(本記事は、内藤 誼人氏の著書『最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』=総合法令出版、2021年9月10日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
校長先生の話が記憶に残らない理由
話というものは、相手に興味を持ってもらわないとまったく意味がありません。どんなにありがたい話であっても、相手にそれを聞く気がなければ、左の耳から右の耳へと、ただ通り過ぎるだけで終わってしまいます。
小学校や中学校時代に、校長先生の話が、やたら長くて 辟易 した、という思い出はありませんか。ものすごくいいお話をしていたのかもしれませんが、その内容について、まったく記憶がない人も多いはずです。それは話に興味がなかったので、耳に入ってこなかったからです。
話をするときには、その話に相手がどれくらい興味を持っているのかを見極めることが大切です。
「この人はあまり興味がなさそうだな」というときには、話を要約して伝えたり、詳細な部分を削ったり、面白いたとえ話などを交えるとよいでしょう。ブッダはそのような伝え方をしていたといいます。「人を見て法を説く」というやつですね。
イェール大学のパメラ・ウィリアムズ・ピエホタは、約520名の女性に対して、乳がんとマンモグラフィ検査についての文章を読んでもらいました。
ただし、文章は2種類用意しておきました。「マンモグラフィ検査で乳がんを早期発見できれば、命が助かりますよ」という簡潔な内容のものと、マンモグラフィ検査がどういうものなのかを詳細に説明した内容のものです。
また、ピエホタは、それぞれの女性が、乳がんの検査にどれくらい興味があるのかも事前に教えてもらいました。
文章を読んでもらってから、半年後、実際にどれくらいの割合の女性が乳がん検査を受けたのかのデータは上のようになります(表⑫)。
検査に興味がある人は、詳細な文章のほうを好みました。もともと興味があるので、詳しく教えてもらうことで検査をしようという気持ちになったのですね。
ところが興味がない人には、詳しい情報を与えることは逆効果でした。むしろ、簡潔な文章を読んだことで検査を受ける人が増えています。
保険の外交員ですとか、営業の人の中には、相手がまったく興味がないというのに、とても熱心に、詳しく説明しようとする人がいますが、それはあまり効果的ではありません。相手が、「はぁ、はぁ…」と気乗りのない相づちを打っていたら、それは興味がないという証拠ですから、深追いしないほうがいいかもしれません。