M&A(Mergers and Acquisitions)は企業の合併・買収のことであり、「Mergers」が今回ご紹介する合併を指します。本記事では合併の概要や買収との違い、メリット・デメリット、必要な手続きなどについてご紹介します。
合併とは
合併とは、複数の組織や会社が法的に1つになることを指します。
他のM&A手法と同様に、企業の成長力を高める目的で行われます。実務的には完全子会社化した後、一定の時間をおいてから合併が行われるケースが多く見られます。
合併と買収の違い
買収とは、他の企業の事業や経営権を取得することを指します。
合併は、複数の会社が1つになるため、いずれかの法人格が消滅しますが、買収では株主が変更になるだけで、それぞれの法人格は残ります。
合併に関する最新の事例
直近の企業合併の事例をご紹介します。そのほか最新のニュースについては、合併に関するM&Aニュースをご覧ください。
LINE、ヤフー、Zホールディングスの合併(2023年10月1日)
Zホールディングス(以下、ZHD)は2023年4月28日、ZHDおよび中核子会社のLINE、ヤフーの3社を中心に2023年10月1日に合併すると発表しました。
存続会社をZHDとし、新商号は「LINEヤフー株式会社(英文名:LY Corporation)」と、認知度の高いブランド資産を活かした社名で新たなスタートを切ります。
2019年10月、ZHDはヤフーからの会社分割により持株会社体制へ移行し、中核を担うLINEとヤフーは経営統合によりグループ間の連携を進めてきました。今回の合併によって、サービス連携強化と統廃合を進め、シナジー加速化を狙います。
出典:Zホールディングス株式会社のIRニュース(2023年4月28日)
合併の種類① 吸収合併
合併は「吸収合併」と「新設合併の」2種類に分けられます。
吸収合併とは、会社が他の会社とする合併であり、合併によって消滅する会社の権利義務のすべてを合併後存続する会社に承継させるものです(会社法第2条27号)。吸収合併が行われると、吸収する側の存続会社の法人格のみが残り、吸収される側の会社の法人格は消滅します。
吸収合併は消滅会社に与えられた許認可や免許を、そのまま引き継ぐことが可能です。したがって、許認可や免許が必要な事業への新規参入がしやすくなります。
また、全ての法人を消滅させる新設合併に比べて、手続きの負担が抑えられます。
なお、吸収合併には、簡易合併や略式合併のように、株主総会で合併の承認を得る必要がないケースも存在します。
合併の種類② 新設合併
新設合併とは、2つ以上の会社による合併であり、合併によって消滅する会社の権利義務のすべてを、合併により設立する会社に承継させるものを指します(会社法第2条28号)。新設合併が行われると、合併前のすべての会社の法人格は消滅し、新たに設立された会社にすべての資産や負債が引き継がれます。
新設合併は吸収合併と異なり、合併前のすべての会社が消滅するため、対等合併とみなされ、対外的にもポジティブなイメージを発信しやすくなります。
一方で、新設会社は許認可や免許を引き継ぐことができないため、新たに取得し直す必要があります。また、債権者保護手続きや株主総会の特別決議を実施する必要があり、吸収合併に比べて手続きやコストがかかります。また、対等合併であればルールの策定にも時間と手間がかかることが予想されます。
合併のメリット
合併の主なメリットは、以下の通りです。
スピーディーに統合の効果を発揮しやすい
買収の場合は、被買収会社を一度買収したうえで、ふたたび買収側の企業と雇用契約を結ぶ必要があります。一方、吸収合併の場合、消滅会社の債権や債務をはじめ、権利義務のすべてが存続会社に引き継がれるため、そのような手続きを行わず早期に統合を実現できます。
また、統合後も、それぞれが経営を続ける株式譲渡などのスキームに比べて、合併は1つの会社にまとまるため、同じスピード感で経営方針やビジョンなどを共有し、統合を進めることができ、シナジーを創出しやすくなる傾向にあります。
大規模な資金調達を行わずにM&Aを実施できる
合併の場合、消滅会社の株主への対価として、金銭のみならず株式や持分の交付が認められています(会社法第749条1項2号)
自社株式を対価とできるため、買収のように資金調達にかける労力や手間をかける必要がなくなります。
対等な立場のM&Aという訴求ができる
一方の会社が経営権や事業を取得する株式譲渡や事業譲渡に比べて、合併は対等な立場でのM&Aという印象を与えやすい点もメリットに挙げられます。
M&Aによって対外的にポジティブなイメージを発信できれば、自社のイメージアップにもつながります。その結果、得意先や仕入先に安心と信頼の付与にもつながります。
合併のデメリット
合併のデメリットは、主に以下の通りです。
手続きの負担が大きい
合併は、他のM&Aスキームに比べて手続きが多い点が挙げられます。
手続きが軽減される簡易合併や略式合併という方法もありますが、一般的には、事前・事後開示事項の備置きや債権者保護手続き、株主総会の特別決議など様々な手続きが発生します。
そのため、M&Aが成立するまでに多大な時間や労力、コストがかかります。
株価に対するリスクがある
合併の対価として新株が発行されると、発行株式数によっては既存の株式の価値が希薄化し、その結果株価が下落する恐れがあります。
株式によって支払われるため、存続会社は消滅会社の株主に対して新株を発行します。そのため、発行する株式数によっては既存の株式の価値(=存続会社の株として主の株価)が薄まり、その結果株価が下落する恐れがあります。
また、合併は投資家から注目される反面、合併後の業績によっては厳しい判断が下される可能性があるため、株価の動向には注意が必要です。
PMIの負担が大きい
PMI(Post Merger Integration)とは、M&Aによるシナジー最大化を実現するために、協業のための体制構築・業務オペレーションなど経営統合プロセスを指します。
1つの企業に統合していくには、システム的な統合だけでなく、経営戦略や将来へ向けたビジョンを共有する必要があります。関係者のベクトルを揃えることで、合併によるメリットを、シナジーの最大化を目指します。
合併では異なる会社が1つの会社に集約されるため、他のM&Aスキームに比べて、統合作業の負担が大きくなる傾向にあります。合併を進める段階から、統合に向けたプランニングを、専門家をまじえて準備しておくことが、スムーズな統合につながります。
合併に必要な手続きの流れ
個別状況で順番が異なるケースもありますが、合併の手続きの一般的な流れは、以下の通りです。
①合併契約書を締結する
合併を行う会社同士で話し合いを行い、条件がまとまったところで基本合意を行います。その後、各会社の取締役会の承認を得たあとで、合併契約書の締結をします(会社法748条、749条)。
合併契約書の締結が、合併に向けた最初のステップです。なお、会社法で定められている合併契約書に記載すべき事項は、以下の通りです。
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- 存続会社および消滅会社の本店・商号など
- (上記の場合における)消滅会社の株主や社員に対する対価の割当てに関する事
- (消滅会社が新株予約権を発行している場合)当該新株予約権者に交付する存続会社の新株予約権または金銭に関する事項
- (上記の場合における)消滅会社の新株予約権者に対する対価の割当てに関する事項
- 吸収合併が効力を生じる日
また、任意で記載すべき主な事項は以下の通りです。
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- 存続会社の定款
- 存続会社の取締役の選任
- 合併の効力発生日までの資産状況の変化
- 消滅会社の財産の承継
②事前開示書面を備え置く
合併を行う場合は、合併の効力発生日より前の一定期間、合併契約等の内容やその他一定の事項を記載した書類、または電磁的記録を本店に備え置かなければなりません(会社法第782条、第794条)。この合併前に準備しておく書類を、「事前開示書面」もしくは「事前備置書面」といいます。
事前開示書面は、以下のいずれか早い日から備え置く必要があります。
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- 株主総会で吸収合併等の承認が必要な場合は、当該株主総会の決議日の2週間前の日
- 上記をみなし決議(会社法第319条1項)で行う場合は、株主への提案日
- 株主に対する相手会社の商号および住所の通知日、または公告日のいずれか早い日
- 新株予約権者に対する相手会社の商号および住所の通知日、または公告日のいずれか早い日
- 債権者保護手続きにおける公告日、または催告日のいずれか早い日
- 上記以外の場合には、吸収分割契約または株式交換契約の締結の日から2週間を経過した日
なお事前開示書面は効力発生日から6ヵ月間、備え置く必要があります。ただし吸収合併の場合、消滅会社は消滅してしまうため、消滅会社に関しては、合併の効力発生日までとなります。
③利害関係者の保護手続きをする
合併を行うと、存続会社や消滅会社の利害関係者(株主や債権者など)に対して、合併の事実を公開します。その権利を保護するため、合併に対する異議申し立てを述べるための手続きを行います(会社法第789条、第799条)。
なお、利害関係者の保護手続きの手順は、以下のとおりです。
官報で公告する | 合併する旨をはじめ、相手の商号や住所、財務諸表などを公告し、同時に利害関係者が異議申し立てをできる期間を示します。 |
個別催告 | 官報での公告とは別に、利害関係者に対して官報と同様の内容を個別に伝えます。ただし、新聞や電子公告を行う場合は、この手続きが不要です。 |
利害関係者の意義手続き | 官報などで公告された期間内に、合併に対して異議のある利害関係者は、その申し立て手続きを行います。なお、期間内に異議申し立てがされなかった場合は、異議がなかったものとみなされます。 |
株券の提出手続き | 消滅会社が株券を発行している場合は、合併の効力発生日の1ヵ月前までに株券などの提出公告を行います。 |
④合併に反対する株主の株式買取請求手続きをする
合併に反対する株主がいる場合は、合併の効力発生日の20日前までに株主に通知、または公告をします。そして合併の効力発生日の前日までに、当該株式を公正な価格で買い取らなければなりません(会社法第785条、第797条)。
上場企業であれば市場価格が存在するので、基本的には市場価格を前提として、株式の買い取り価格が決定されます。一方で非上場企業の場合は、市場価格が存在しません。株価の鑑定を依頼して、株価を算定します。なお鑑定費用に関しては、特段の定めがない限り各自負担です(非訟事件手続法26条1項)。
⑤株主総会を招集し承認する
存続会社および消滅会社は、合併の効力発生の前日までに、株主総会で合併契約の承認を得る必要があります(会社法第783条、第795条)。合併は特別決議です。株主総会で合併が認められるためには、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の賛成を2/3以上得られなければなりません(会社法309条2項)。
⑥効力発生
合併契約書に定められた合併の効力発生日に、消滅会社の資産・負債及の引継ぎが行われます。こうして消滅会社のすべての権利・義務が存続会社に承継され、消滅会社は消滅します。
⑦変更登記と解散登記をする
合併の効力発生日から2週間以内に、合併登記を行います(会社法第921条)。合併会社側では合併に関する変更登記が行われ、消滅会社側では解散登記が行われます。※合併登記に必要な書類、詳細については法務局の最新情報をご確認ください。
適格合併
適格合併とは、特定の条件を満たす合併で、税法上の特別な取り扱いを受けることができる合併を指します。
合併は原則として、消滅会社から存続会社へ時価で資産等が譲渡されたもの、と捉えられます。したがって譲渡益が発生すれば、法人税が課税されます。しかし適格合併が適用されれば、移転される資産や負債を帳簿価額のまま引き継げるので、譲渡益が発生しません。
さらに適格合併の場合は、消滅会社の繰越欠損金は存続会社の欠損金とみなされ、存続会社人に引き継がれることになります。
終わりに
以上、合併についてご紹介しました。合併は、手続きが複雑なうえに統合作業の負担が大きいなどデメリットとして挙げられますが、早期に統合が実現できるなどのメリットがあるため、自社の状況に応じて検討されることをおすすめします。
著者
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