HRテックとは? 急拡大の背景と代表的な3つの技術、中小企業で導入が進む理由
(画像=Nattakorn/stock.adobe.com)

(本記事は、森中 謙介氏、町田 耕一氏の著書『これ1冊でわかる 中小企業のHRテック入門~わが社でもできる! 導入から運用まで~』=あさ出版、2022年11月24日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

⦿技術革新で劇的に変わる人事の世界

✓新卒採用できなかった地方企業が今では応募が殺到して面接官が足りない!
✓リアルタイムで社員のモチベーションを可視化でき、離職率が大幅に改善!
✓人事評価システムがわずか1週間で完成!運用もシンプルで使いやすい!
✓面倒な人事・労務の手続きが自動化でき、作業時間を10分の1以下に削減!
✓クラウド化・ペーパーレス化で出社不要!在宅勤務でも労務管理はスマホで完結!

上記のような企業の成功事例をネットやテレビCMなどで見かけたことはありませんか。あるいはタクシー乗車時にディスプレイに表示される広告で、人事に関するデジタルサービスの情報を見たことはないでしょうか。

こうした事例は、本書で紹介する「HRテック」の効果の一部分です。

HRテックとは、簡単に言えば「人事業務をIT化する技術・サービス」のことと理解してもらってかまいません。

近年ではHRテックの市場が急速に拡大し、HRテックを幅広く活用する企業が加速度的に増えています。

HRテックの導入が進む背景については様々な要素がありますが、

背景❶
働き方改革、あるいはコロナ禍での在宅勤務対応など、急激な経営環境の変化に対応するために人事業務も複雑化、多様化が求められており、より効率的に人事業務を管理できるシステムが必要になってきたこと

背景❷
経営管理システム全体の中でもIT化が特に遅れていた「人事」の分野で、非常に安価かつ効率的に人事業務をサポートしてくれるシステムが開発されてきたことなどが挙げられます。

⦿HRテックの導入を後押しする最新の技術領域

人事課題の解決をサポートしてくれるシステムである「HRテック」は、次のような技術に支えられています。

HRテックを支える代表的な技術1 クラウド

クラウドによりWebを通していつでもどこでも情報にアクセスしやすくなり、システムの利用も格段に便利になりました。

たとえばYouTubeもクラウドで動いています。全体では信じられないほど膨大な動画情報を持っているのに、利用者はパソコン1台さえ必要なく、大量の情報にアクセスすることが可能です。

クラウドによって設備負担が大きく軽減されたと言えます。

HRテックに関しても、クラウドの技術により人事業務をクラウド上で管理できるシステム・サービスが増え、利用者は時と場所を選ばず、たとえばスマホ1つでシステムにアクセスし、必要な業務を行うことができます。

代表的な技術2 AI

AIの飛躍的な進歩によって、HRテックではAIが採用面接を行ったり、入社後の最適な人員配置を分析したり、社員のモチベーションをリアルタイムで可視化したりといったことが行われています。

代表的な技術3 RPA技術の応用

RPAとは、PC内で同一の作業を繰り返し実行する技術です。ある条件を設定すれば、自動で入力と出力を繰り返してくれるので、たとえば給与計算や勤怠管理など、比較的ルーティン作業の多い労務管理の分野で用いられています。

⦿中小企業だからこそHRテック活用のメリットは大きい

読者の多くは、HRテックはどちらかというと大企業向けの取り組みであり、大半の中小企業には人事業務のシステム化などは関係がないと思っているかもしれません。

事実、中小企業には「人事」といった業務が体系化されていないところもまだまだ多く、そもそも人事担当者がいなかったり、人材の採用や配置、評価などもアナログな世界で実務が行われています。

ところが実際には、HRテックは大企業よりも、むしろこうした中小企業で多くの成果を出していることに注目すべきです。

もちろん大企業でも利用されていますが、多くの大企業では独自開発した従来の人事管理システムを用いています。

近年のHRテック事業者には、大規模なシステムを構築する経済的余裕のない中小企業をターゲットに、システム上で扱える人事業務の領域を絞って、安価で簡易に利用できるサービスの開発を意識的に行っているところもあります。

こうした状況と中小企業を取り巻く経営環境がよりよくマッチしていることも、HRテック利用者が増えている背景となっています。

今後、中小企業でも体系的な人事管理を行っていかなければ、優秀な人材の確保・定着が困難になってきているのです。

特に人材の確保は中小企業にとって死活問題です。

HRテックをうまく活用することでコロナ禍でも人材の採用に成功した企業がある一方で、従来どおりの方法から変化できず、新規の採用に失敗し、また既存の社員の離職が増加して事業継続ができなくなった企業も出てきています。

こうした中でHRテックを活用していくことは、中小企業にとって大きなメリットがあります。

そのメリットとは次のようなことです。

導入のメリット1 人事情報の可視化と一元化

採用時の情報から入社後の人事情報、能力や経験、教育訓練の状況、人事評価結果など、社員の人事情報は管理方法が属人化しやすく、また社内の様々な部署で分散的に収集されていることが多く、多くの中小企業では依然として体系的な管理が行われているとは言えない状況です。

この点HRテックにより、様々な人事情報を可視化し、また一元的に管理しやすくなります。

今までは断片的にしか見えていなかった人事情報を統合的に管理することで、より適切な経営判断に活かせるデータにできます。

これ1冊でわかる 中小企業のHRテック入門~わが社でもできる! 導入から運用まで~
森中 謙介(もりなか・けんすけ)
株式会社新経営サービス人事戦略研究所マネージングコンサルタント
中小企業経営者への人事制度構築・改善のコンサルティングを中心に、これまでにかかわった会社は90社にのぼる。各社ごとの実態に沿った、シンプルで運用しやすい人事制度づくりに定評がある。「人事制度を軸にした“人・組織の成長”」をモットーにしており、制度導入後も経営理念、経営方針の浸透、あるいは評価者教育の推進など、幅広い支援を行っている。そのためクライアントとのかかわりは中長期にわたることが多く、リピーターも多く有している。
著書に、『9割の会社が人事評価制度で失敗する理由』(あさ出版、2019)、『人手不足を円満解決 現状分析から始めるシニア再雇用・定年延長』(第一法規、2020)、『社内評価の強化書~上司の“評価エラー”を逆手に取る出世の法則~』(三笠書房、2018)、『社員300 名までの人事評価・賃金制度入門』(中央経済社、2016)などがある。
町田 耕一(まちだ・こういち)
株式会社新経営サービス人事戦略研究所コンサルタント
大学院修了後、大手ERP 開発企業で人事給与システムの導入・保守に携わる傍ら、残業削減を含む社内改善にも携わり、成果を出す。新経営サービス入社後は、人事・情報技術の知見を活かし、人事制度策定・運用だけでなく、HRテックの導入・活用に対する顧客への提案も積極的に行っている。 新経営サービス内でのHRテック導入を主導した実績をもち、中小企業で一からHRテックを導入する際の留意点や、また社内でHRテックを扱える人材の育成手法にも明るい。 また、システム開発経験のある人事コンサルタントとして、HRテック事業者へのシステム開発協力も精力的に行っており、同業界の最新事情にも精通している。 G検定(AI活用能力)に2019 年3月合格後、E 資格(AI作成能力)合格者との限定コミュニティ(5万名以上)で活動。「NEWS+」グループのリーダー。2022年に貢献に対する投票等で決まる最優秀賞をグループ・個人とも受賞。英国王室公認品質協会(CQI|IRCA)から、世界80か国、2万名以上の会員に発刊された『Quality World』誌2022年秋号のAI特集記事への寄稿にも協力。

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