創業融資,書類,準備
(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

創業融資の申込みには、様々な書類を準備する必要があります。

また、金融機関側から指定される書類以外にも、準備が必要な資料や書類があることを知っておくと、審査や面接にも自信をもって対応することができます。

どんな書類が必要で、準備の進め方をどうすれば良いかについて、総合的に解説します。

創業融資

銀行は、通常、実績のない創業したての会社へは融資を行いません。

会社を設立後、2回の決算が終わるまでは、融資を受けられないことがほとんどです。

一方、公的な機関では、創業したての会社に対する創業融資制度を設けています。

政府関連機関のひとつである日本政策金融公庫による創業融資と、地方自治体と信用保証協会を通じて金融機関から融資される制度融資があります。

公庫の新創業融資制度

公庫では、新規に開業する人のために、担保も保証もなしで長期間にわたる融資を行う制度を設けています。

この無担保で無保証の融資は「新創業融資制度」と呼ばれ、事業目的の運転資金や設備資金として低利で融資が行われます。

この融資は、銀行では貸し付けの対象とならない、税務申告を2期終えていない会社を対象としています。

約2%の固定金利で、担保も保証もなく、最大3,000万円まで融資を受けることが可能です。

ただし、自己資金要件が設定されていて、資金総額の10%以上の自己資金を用意する必要があります。

地方自治体の制度融資

都道府県や市町村など自治体が、信用保証協会、金融機関と連携して、制度融資と呼ばれる融資の制度を設けています。

創業者に対しては、「創業融資」が用意されています。

金利は、およそ1.0~2.0%前後と低利に設定されています。

公庫融資と同様、無担保・無保証で融資を受けることができます。

融資の上限は、例えば東京都では3,500万円ですが、融資枠は自治体ごとに異なります。

ただし、ほとんどの場合で資本総額の50%以上の自己資金が必要となります。

また、制度融資を受けた場合は、銀行への利子支払いのほか、信用保証協会への保証料の支払いが必要となります。

なお、地方自治体が、保証料や金利の一部負担を行う場合もあることから、中小企業の負担が少なくて済むことも特徴です。

創業融資に必要な書類と準備の進め方

公庫融資の場合は、公庫に申請すれば良いのですが、制度融資の場合は、自治体、信用保証協会、そして金融機関と三者が申請の対象となります。

このため、申請の流れは異なりますが、準備すべき書類にはそれほど大きな違いはありません。

以下では、公庫の新創業融資制度を利用する場合を例に、必要書類について説明します。

書類は、公庫ホームページからダウンロードできますが、都道府県ごとに事務所が置かれているため、窓口で相談する機会を設け、同時に必要書類を入手することがおすすめです。

一般的に必要な書類

公庫の融資を利用したい場合は、借入申込書とともに、「一般的に」必要とされる書類を提出し、具体的な相談をすることになります。

提出は、近くの公庫窓口に持参でも郵送でもかまいません。

添付する書類は次のとおりです。

まず、借入申込書に加え、創業計画書と法人の履歴事項全部証明書が必須です。

「借入申込書」

公庫サイトで書式をダウンロードできます。

用意されている記載例に準じて作成します。

「創業計画書」

公庫サイトで書式をダウンロードできます。

サイトでは、業種ごとの記載例も示されています。

この定形様式では、記入できる内容が限定されてしまうため、あとで触れるように別に「事業計画書」を準備します。

事業計画書のでき次第で、審査に通るかどうか決まると言っても過言ではありません。

「履歴事項全部証明書」

法人の登記簿謄本のことです。

会社の設立登記が完了すれば、法務局で取得できます。

登記申請前や登記申請中なら、公庫の了解を得て、登記が完了次第提出します。

このほか、設備資金を申し込む場合、は設備の見積書や設備のパンフレット、不動産を担保に借り入れたい場合は、不動産の登記簿謄本または登記事項証明書が必要になります。

また、飲食喫茶や理美容など生活衛生関係事業で、500万円を超える融資を申し込む場合は、都道府県知事の「推せん書」または生活衛生同業組合の「振興事業に係る資金証明書」が必要になります。

そのほかに必要な書類

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申込みの段階での提出が指定されている「一般的に」提出する書類以外にも、以下のような書類が必要になります。

「企業概要書」

公庫サイトで書式をダウンロードできます。

はじめて公庫融資を受ける際に提出が求められる書類で、取扱商品やサービスなど企業の内容について、記載例に準じて作成します。

「前職の源泉徴収票(または所得税の確定申告書)」

融資審査の際に、勤務実績や前年の収入が確認されます。

「開業時費用の見積書や契約書など」

開業時に必要な費用について、証明できる書類を準備します。

店舗や事務所の賃貸借契約書、領収書、設立登記を司法書士に依頼した場合は、その請求書や領収書などを整理しておきます。

「許認可証」

開業するために許認可が必要な場合は、事前に申請して許認可証を入手します。

このほか、身分証明書としての運転免許証コピー、事業用に開設した金融機関口座の通帳コピーが必要です。

資本金や開業費用、事務所の水道光熱費などの証明としてチェックされます。

印鑑証明書なども必要になります。

また、資金繰りを整理した資金繰り表や、関連会社がある場合はその決算書なども準備する必要があります。

審査に通るために準備する書類

書類を提出して融資を申し込むと、次は審査を受けることになります。

書類審査と面談が待ち構えています。

審査には基準があり、この基準をクリアできなければ、当然、融資を受けられないことになります。

審査に受かるための書類準備について、確認していきましょう。

融資を受けられる事業計画書

公庫融資では、申し込みの際、書式の決められた事業計画書を提出します。

しかしながら、この書式では、簡略な内容しか書くことができないため、十分な説明を書き記すことができません。

このため、より充実した内容の事業計画書を作成して添付することが、融資を成功させるための常套手段として用いられています。

事業計画書を理路整然と整理することが、融資を受ける際の最重要事項となります。

事業計画書では、創業の動機、事業の経験、取り扱う商品やサービス、取引先と取引の条件、資金計画と調達先、事業の見通しについて、ポイントを押さえた内容に仕上げることがとても重要です。

このポイントとしては、代表者の過去の経験やノウハウ、起業の動機、どんな会社にしたいかという経営理念や事業目的、そして将来ビジョンを明確にすることが挙げられます.

また、事業のコンセプト、市場を冷静に分析した上でのニーズ、ターゲット、事業の売りや他社との差別化、集客戦略、売り上げ計画、損益計算予測、設立後1年間の毎月の資金収支など自社の事業展開について、客観的に納得できる内容に整理します。

以下では、これらのポイントの中でも、特に重要な点について解説します。

▼客観的に妥当性のある事業計画書を作成する
融資を受けた資金を基に、返済が可能な収益を上げて事業を継続していくためには、十分に練り上げた事業計画が不可欠です。

事業計画の妥当性については厳しく審査されます。

このため、客観的に見て、妥当な事業計画に練り上げることが重要です。

家族や相談できる方、専門家などに、客観的な意見をもらいながら、だれが見ても納得できる内容に仕上げます。

▼売り上げが上がる根拠を明確にする
創業融資は、税金を基にした融資です。

また、創業したばかりで実績のない会社に融資するわけですから、金融機関にしてみれば、回収リスクが高い融資をするためには、審査の基準をクリアするものでなければなりません。

特に、事業の見通しの中でも、売上を上げて返済できることができる根拠を、説得力を持って明確に説明できることが重要となります。

融資を行った金融機関にとっては、融資した資金を回収することが最も重要です。

創業したばかりですから、過去の実績で審査することはできません。

きちんと収益を上げることができるかどうか、厳しくチェックされることになります。

事業計画のなかでも、売上げと利益の予想に説得力を持たせることができるか、特に、集客についての実現性や戦略が重要です。

そのための市場や競合相手の分析をしておく必要があります。

形式的に考えれば、損益計算書上、税引き後の利益に減価償却費を加えた額が、年間の借入返済額を上回るかどうかが、返済できることを示す数値上の根拠となります。

ただし、実質的に返済可能かどうかは、事業計画書で整理する売り上げ予測の妥当性にかかってきます。

たとえば、同業種・同規模の業績と比べ、売り上げを過大に見積もっていないか、競合相手と比較した魅力は何か、出店場所は期待する集客が可能な立地条件にあるか、ターゲット層を絞り込んで戦略的な集客方法を考えているかなどを、客観的に説明できる書類に仕上げることが大切です。

このためには、売上を見込むことができる根拠として、商談が進んでいる案件について具体的な内容が分かる見積書や注文書、契約書などを整理しておきます。

開業後の取引先一覧を作っておけば、有力な説明資料になります。

▼資金の使い道を明確にする
融資には、上限枠が決められています。

しかしながら、使い道が決まっていない申込みは、減額されることになります。

何にどれだけの額を使う予定としているかについて、業者の見積書なども含め、具体的に明確化できる資料を用意します。

たとえば、飲食業の場合なら、店舗の取得費や家賃、内装工事の費用、家具や設備の設置費用、食器や食材などの費用、光熱水道費、人件費などの明細を具体的に整理し、見積書なども用意します。

計画的な自己資金の準備、経験や能力を証明する書類

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(写真=ベンチャーサポート税理士法人編集部)

創業するために蓄えてきた自己資金や、積み重ねた経験やノウハウ、資格や免許、実績など経営者としての能力をアピールできる書類や資料の準備は、欠かすことができません。

▼自己資金を計画的に準備してきたことの証明
公的な創業融資では、必要とする資金総額のうち、自己資金をどれくらい用意できるかが審査基準として設けられています。

自己資金の割合については、公庫融資では10%以上を求められます。

自己資金を調達した経緯の証明や、証拠となる通帳コピーを準備します。

創業に向け、計画性を持って準備してきたことを証明する資料を準備することによって、創業は突然の思い付きではなく、計画的に自己資金を準備してきた努力や、資金を管理してきた金銭管理能力を、正当に評価してもらうことができます。

自己資金の割合は、自己資金÷事業資金合計X100(%)で計算します。

したがって、公庫融資では10%以上の自己資金が必要ですから、事業に必要な資金の合計が2,000万円の場合、自己資金が200万円以上あれば問題ありません。

親や友人から借りた資金は、自己資金とは認められないので注意が必要です。

たとえば、事業に必要な資金の合計が1,000万円の場合、自分の貯金から50万円を用意して、親から50万円融通してもらっても、自己資金の割合は5%としか認めてもらうことができません。

▼経験と能力があることの証明
新たに創業する会社に対して、過去の実績を求めることはありません。

その代わり、創業する事業に関して、代表者が積んできた経験や能力が、どのように貢献するのかが審査されます。

実務家としてだけではなく、経営者としての資質や能力もチェックされます。

このため、同じ業界や業種の経験、また、これまでの職種が事業とどう関連するかなどについて、証明できる資料を準備しておくことが大切です。

具体的には、職務経歴書の作成や、関係する資格、免許などを整理しておけば役立ちます。

また、審査でチェックされる項目を確認しておけば、要点を把握することができます。

経営者としてチェックされる項目では、同じ業界での経験、店員や店長など経験した時の立場、表彰の実績などが重視されます。

これらに対応できる事実関係を整理しておくと安心です。

▼金銭的な信用がある証明
代表者の金銭管理能力は重要で、過去の税金やクレジットカードでの滞納など個人の信用情報がチェックされます。

このため、支払い忘れがない状態にすることはもちろんですが、長期のローンなどについては契約書や支払い状況を証明できる資料があると安心です。

過去一年分の公共料金や税金の滞納がなかったか、カードローンの頻繁な利用がなかったか、特異な口座の動きがあれば、説明できる証拠を整理しておくことが大切です。

ちなみに、過去に税金やクレジットカード、住宅ローンの滞納などがあって、金融機関のブラックリストに載っている場合は、審査には通ることができません。

その他にも準備しておきたい書類

公庫からの指示や要請の有無にかかわらず、自らの正当性や具体性を主張できる書類があれば、準備しておくと役立ちます。

商品や会社の案内やパンフレットは、提出できる書類としても重要です。

申請時の説明だけでなく、公庫内での審査や決済の際に、担当者から上司などへの説明がしやすくなるためです。

パンフレットなどに経営理念や企業のポリシーなどが記載されていれば、説明もしやすく、十分な説明時間がなかった場合でも、担当者が後で確認することもできます。

会社の経営に関する権利などがあれば、整理しておくと説得力があります。

たとえば、商標権や特許権など、営業力や他との差別化を証明する根拠となるような事実について、整理しておくことも大切です。

まとめ

創業融資を受けるためには、様々な書類を提出することになりますが、すべてストーリーが一貫していることが重要です。

そのためにも、協力してくれる家族や事業の仲間、あるいは専門家に相談しつつ、客観的に納得できる事業計画書を練り上げることが、最も重要だと言えます。

事業計画を練り上げることによって、事業全体を矛盾がないように整理することができます。

また、綿密に作成した事業計画書は、将来にわたって事業を進める上での拠り所になります。

特に、PDCAサイクルを効率的に回す際に、最適な指標となることは間違いないでしょう。(提供:ベンチャーサポート税理士法人