワークで受給手続きを行わなければなりません。

失業保険の受給は、退職理由が、従業員本人の自己都合か、会社側都合かで条件が大きく異なります。 会社を廃業する場合、前述の通り従業員は会社都合の退職(整理解雇)になり、自己都合による退職に比べ手厚いサポートを得ることができます。 (倒産、解雇の場合は、勤務年数が1年未満の従業員が失業保険を受け取るためには、離職前1年間に被保険者期間が通算して6か月以上必要です。)

例えば自己都合による退職の場合、受給資格の決定を受けて7日間の待機期間後、2ヶ月(5年以内に自己都合の離職を2回以上した場合は3ヶ月)の給付制限期間を経て失業保険が支給されますが、会社都合の場合は7日間の待機期間後に受け取ることができます。

なお、整理解雇を理由とする失業の場合は「特定受給資格者」に該当するため、失業保険の受給日数は勤務年数(被保険者であった期間)に応じて以下のように定められています。

失業保険1日あたりの支給額は、離職直前6ヶ月間の月給を180日で割った金額の50~80%程度といわれています。

社会保険について

従業員が会社を通じて加入している社会保険は、「健康保険」と「厚生年金」の2種類で構成されています。これらが解雇により脱退となるため、健康保険は「国民健康保険」に、厚生年金は「国民年金」にそれぞれ加入し直さなければなりません。

国民健康保険の手続きについては、当該従業員の住所地を管轄する市区町村役場で行います。また国民年金の手続きは、同様に住所地を管轄する日本年金機構の年金事務所で行います。

ただし、従業員の配偶者が健康保険の被保険者であり、かつ厚生年金の第3号被保険者であった場合は注意が必要です。従業員の失業にともない配偶者も健康保険と第3号被保険者から脱退することになるため、従業員だけでなく配偶者も国民健康保険と国民年金の加入手続きが必要となります。

また、加入手続きにともない保険や年金の負担が従業員側に生じることになります。決して少ない金額ではないだけに、従業員には十分に説明したうえで納得してもらえる丁寧な説明を心がけましょう。