2022年、世界的にカーボンニュートラルへの関心が高まっています。金融機関においては、自組織のGHG(温室効果ガス)削減だけでなく、取引先企業への支援が求められています。具体的にはどのような取り組みをすればよいでしょうか。本記事では、カーボンニュートラルの第一歩、GHG排出量の可視化方法を前後編に分けてご紹介していきます。
はじめに
2022年、日本企業はプライム市場上場企業※を中心に中長期的なカーボンニュートラルへの取組みに対するコミットメントが求められています。
背景としては、日本政府の2050年までのカーボンニュートラル宣言、2022年よりプライム市場では気候変動関連の情報開示が求められるようになったことが挙げられます。
また、近年では消費者の価値観にも変化が見られ、サステナブルでない企業にはイメージ低下のリスクも生じてきています。
このような潮流の中、金融機関にとっては気候変動対応に対し二つの対応方針が求められています。
一つ目は一事業者として自組織の脱炭素推進、もう一つは取引先企業の脱炭素経営支援です。
特に取引先企業の支援については直近の対応すべき課題といえるでしょう。
従前から金融機関は企業の経営支援に携わってきた側面もあり、金融庁からも積極的に気候変動に係る企業支援を実施する旨の方針が公表されているためです。
企業がカーボンニュートラルに取り組むためには、まず現状を把握・分析しなければなりません。
本記事では、現状把握の第一段階である、GHG(Green House Gas「温室効果ガス」)排出量可視化の具体的な算定方法を解説します。 前編では主に自社のGHG排出量算定、後編ではサプライチェーン全体のGHG排出量算定と更にそこから見えてくる、企業が直面するだろう課題も一部ご紹介していきます。
※旧東証一部上場企業の中でも特に時価総額の大きな企業
GHGプロトコルとは
SDGsやESG経営の一環として企業はカーボンニュートラルへ取り組む必要性がより一層高まっています。
日本では2022年度よりプライム市場に上場している企業に対してTCFD提言※に則り、気候変動対策への対応状況を報告する義務が生まれました。
その中でも、まずは企業が現時点で環境に対してどれほどの負荷をかけているか定量的に示すため、CO2やメタンなどのGHG排出量を算定することが気候変動対策へのファーストステップとして捉えられています。
※気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures, TCFD)提言。企業等に向けて、気候関連のリスク、機会、及び財務的影響を示し、情報開示が推奨される項目等を持ち掛けたもの。2022年10月時点で3000を超える企業が賛同しています。
それでは企業が直接、もしくは電力使用などで間接的に排出するGHGは一体どのように算定されているかご存じでしょうか?
現在、企業がGHG排出量を算定・報告する際の基準として「GHGプロトコル」というルールが国際的なスタンダードとなっています。
「GHGプロトコル」とはWBCSD(世界経済人会議)とWRI(世界資源研究所)が主導して策定したGHG算定に関するガイドラインです。
TCFD提言の中でも企業は「GHGプロトコル」に準拠してGHG排出量を開示することが推奨されています。
「GHGプロトコル」では企業の排出するGHGの排出区分をScope1~3という表現で3つの領域に分類しています。
Scope1とは自社が直接排出するGHGです。
例えば、工場での燃料燃焼や自家用車の移動に伴う排出などが対象とします。
Scope2は事業活動に伴い間接的に排出するGHGです。
例えば、電力会社など他社から調達した電気や蒸気、熱の使用に伴う排出などが対象とします。
これらに対してScope3は事業活動のライフサイクル全体におけるGHG排出量を指します。
自社だけでなく、自社に関係するサプライチェーンの上流から下流まで、原材料の調達・輸送や加工、廃棄にかかるガスを対象とします。
元々日本では製造業のような一部の排出量が多い事業者に対して、「GHGプロトコル」におけるScope1、2相当の排出量の報告が温対法、省エネ法により義務化されていました。
しかし、TCFD提言では全ての企業に対してScope3までの算定・開示を推奨しており、国際的な気候変動関連イニシアチブでもScope3までを開示対象としています。
どの企業もサプライチェーン全体を意識したGHG排出量の可視化が求められるようになっているのです。
このような背景から、環境省は「GHGプロトコル」に整合させた国内版ガイドラインとして「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」を公表しています。
環境省の本ガイドラインに則り、前編ではScope1、2の具体的な算定方法、後編でスコープ3の算定方法とGHG排出量策定における課題を解説します。
Scope1、2の算定方法
まずはScope1~2に該当するGHGの算定方法を解説する前に、Scope3を含めたGHG算定における基本的なアプローチを紹介します。
GHG算定には大きく二つの手法があります。
① 無償公開/有償提供されているデータを用いる手法
無償公開/有償提供されている燃料や電気の使用に伴う平均的なGHG排出量の統計データと、実際に自社が使用している燃料や電気の使用量の数値を掛け合わせて計算する。
※ご興味のある方は囲み内をご覧ください。
使用した燃料や電気、調達資材などの物理的な量を活動量とします。 それぞれの活動量が単位当たりに平均的に排出するであろうGHGの統計的な値を原単位とします。
(活動量)×(原単位)
この式でGHG排出量を概算することができます。
② 自社で収集したデータを用いる手法
燃料や電気の供給企業、サプライチェーンの上流企業などから直接GHG排出量を取得する。
当然、②の方が算定結果の精度は高くなるのですが、日本だけでなく世界的にもまだ各企業はGHG可視化に取り組んでいる過渡期にあります。
②のアプローチで算定をするとなると対象の各企業からデータの提供依頼をする必要があるため、算定難易度が跳ね上がってしまいます。
このことから環境省は一部原単位のDBを無償で公開し、①の手法での排出量算定ガイドラインを提供しているのが今の実態です。
では、ここからは具体的なScope1~3の算定方法を紹介していきます。
Scope1の算定方法
Scope1では企業が直接燃料を燃焼して排出しているCO2の算定がメインとなり、その他にも工業プロセスにて発生する7種類のガス※が算定対象となっています。
※メタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、ハイドロフルオロカーボン(HFC)、パーフルオロカーボン(PFC)、六フッ化硫黄(SF6)、三フッ化窒素(NF3)
CO2以外のGHGについては環境省が業種ごとに算定を推奨している事業活動があります。
自社の業種と事業が該当するか確認し、必要な活動量データを収集してガイドラインの原単位を掛け合わせて排出量を算定する必要があります。
金融機関のような、事業活動に工業的なプロセスが存在しない業種についてはScope1の算定対象はCO2が大半となります。
社用車における燃料消費やオフィスビルにおける都市ガスの使用が主です。
企業は燃料に関する購買データから、燃料使用量を求めます。 燃料使用量に単位当たりの平均GHG排出量を掛け合わせることでScope1のGHG排出量を算定することができます。
Scorpe1の算定
(燃料使用量)×(単位当たりの平均GHG排出量)
Scope2の算定方法
Scope2では他社から供給された電気、熱の使用に伴う間接的なCO2排出量を算定する必要があります。
そのため、まずは電気や熱の供給会社による明細書を基に実際の月間、年間の供給量データを収集します。
供給量に対して単位当たりの平均GHG排出量を掛け合わせることでScope2のGHG排出量を算定することができます。
Scorpe2の算定
(電気・熱の供給量)×(単位当たりの平均GHG排出量)
ただし、電気由来のCO2排出量算定には二つの考え方が存在し、国や地域における平均的なGHG排出量を用いる手法をロケーションベースと呼び、各電力会社が公表している電力会社ごとの平均的なGHG排出量を用いて算定する手法をマーケットベースと呼びます。
2022年10月時点、どちらの手法も採用可能ですが、両方の算定結果を開示することが推奨されています。
後編に続きます。
【後編】カーボンニュートラルへの第一歩!企業のGHG排出量可視化方法を解説
※本記事の内容は、執筆者および協力いただいた方が所属する会社・団体の意見を代表するものではありません。