(本記事は、安達 裕哉氏の著書『頭のいい人が話す前に考えていること』=ダイヤモンド社、2023年4月19日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
コンサルに入ってまず、簡単にアドバイスするな、意見を言うな、とにかく相手に話してもらえ、と徹底的に教えられました。コンサルはアドバイスする仕事だと思っていた私は驚きました。
人間は、自分の話をしたい生き物です。知識があれば、披露したくなります。Aさんのマーケティングに対する知識は圧倒的に相手よりありました。なので、相手の話はそこそこに〝マーケティングはかくあるべき〞を語ることもできました。
しかし、Aさんはしなかった。なぜか。それは、
知識は披露するのではなく、だれかのために使って初めて知性となる
からです。
Aさんはマーケティングの知識はクライアントに比べて圧倒的にありましたが、それらの知識が必ずしも相手のためになるとは限りません。
ですからAさんは、本当に相手のためになることは何なのか?
を考えながら話を聞いていたのでしょう。マーケティングの知識を披露すれば、クライアントが「いい話を聞けた」と、満足するかもしれませんが、具体的な行動に結びつくとは限りません。ましてや「こうやればいいんですよ」と答えを提示したところで、相手の腑に落ちなければ、心が動かない。
Aさんは、知識を披露するのではなく〝一緒に考えて、自分で気づいてもらい、背中を押す〞ということをやったのです。結果的に、紹介した私まで大きな信頼を得ました。
知性があふれる瞬間
たとえば、コーヒーに詳しい男性がいたとします。
その男性が女性と喫茶店に入り、メニューを見ます。
女性がさまざまな飲み物の中から、「カフェオレ」を注文しようとしています。そこで、
「カフェラテとカフェオレの違いって知ってる? カフェオレはドリップコーヒーとミルクが5:5だけど、カフェラテはエスプレッソコーヒーとミルクが2:8の割合なんだよ。」
なんて話し始めたらそれは、知識の披露であり、賢いふりにすぎません。しかし、女性が「ちなみにデカフェってないんですかね?」と店員さんに聞いたときにこのように話したらどうでしょう。
「もしカフェインが苦手なら、カフェオレよりかカフェラテのほうがいいかも。」
「そうなんですか?」
「カフェオレよりカフェラテのほうがカフェインが少ないはずだから。」
と言ったなら、知識の披露ではなく、相手のために知識を使ったことになります。
人間は自分の話ばかりして、ベラベラ知識を披露している人に、知性を感じません。
大切なのは何かを話したくなったときに、〝それは相手のためになるか〞の視点で考えることです。もちろん、その知識が相手のためになるかどうかは、話してみないとわからないことです。そして、アドバイスに関しては、アドバイスする人はみな、 相手のためになる と思って言っています。
ただ、話す前に〝本当に相手のためになるのか?〞と立ち止まることで、知識を披露したいだけ、ただ言いたいだけの自分に気づくことができます。
頭のいい人は自分を客観的にとらえる能力に長けています。話す前に、相手の立場に立つことで、自分を客観視できるのです。
まとめると、話す前にちゃんと考えるということは、自分の知識の披露ではなく、〝これから話すことは本当に相手のためになるのか?〞という視点を持つことです。
とはいえ、人間は自分の知識を披露したくなるものです。それは、人間の基本的欲求のひとつである承認欲求が関わってきます。
次は、この承認欲求の話をしましょう。
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