最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100
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(本記事は、内藤 誼人氏の著書『最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』=総合法令出版、2021年9月10日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

人は「お腹が空いた」から食事をするのではない

私たちは、お腹が空いたと感じるから食事をするのではありません。

食事をとってからしばらく時間が経過しているので、食事をしよう、と思うのです。生理的に空腹感が襲ってきたから食べるのではなく、前に食べたのが何時だから、そろそろお腹が空くはずだ、という記憶によって食事するかどうかを決めるのです。

ペンシルバニア大学のポール・ロジンは、「人は記憶によって食事を決める」という仮説を検証するため、健忘症の男性で実験をしてみました。

健忘症の人たちは、自分がいつ、どれくらい食事をしたのかの記憶もあいまいですから、他の人から「そろそろ食事の時間ですよ」と言われたら、たとえお腹がいっぱいでも、食事をしてしまうのではないか、とロジンは考えました。

実験してみると、まさにその通りでした。

食事がすんで、まだ10分から30分しか経っていないのに、「食事の時間ですよ」と言われると、健忘症の人たちは普通に食事をしたのです。

さすがに2回も食事をしたら、満腹感もあって、食事をやめるだろうと思いますよね。

ところが、さらに2回目の食事がすんでから、10分後から30分後に、「食事の時間ですよ」とロジンが伝えると、健忘症の人たちはなんと3回目の食事もしてしまったのです。

私たちは、空腹感や満腹感で食事をするかどうかを決めているのではありません。

いつ食べたかの記憶によって食事を決めるのです。

なお、この実験には、ちょっとした裏話もあって、3回目の食事がすみ、「実験は終了しました」と伝えると、一人の男性がロジンのほうに近寄ってきて、「先生、実験も終わったことですし、そろそろ外に何か食べに行きませんか?」と誘ってきたというのです。

他の動物は、お腹がいっぱいになったら、たとえどんなにおいしそうなエサを目の前に出されても、決して食べたりはしません。食べる必要がないときには、食べないのです。

ところが、人間は違います。人間は、記憶によって食事をするかどうかを決めているので、記憶がないときには、いくらでも食べようとしてしまうのです。

認知症になると、記憶力も阻害されてしまうため、きちんと食事の記録をつけておかないと、いくらでも食事をしてしまいますので注意が必要です。

記憶力を失ってくると、普段の生活にも大きな影響を及ぼすことは想像ができますが、まさか食事にも影響するとは驚きですね。

最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100
内藤 誼人
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。趣味は釣りとガーデニング。 著書に、『裏社会の危険な心理交渉術』『世界最先端の研究が教えるすごい心理学』(以上、総合法令出版)など多数。その数は200 冊を超える。

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