2019年10月から消費税率が10%に引き上げられましたが、税率の引き上げは経済的な負担の増加にもつながるものです。
そこで、低所得者層を中心とする経済生活への影響を配慮し、軽減税率制度の実施がスタートしました。
軽減税率制度の導入によって経済生活にどのような影響があり、どんな変化があるのかについて、制度の概要とともにご紹介していきます。
特に、軽減税率対策の補助金については詳しくまとめていきますので、ぜひ最後までご覧ください。
消費税増税の沿革
2012年8月に消費増税法という法律が成立しました。
これは消費税率を段階的に10%まで引き上げていき、増税によって増加する税金の収入について、その全てを年金や介護などの社会保障政策の財源にあてることを内容とする法律です。
成立当時、消費税率は5%であり、当初はそこから2014年4月に8%、2015年10月に10%へと段階的に引き上げていく旨が同法に明記されていました。
ところが2014年11月、経済状況が好転することを消費税率引き上げのための条件とする同法の付則18条に基づいて、税率の10%への引上げは2017年4月まで延期することになりました。
その後、2016年11月に消費増税延期法という別の法律が成立したことによって、消費税率の10%への引き上げは2019年10月から施行されることに決まりました。
消費税の軽減税率制度とは
軽減税率制度とは、特定の品目の課税率について、他の通常の品目に比べて税率を低く定める制度のことです。
複数税率制度と呼ばれることもあります。
軽減税率制度の簡単な例としては、みかんとりんごは消費税率を8%にするところ、それ以外の果実であるぶどう、バナナ、梨などは消費税率を10%にするなどです。
消費税を10%に引き上げる増税が決定したものの、増税による経済活動への影響が大きい低所得者に配慮する旨の観点から、消費税について軽減税率制度が導入されることが決まりました。
今回導入された軽減税率制度の内容は、「酒類・外食を除く飲食料品」と「定期購読契約が締結されている週2回以上発行される新聞」の2種類が軽減税率の対象になっています。
これら2種類の品目については従来のように消費税が8%ですが、それ以外の品目については消費税が10%になります。
軽減税率制度が導入されたことによって、消費税8%の品目と消費税10%の品目が市場に混在することになったのです。
軽減税率の対象品目について
軽減税率の導入によって、消費税8%の品目と消費税10%の品目が存在することになりました。
税率に関して混乱しないように、軽減税率の対象となる2品目である新聞と、酒類・外食を除く飲食料品についてみていきます。
軽減税率の対象となる新聞
全ての新聞が軽減税率の対象になるのではなく、一定の要件を満たすもののみが消費税8%が適用されます。
要件を満たさないものは、新聞であっても消費税率は10%になります。
軽減税率が適用される新聞の要件は、定期購読契約が締結されていること、週に2回以上発行されること、の2点です。
休刊日によって通常週2回の発行が例外的に週1回になる場合でも、週に2回以上発行されることの要件を満たすものとされます。
定期購読契約が締結されていること、週に2回以上発行されること、の2点を満たしていれば、一般的なニュースについて伝える新聞だけでなく、スポーツ新聞、英字新聞、業界紙なども軽減税率の対象になります。
上記の新聞であっても、コンビニや駅のホームなどで売られているものは軽減税率の対象にはなりません。
定期購読契約が締結されていることの要件を満たさないからです。
また、スマートフォンなどの電子端末の普及によって電子版の新聞の購読者も増えていますが、電子版の新聞は軽減税率の対象外になります。
会員になって定期的に購読する場合も同様に軽減税率の対象外です。
酒類・外食を除く飲食料品
軽減税率の対象品目である飲食料品とは、食品表示法に規定されている食品のうち、酒税法に規定されている酒類と外食を除いたものを指します。
かつ、この場合の食品とは、人の食用または飲用に供されるものをいいます。
工業用に販売される塩などは、人の食用に供されるものではないため、軽減税率の対象品目である飲食料品には該当しません。
そのため、工業用の塩の税率は10%になります。
次に、軽減税率の対象にならない「外食」とは何を指すのか、その定義が問題になります。
この点、外食とは飲食のために用いられるテーブルや椅子などの設備がある場所において、飲食料品を飲食させるサービスを指す、旨が定義されています。
外食に該当するものとしては、レストランや食堂などでの飲食、ハンバーガーショップや牛丼屋などファーストフードの店内での飲食、ショッピングモールなどのフードコートでの飲食、コンビニのイートインコーナーにおける飲食、ケータリングや出張料理などです。
これらは消費税率が10%になります。
次に外食に該当しないものとしては、ハンバーガーショップや牛丼屋などのファーストフードでテイクアウトする場合、蕎麦屋や食堂などの出前、宅配ピザ、寿司屋の詰め合わせなどがあります。
上記のものについては軽減税率が適用されて消費税は8%になります。
例えばファーストフードで同じメニューを注文したとしても、店内で食べるかテイクアウトにするかによって税率が変わってくるのが特徴です。
軽減税率導入による業務の変化
軽減税率が導入されることで、多くの業界や店舗において業務が変化することになります。
特に、軽減税率の対象になる場合とならない場合がある飲食物を取り扱うスーパーマーケット、コンビニ、小売店、レストラン、ファーストフードなどです。
具体的にどのような業務が変化するかというと、商品管理に関する業務と申告や納税に関する業務です。
必要になってくると考えられる業務の例として、以下のものがあります。
・取り扱う商品の税率を正確に確認する ・ファーストフードのテイクアウトなど、提供方法によって税率が変わってくるものの管理 ・レシート、請求書、領収書などに正確な税率が反映されるようにする ・軽減税率と標準税率を適切に反映した売上や仕入れの計算 ・仕入品目の税率が正しいかどうかの確認、仕入先毎に税率を正確に分けて記帳する ・顧客からの税率に関する質問に適切に回答できるようにするマニュアルや教育の準備 ・税率ごとに正確に区分した帳簿等で消費税の額を計算する ・コンビニ弁当をはじめとする加工商品の原材料など、材料によって適用税率が異なる場合の計算 |
POSシステムについて
複数税率の導入によって、軽減税率が適用される品目を取り扱う業者や企業はそれに対応したシステムや機器を導入することが必須となりました。
複数税率に対応可能なシステムとして、POSシステムがあります。
POSは「point of sale」の3つの単語の頭文字に由来するもので日本語に訳すと「販売時点の情報を管理する」という意味合いがあります。
商品が売れた際の情報をシステムが記録し、集計や分析を実施できることが特徴です。
具体的には、ある商品が売れた時点において、売れた商品の名称、売れた数、売れた時間、商品の合計金額、商品の購入者の年齢層、などの情報が記録されます。
記録された情報は集計や分析に利用することができます。
商品のマーケティングやリサーチに有効なシステムですが、複数税率に対応するにも有効なことから、POS機能を搭載したレジなどが複数税率に対応するための切り札として期待されています。
複数税率対応補助金は3種類ある
複数税率に対応するPOSシステムなどを導入するための補助金は、申請類型としてA型、B型、C型の3種類があります。
A型は複数税率に対応できるレジの導入等を支援するためのものです。
複数税率に対応できる機能を有するレジを新しく導入する、店舗に設置された既存のレジを複数レジに対応できるように改修する、などの用途に用いる補助金です。
B型は受発注のためのシステムの改修等を支援するためのものです。
電子的な受発注システムを利用している場合に、複数税率に対応するために必要な機能を備えるための改修や入替などに用いる補助金になります。
C型は請求書を管理するシステムの改修等を支援するためのものです。
軽減税率に対応した記載が可能な請求書管理システムの改修や導入などに用いる補助金です。
以下、それぞれの申請累計の詳細を見ていきます。
軽減税率補助金A型の概要
複数税率に対応する機能を備えたレジを新規に導入する場合や、複数税に対応するために既存のレジを改修する場合を支援するための制度です。
A型の申請区分はA-1型、A-2型、A-3型、A-4型、A-5型、A-6型に分かれています。
それぞれの特徴は以下のようになります。
・A-1型:複数税率に対応するPOS機能を搭載したレジを導入するための費用の補助を対象とする ・A-2型:複数税率に対応していない既存のレジを、対応できるように改修するための費用の補助を対象とする ・A-3型:複数税率に対応するレジ機能をパソコン、スマホ、レシート印刷用のプリンタなどと連動させることでレジのように利用する、モバイルPOSレジシステムの費用の補助を対象とする ・A-4型:POSレジシステムを複数税率に対応できるように改修または導入するための費用補助を対象とする ・A-5型:既存の発券機を軽減税率に対応できる方式に改修または導入するための費用補助を対象とする ・A-6型:消費税軽減税率制度が導入される前に、複数税率に対応するレジ等の商品マスタ設定を実施するための費用を補助の対象とする |
軽減税率補助金A型の補助率と上限
軽減税率補助金A型の補助率は、導入または改修にかかる費用については原則として2/3です。
導入費用が3万円未満の機器を1台だけ導入する場合は補助率が3/4になります。
スマホ、タブレット、パソコン等の汎用機器の場合は補助率1/2です。
補助金の上限はレジ1台あたりで20万円です。
商品マスタの設定や機器設置に費用を支出することになる場合は、1台あたり20万円が加算されます。
複数台を導入する場合、1事業者あたり200万円が上限になります。
軽減税率補助金A型の補助対象
軽減税率補助金A型の補助対象として以下のものがあります。
・レジ本体(レジ本体に付属機器の機能が備わっている場合は、別途付属機器を購入しても補助の対象外になる) ・レシートプリンタ(レシート以外もプリント可能なプリンタ、レーザープリンタ、インクジェットプリンタ等は対象外) ・バーコードリーダー、クレジットカード決済端末、電子マネーリーダー、カスタマーディスプレイなどの付属機器(レジ1台につき付属機器は各種1台までが補助対象) ・レジ専用ソフトウェアサーバールーター(複数税率に対応するために必要な販売管理やマスタ管理に関するソフトウェア。1つの申請につき対象は各種1台まで) ・機器を設置するための経費(運搬費、商品マスタ設定費等) |
軽減税率補助金A型の申請手続きと期間
軽減税率補助金A型の申請は申請書と証拠書類を提出して手続きをします。
申請者自身で申請するほか、一部メーカー、販売店、ベンダーなどが代理で申請する制度も設けられています。
申請期間としては、機器の導入や改修を終えて費用の支払いが完了した後に、速やかに申請を行います。
注意点として以下の2点があります。
・導入と支払いを2016年3月29日から2019年9月30日までの補助対象期間中に実施しておくこと ・ 導入後、補助金の申請を2016年4月1日から2019年12月16日までの補助金交付申請受付期間内に済ませておくこと |
軽減税率補助金B型の概要
軽減税率補助金B型は、電子的受発注システムを利用する事業者が、複数税率の対応に必要なシステムの改修や入替を実施する場合に、その費用を支援するためのものです。
軽減税率補助金B型の申請区分はB-1型とB-2型の2種類があります。
B-1型は受発注に関するシステムを、システムベンダー等の指定事業者に依頼して改修や入替をする場合に発生する費用を補助の対象とする区分です。
B-2型は企業や事業者等が自ら製品やサービスを購入して導入し、受発注に関するシステムの改修や入替を行う場合の費用を補助するもので、主に中小企業や小規模事業者による利用を想定しています。
軽減税率補助金B型の補助率と上限
軽減税率補助金B型の補助率は費用の2/3となっています。
補助額の上限については、小売事業者等の発注システムの場合は1,000万円、卸売事業者等の受注システムの場合は150万円、発注システムと受注システムの両方を導入する場合は1,000万円です。
軽減税率補助金B型の補助対象
軽減税率補助金B型の補助対象は以下のものがあります。
・電子的な受発注データに関するフォーマットやコード等を複数税率に対応できるように改修する ・従来利用していた受発注システムを複数税率に対応した新システムに入れ替える ・電子的受発注システムに必要な商品マスタ、発注管理、購買管理、受注管理などの各機能について、複数税率に対応できるように改修や入替を行う |
なお、複数税率に対応するソフトやサービスの中には、複数税率に関連する受発注管理だけでなく、在庫管理や財務会計などのその他のサービスが一体となったものもありますが、電子的な受発注システム機能をソフトやサービスの内容として含んでいれば、補助の対象になります。
軽減税率補助金B型の申請手続きと期間
軽減税率補助金B型は、導入や入替のためにシステムに関する専門的な知識が必要になるのが特徴です。
そのため、システムを使用する申請者に代わって、あらかじめ指定されたシステムベンダーが代理で申請を実施します。
補助金の交付申請はシステムの改修や入替を実施する前に行うのが原則です。
例外として、パッケージ製品やサービスを使用者が自ら購入して導入するB-2型については、導入後に申請を行います。
なお、補助金の交付が決定される前に契約の締結や作業への着手をした場合には補助の対象にならないため、注意が必要です。
B-1型は2019年9月30日までに事業を完了することを前提に、2019年6月28日までに交付申請を行う必要があります。
軽減税率補助金C型の概要
軽減税率補助金C型は、軽減税率に対応した請求書の発行を実施するための請求書管理システムの導入や改修を支援するための補助制度です。
日頃から軽減税率の対象となる飲食料品や新聞を取り扱って取り引きを実施している、事業者等を想定したものです。
軽減税率補助金C型の申請区分としては以下のものがあります。
・C-1型:システムベンダー等の指定事業者に発注することで請求書管理システムの導入や改修を実施する場合の費用を補助対象とするもの ・C-2型:業者等が自らパッケージ製品やサービスを購入する形で請求書管理システムの改修や入替をする場合の費用を補助するもので、中小企業や小規模事業者等の利用を想定 ・C-3型:請求書管理システムがハードウェアと一体となっている事務機器の導入や改修をする場合の費用を補助対象とするもの |
軽減税率補助金C型の補助率と上限
軽減税率補助金C型の補助率は原則として3/4です。
例外として、パソコンやプリンタなど、請求書発行に必要となる機能以外の汎用的な機能を有する端末については、補助率は1/2になります。
また、軽減税率補助の範囲外の機能を有するソフトウェアを導入する場合は、購入費の1/2を対象として補助率の3/4を乗じるものとされています。
軽減税率補助金C型の補助の上限は1事業者につき150万円です(ハードウェアの場合、上限は10万円)。
なお、軽減税率補助金B型とC型の両方を申請する場合は、1事業者につき最大で合計1,000万円まで補助の対象になります。
軽減税率補助金C型の申請手続きと期間
軽減税率補助金C型の申請手続きは補助金の申請区分によって異なります。
C-1型は使用者に代わって指定事業者が代理で申請することが原則となっているため、システムベンダー等が申請を行います。
C-2型はパッケージ製品やサービスを購入する中小企業や小規模事業者等が自ら申請することができます。
C-3型はメーカーや販売店等が代理申請可能です。
軽減税率補助金C型の申請受付期間としては、2019年12月16日までに申請したものが補助の対象になります。
おわりに
2019年10月から消費税率が10%に引き上げられましたが、低所得者層を中心とした経済生活への影響を配慮し、軽減税率制度も併せて導入されています。
軽減税率制度とは特定の品目について通常よりも税率を下げるもので、酒類・外食を除く飲食料品と、定期購読契約が締結されている週2回以上発行される新聞の2種類については従来と同じ8%の消費税率となります。
消費税率が異なる品目が混在するようになることで、事業者を中心に複数税率に対応できる機能を備えたPOSレジや管理システムなどの導入が必須となりました。
複数税率に対応するための補助金制度が複数導入され、それぞれの区分によって特徴があります。
申請期限に間に合うように、早めに申請と導入を行うことが大切です。(提供:ベンチャーサポート税理士法人)