税務調査,調査対象になりやすい会社,備え方
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

「税務調査」。耳にするだけでも不安になる響きですが、実際は何が行われるのでしょうか?税務調査はたしかに怖いですが、なにもいきなり大金を払えと言われるわけではありません。

税務調査は単に適正な納税申告がなされているかの調査であり、世間に言われているほど恐ろしいものではないのです。

とはいえ、ほとんどの人は税務調査の経験がなく、具体的な調査内容がわからないため余計に怖くなります。

税務調査では何が行われるのか、調査の概要を知っておきましょう。

あわせて、調査対象になりやすい会社の条件や備え方もご紹介します。

税務調査の概要

税務調査とは、税務署などの国税庁管轄部署による適正な納税申告が行われているかの調査のことです。

税務調査では帳簿や領収書などを資料に、事業者が正しく納税しているかを過去にもさかのぼって調べます。

税務調査の種類

税務調査には、強制調査と任意調査の2種類があります。

強制調査とは、映画「マルサの女」に出てくるアレです。

ある日突然段ボールをたくさん抱えた国税庁査察部の職員がやってきて、帳簿やらなにやらをすべて調べられます。

強制調査は悪質な巨額の脱税疑いがある場合に行われる、かなりのレアケースです。

目安としては脱税額が1億円を超えるような巨悪な事案で行われることが多いようです。

一般的に行われるのは任意調査の方で、これは強制調査より穏やかです。

事前に税務調査を行いたい旨と訪問日時の連絡があり、1~3日ほどかけて帳簿などを調べます。

問題があれば指摘をうけ、必要に応じて追徴課税の手続きをとって調査終了です。

任意調査は予告をしてくれるので、調査される側もある程度の備えが可能です。

もちろん領収書の改ざんなどはしてはいけませんが、帳簿を整えたり足りない領収書を探したり、最低限の準備はできます。

とはいえ、任意調査も税務調査のひとつですから、甘く考えてはいけません。

調査官の質問に虚偽の回答をしたり税務調査を無視したりすると、罰則の対象になるおそれがあります。

税務調査の対象

税務調査は会社など法人に対してだけのものではありません。

個人事業主も調査対象です。

ただ、個人事業主は法人に比べると経営の規模が小さいことが多いため、税務調査の頻度も低めです。

税務調査の頻度

税務調査の頻度は、法人の場合は10年に1回くらいと一般的には言われています。

個人事業主の場合は創業5年以上経過すると、調査対象になる可能性が上がります。

税務調査の確立は近年低下傾向にあり、平成28年度の調査では法人で3.2%、個人事業主で1.1%です。

これは税務申告の件数自体の増加や税務手続きの国際化・複雑化、脱税手口の巧妙化が原因と考えられており、税務調査官のマンパワー不足が指摘されています。

今後も税務調査の頻度や確立の低下傾向は続くとみられていますが、それでも税務調査は毎年確実に行われています。

「確率が下がっているからうちには来ない」と安易に考えるのではなく、税務調査はいつか来るかもしれないものとして常に備えておく必要があります。

事業を行っている以上、税務調査を完全に避けることはできないのです。

税務調査の結末

税務調査の結果、なにか間違いが見つかったとします。

その間違いが故意ではなく単なるミスであったなら、そんなに心配はいりません。

多くの場合次のような結末になります。

・修正申告
・更生、決定

修正申告とは調査官に指摘された部分について納税者が自発的に修正し、申告し直すことです。

更生・決定とは、納税者が修正申告を行わない場合に、税務署長が申告内容を決めて通知する処分のことです。

納税者は修正申告もしくは通知に基づいて、間違っていた分の税金を納めることになります。

調査の結果、故意で悪質な脱税だと判断された場合には、次のような結末になります。

・加算税賦課決定
・青色申告の承認取消

加算税賦課決定とは、追徴税のほかにペナルティーが課される決定のことです。

脱税の内容によって、過少申告加算税・無申告加算税・不納付加算税・重加算税・過怠税などが課されます。

また、帳簿類の真実性が疑われるとして青色申告の承認が取り消されることもあります。

青色申告は控除枠が大きいなど重要な節税制度なので、これが使えなくなるのは会社経営にとってかなり厳しいことです。

税務調査の対象になりやすい会社

調査対象になりやすい会社、というものがあります。

ほかの会社は10年に1回なのに、3~5年くらいのスパンで税務調査を受ける会社があるのです。

調査対象になりやすい会社には、次のような特徴があります。

・規模が大きい会社
・短期間で業績が大幅に変動した会社
・不正が多い業種
・過去に重加算税を課せられたことのある会社

利益が大きい会社や急成長を遂げた会社などは納税額が大きくなるため、税務署としてはより注意すべき存在になります。

逆に急激に経営が悪化した会社も、経費のごまかしをしているのではないかと不正を疑われやすくなります。

業界的に不正が多い業種や過去に不正を犯してしまった会社も警戒され、まめに調査を受けなくてはならなくなるのです。

税務調査の備え方

税務調査はすべての事業者にとってくるかもしれないものです。

常に意識して備えておく必要があります。

でも、どう備えていいかもわからないですよね。

効果的な税務調査の備え方とは、ずばり「調査される項目を知り、そこのお金の流れも明確にしておく」ことです。

税務調査でチェックされる内容を把握しておきましょう。

税務調査でチェックされるもの

税務調査,調査対象になりやすい会社,備え方
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

税務調査では、帳簿や領収書などの資料をもとに、次のようなことを調べられます。

・現金の管理状況
・資金の流れと管理状況
・売上の繰延べがないか
・自家消費分の計上漏れがないか
・棚卸の計上漏れがないか
・帳票類の整合性
・修繕費と資本的支出の区分
・私的な費用を経費計上していないか
・代表者による不正な蓄財はないか
・人件費の管理状況
・消費税の課税仕入と非課税仕入・不課税仕入の混同
・消費税の不正還付申告はないか
・収入印紙の未貼付はないか

ひとつずつ、具体的な内容をみていきましょう。

現金の管理状況

現金の残高が帳簿通りか、金銭出納帳と照らし合わせて確認されます。

ドラマなどで税務調査を受けた家のツボの中から現金がじゃらじゃら出てくるといったシーンを見たことがあると思います。

現金はもっとも簡単に隠すことができる資産のため、あんな風に隠し持っているお金がないかをチェックされるのです。

また、帳簿の内容自体も調査されます。

どんぶり勘定などいい加減な管理をしていると、税務署から指摘を受け、改善を促されます。

単純なミスではなく悪質と判断された場合には、罰則のおそれもあります。

資金の流れと管理状況

仕入れや納品といった取引内容も精査されます。

どのような取引先があるのか、納品書は作成しているか、決済の方法などをチェックし、適切な管理がなされているかを確認されます。

取引の仕方は事業者ごとに違います。

たとえば受注したらまずは見積書を作成して契約書を交わし、請求書とともに商品を納めると同時に決済をする会社もあれば、前払いで決済をしてから納品し、領収書だけ作成するという会社もあります。

税務署は調査対象の会社がどのような流れで取引を行っているのかを調べ、すべての取引がその通りになされているかを確認するのです。

特定の取引先にだけ一連の書類を作成せずにいたとしたら、なにか不正が隠れているかもしれないと疑われ、より詳細な調査を受けることになります。

売上の繰延べがないか

本来は当期の売上なのに、納税額を下げるために来期の売上にするケースがあります。

これは売上の繰延べにあたり、適切ではないため調査対象となります。

自家消費分の計上漏れがないか

たとえば飲食店などで、本来は店用に買った材料で家族の食事を作ることがあります。

本来は自家消費分として別途計上しなくてはいけませんが、これを店の経費にするなど、不正な計上が行われるケースがまれにあります。

このような自家消費分の計上漏れがないか、仕入れ量などから調査されます。

棚卸の計上漏れがないか

棚卸の在庫を少なく見積もることで経費を水増しし、納税額を少なく申告する場合があります。

このような計上漏れや帳票類のごまかしがないか、ひとつずつ確認されます。

帳票類の整合性

帳票類とは見積書や請求書など、個別の取引の詳細を証明する書類のことです。

納品書や領収書も帳票類にあたり、納税者はこれらの書類を保管しておく義務があります。

税務調査では、この帳票類がすべて揃っているか、帳票類の真実性、帳簿との整合性などを帳簿と付き合わせて確認します。

たとえば領収書の日付や金額が不自然であったり、請求書がないのに経費に計上されていたり、帳票類と帳簿とで書いてあることが違っていると、調査官に疑惑をもたれてしまいます。

修繕費と資本的支出の区分

車や工場の機械など、事業用設備が壊れた場合は修繕費として経費に計上できます。

しかしなかには、修理のついでに新しい機能を付けるなど、原状回復の範囲を超えたことをやってしまう人がいます。

原状回復を超える部分はもはや修繕とは言えないため、かかった費用は資本的支出として別途計上し、減価償却などをしなくてはいけません。

そのまま修繕費として計上するのは不適切です。

修繕費と資本的支出を混同した申告がなされていないかも、税務調査の対象項目です。

私的な費用を経費計上していないか

特に中小企業や個人経営の会社で多くみられることですが、経営者の私的な出費を会社の経費に計上している場合があります。

これは不適切であり、税務調査で厳しくチェックされる項目のひとつです。

テレビドラマなどで、社長室にゴルフクラブが置いてあるシーンがありますよね。

これは調査官からみれば最高のツッコミどころで、「ゴルフお好きなんですか?」という軽い雑談を装いながら、ゴルフクラブ代の出所を探られることになります。

小さな会社では会社の経費と私的な費用の区別がつきにくい部分もありますが、日ごろから厳格に線引きをして、あらぬ疑いをかけられないようにしましょう。

経営者による不正な蓄財はないか

経営者が会社の経費をちょろまかして、私的な蓄財をするケースもあります。

たとえ従業員のいない経営者だけのひとり会社であったとしても、会社のお金は会社のものです。

1円であっても経営者のふところに入れてはいけません。

税務調査では帳簿や帳票類の付き合わせによって不明な金銭がないかを洗い出し、不正な蓄財がなされていないかを調べられます。

たとえば、事務所に会社とは取引のない銀行のカレンダーをつけているなら、外しておくのがおすすめです。

調査官は帳票類だけでなく事務所内の備品なども細かくチェックしています。

取引がないはずの銀行の粗品があれば、もしかして経営者の隠し口座があるのではと疑われ、不正な蓄財がないか厳しく調査されるはめになります。

人件費の管理状況

会社において、人件費はもっとも大きな経費です。

その分ごまかしもしやすいため、税務調査では人件費の管理状況を徹底的に調べます。

架空の人物に給与を支払っていないか、従業員の源泉徴収漏れはないかなど、帳簿などを見ながら細かくチェックされます。

消費税の課税仕入と非課税仕入・不課税仕入の混同

消費税として計上された課税仕入額に、非課税や不課税の項目がまぎれているケースがあります。

調査官は領収書などを確認しながら、ひとつずつ確認します。

消費税の不正還付申告はないか

会社は条件によっては消費税の還付を求めることができますが、この還付を不正に行っていないかも税務調査対象です。

収入印紙の未貼付はないか

領収書や契約書には、取引金額に応じて収入印紙を貼り付けなければいけません。

収入印紙が貼っていなくても契約書の法的効力に影響はありませんが、追徴課税の対象になります。

税務調査では収入印紙の貼り忘れのほか、使いまわしや偽造、消印の有無などもチェックされます。

まとめ

税務調査では帳票類や帳簿を付き合わせ、適切な税務申告が行われているかを厳しく調査されます。

そのほか、事務所内に置いてあるものから隠し口座や不正蓄財の可能性などもさりげなくチェックされます。

税務調査に備えるには、チェックされる項目におけるお金の流れを整理し、明確にしておくのが効果的です。

調査の結果なにか間違いが判明したとしても、ミスであればそんなに心配はいりません。

修正申告など、軽微な手間で済みます。

しかし故意で悪質と判断された場合には、ペナルティーが課せられる場合があります。(提供:ベンチャーサポート税理士法人